日本メーカーが開発で先行した太陽光パネルでは技術的な差異化が困難となり、中国勢のコスト競争力の前に大幅減産を強いられた。風力発電市場においても同じ轍を踏まないためには、他社にまねのできない技術的な差異化戦略を徹底することが求められた。
日本の戦略は欧州勢が先行する「着床式洋上風力発電」に比べて費用対効果の大きい「浮体式洋上風力発電」を推進し、日本製風車を中心に国内市場を拡大する狙いであった。しかし、事業規模でまさる欧米メーカーにコスト競争で負け、国内有数の風力発電機メーカーが撤退したことで頓挫した。
洋上風力発電とは
風力発電は再生可能エネルギーの中では発電コストが安いため、2000年以降は安定的に導入量が増えた。しかし、国内では陸上風力発電の立地に適した場所が減少し、建設コストの上昇が懸念され始め、加えて安価な中国製風車による追撃が始まった。
洋上風力は騒音やシャドーフリッカーなどの問題を抱える陸上風力に比べて、立地の制約が少なく大型機の設置も可能である。また、洋上では安定した強風が吹き、高い発電容量と設備利用率を得ることも可能である。2014年、固定価格買取制度(FIT)による洋上風力の導入促進に舵が切られた。
しかし、洋上風力を建設するには海底に土台を造って風車を立て、海底送電ケーブルを敷設するなど送電網整備が必要である。そのため、建設コストが総事業費の1/2超を占めるとされ、欧州勢を中心に風車を大型化して台数を減らし、建設コストを下げる開発が進められた。
洋上風力発電は水深50m程度を境に、図10のように風車タワーが海底に直接固定されている「洋上着床式」と、風車自体を海面に浮かべて係留する「洋上浮体式」の2タイプに大別される。
洋上着床式は欧州勢により北海・バルト海で広く実用化が進められ、地盤が安定した平坦な浅海部は重力式、傾斜した海底では地盤強度に応じて杭式(水深20m以下はモノパイル式、30m以下はジャケット式、30m以上はトリパイル式)が開発された。
さらに高出力を狙うには、風力の強い沖合に風車を設置する必要がある。水深が50m程度を超えると基礎構造物が巨大となるため、洋上浮体式の実用化の実証試験が進められている。欧州では2030年頃には着床式で設置できる海域が減り、浮体式の導入が増えると考えられる。
洋上浮体式の風力発電の実証研究は欧米や日本で進められ、セミサブ型(半潜水型)、パージ型(平底船型)、スパー型(細長円筒型)、係留方式によりカテナリー式(弛緩式)と、テンションリグ式(緊張式)、係留しないセーリング式などが開発されている。
日本における洋上風力発電の開発と導入
洋上着床式の実証試験
2003年12月、日本初の洋上着床式である「せたな町洋上風力発電所」が稼働した。北海道瀬棚町瀬棚港東外防波堤の陸側水域である沖合約700m(港湾区域、水深約13m)に設置された。
基本設計を海洋産業研究会、詳細設計を含むシステム・エンジニアリングを川崎重工業が担当した。ヴェスタス製風車2基(総出力:1200kW)が設置され、海底砂中に埋設された全長1.2kmの海底ケーブルで陸上部の受変電設備に送電され、北海道電力に全量売電している。
2004年1月、山形県酒田市で住友商事子会社のサミットウィンドパワーが酒田風力発電所(8基、総出力:1.6万kW)が稼働し、東北電力に全量売電している。ヴェスタス製風車(V80-2.0MW)を、酒田北港西護岸と離岸堤の間の約1500m水路上に5基、隣接する宮海海岸陸上部に3基が設置された。
2014年、ジャパン・リニューアブル・エナジーが取得しJRE酒田風力発電所として稼働している。
2010年7月、茨城県鹿島港にウィンドパワーGrが国内初の外洋設置された着床式・モノパイル式のウィンド・パワーかみす第1洋上風力発電所(7基、総出力:1.4万kW)が稼働した。富士重工業製のダウンウィンド型2000kW級風車(SUBARU 80/2.0)が設置された。
