日本はエネルギー自給率が12.1%と世界的にみても低い。これは石炭・石油・天然ガスなど化石燃料への依存度が高く、そのほとんどを輸入に頼るためである。その結果、輸入先の社会情勢や国家間の関係性などの影響を受け、現在の「電力ひっ迫」や「電気料金高騰」などに大きく影響している。
エネルギー自給率を上げるためには、再生可能エネルギーの導入が有効であるが、その旗頭である太陽光発電について、自前の優れた太陽光パネル技術を有するにも関わらず、安価な中国製を導入しているのが現状である。国産パネルの保護・育成に向け、政策転換の潮時ではないか?
国内太陽光発電の抱える問題
何故、日本メーカーは苦境に陥ったのか?
太陽光パネルは、2000年代前半にはシャープが世界シェア1位で、京セラ、パナソニック、三菱電機などの日本企業が上位5社を占めていた。しかし、中国・韓国企業が2010年前後に急拡大していた欧州市場向けに大幅な設備投資を