また、2013年3月、ウィンドパワーかすみ第2洋上風力発電所(8基、総出力:1.6万kW、1基のみ陸上設置)が南海浜地区工業団地の海岸道路から約50m沖合いの防波堤上に建設されて稼働した。
2013年1月、東京電力HDと東京大学は、千葉県銚子市沖3.1km、水深12mで沖合着床式洋上風力実証事業(1基、出力:2400kW)を開始した。併設された観測タワーで波浪と風の観測評価、予測手法の開発と検証、海生生物や鳥類などの環境影響調査が行われた。
ギア式の三菱重工業製風車(MWT92/2.4)が採用され、鉄筋コンクリート製ケーソン基礎(重力式)に連結された。海底ケーブル(22kV)により、陸上の変電設備を経由して銚子市潮見町などの配電網に連系され、2019年1月より商業運転を開始した。
2013年6月、電源開発、伊藤忠テクノソリューションズ、港湾空港技術研究所は北九州市沖1.3km、水深14mで着床式洋上風力発電実証事業(1基、出力:2000kW)を開始した。
風車はギアレス式の日本製鋼所製風車(J82-2.0)で、基礎部分には海底の捨石マウンド上に底版コンクリートと一体化したジャケットを設置する重力・ジャケットハイブリッド式が採用された。
2019年10月には建設・撤去の知見を得るためとして、洋上風力工事用船舶(SEP船:Self-Elevating Platform Vessel)を用いて撤去された。
2015年2月、ユーラスエナジーは秋田市向浜に着床式・ドルフィン(係留杭)のユーラス秋田港ウインドファーム(6基、総出力:1.8万kW)を設置し実証試験が進められた。Siemens製3000kW風車(SWT-3.0-101)が採用され、2022年2月から商業運転を行っている。
以上のように、洋上着床式については各種の風力発電設備が設置されて実証試験を完了し、その後、商業運転(総出力:6.76万kW)に移行している。
洋上浮体式の実証試験
2012年3月、丸紅、東京大学、三菱商事、三菱重工業、ジャパンマリンユナイテッド、三井造船、新日鐵住金(現日本製鉄)、日立製作所、古河電気工業、清水建設、みずほ情報総研による福島洋上風力コンソーシアムは、福島県楢葉町沖約20kmでの浮体式洋上ウィンドファーム実証事業を公表した。
第一期実証事業(2011~2012年)では、変電所と気象・海象・浮体動揺等の観測機器を搭載した浮体式洋上サブステーションと、日立製作所製ダウンウィンド型風車(HTW2.0-80)「ふくしま未来」(1基、定格出力:2000kW)を搭載した4コラム型セミサブ浮体が、2013年12月に稼働した。
一般的な洋上風力の商用化の目安は設備稼働率が30~35%以上とされる中、「ふくしま未来」の設備稼働率は約34%でぎりぎり到達したが、最終的には2021年8月撤去された。
第二期(2014~2015年)では、三菱重工業製油圧式ドライブ型風車(1基、定格出力:7000kW)搭載の3コラム型セミサブ浮体が、2016年4月に稼働。日立製作所製ダウンウィンド型風車「ふくしま新風」(1基、定格出力:5000kW)搭載のアドバンストスパー浮体が、2017年5月に稼働した。
「ふくしま新風」の設備稼働率は約24%と低く、2021年7月撤去された。油圧式ドライブ型風車は機器の不具合で設備利用率が約4%と極端に低く採算が見込めず、撤去工法の検討を進め2020年6月に撤去された。三菱重工業と日立製作所による大型洋上風力開発がとん挫したのである。
2012年8月、戸田建設、富士重工業、芙蓉海洋開発、京都大学、海上技術安全研究所は、長崎県五島市椛島沖約1km、水深100mの海域で、国内初の浮体式洋上風力発電実証事業(1基、出力:100kW)が開始された。浮体形式はスパー型、3本チェーンのカテナリー係留方式が採用された。
2013年からは、風車を日立製作所製2000kWダウンウィンド型風車(HTW2.0-80)に置き換えて実証試験が進められた。
2016年3月、福江島崎山漁港沖約5kmに移動し、五島市と五島フローティングウィンドパワー合同会社により崎山沖2MW浮体式洋上風力発電所「はえんかぜ」として商業運転を開始し、電力は海底ケーブルで福江島の変電所に送電されている。
2019年5月、丸紅、日立造船、グローカル、エコ・パワー、東京大学、九電みらいエナジーは、北九州市沖約15km、水深約50mの海域にバージ型浮体式洋上風力発電システム「ひびき」(1基、出力:3000kW)を設置して実証試験を開始した。
ロの字形の平底船であるバージ型の鋼製浮体構造物に、コンパクトな2枚翼アップウィンド型風車(ドイツAerodyn engineering製)を搭載し、スタッドレスチェーンと超高把駐力アンカーを組み合わせた計9本での係留システムが採用された。風速50m超の巨大台風にも耐える設計である。
2018年秋~2021年度に実証運転を行い、九州電力の系統に接続され、2030年頃の商用化(発電コスト:20円/kWh)を目指している。
一方で、グローカルはアエロダインとの技術提携により、2枚翼風車(SCD3000kW、6000kW、8000kW)の販売を開始した。
以上のように洋上浮体式についても各種の実証試験が行われたが、風車の大型化開発は明らかに失敗した。国内の有力風車メーカーである三菱重工業と日立製作所が相次いで風車開発からの撤退を表明した結果、大型風車は欧米製を導入せざるを得ない状況となった。
現時点で浮体式の実証試験で、商業運転に移行したものは総出力:0.5万kWに過ぎない。
港湾における洋上風力発電プロジェクト
FITによる買取価格が洋上風力の場合は2014年に36円/kWと高めに設定され、FIPでも2022年まで着床式29円/kW、2024年まで浮体式36円/kWと優遇されている。そのため建設が比較的容易な港湾区域内を対象としたプロジェクトが進められており、商業運転が始まっている。
2023年1月、秋田洋上風力発電は、ヴェスタス製4200kW風車を秋田港に13基、能代港に20基設置した着床式・モノパイル式洋上風力発電所(総出力:14万kW)の商業運転を開始したと発表した。発電電力の全量を、FITにより20年間にわたり東北電力ネットワークに売電する。
2022年9月、合同会社グリーンパワー石狩は、北海道石狩湾新港の港湾区域内に単機出力:8000kWのシーメンス・ガメサ製8000kW風車を設置した着床式・ジャケット式石狩湾新港洋上風力発電所(14基、総出力:11.2万kW)の新設工事に着工した。2023年12月の商業運転を予定している。
2022年12月 ひびきウインドエナジーは北九州市響灘沖に計画される「北九州響灘洋上風力発電事業」の各種工事などの契約締結を発表した。ヴェスタス 製9600kW風車を設置した大規模ウィンドファーム(25基、総出力:24万kW)で、2022年末に着工、2025年度の稼働を予定している。
発電した電力は、FITにより36円/kWhで20年間にわたり九州電力送配電に売電する。
2022年3月、ウィンド・パワー・エナジー、東京ガス、日本風力エネルギーは、茨城県鹿島港南側の港湾区域内で計画している着床式洋上風力発電事業(総出力:16万kW)の運転開始を2026年に前倒しすると発表した。海岸線から600~1500m沖合に出力:8000kWの大型風車19基を設置する。
その他、むつ小川原港洋上風力開発が、青森県上北郡六ヶ所村むつ小川原港で、総出力:8万kWの洋上ウィンドファームを計画しているが、環境アセスメントの段階から大きな進捗はない。
以上のように、港湾における洋上着床式については2023年に14万kWが商業運転を開始したが、予定通りに開発が進められても、2030年までに累計出力で65万kW程度に留まるであろう。
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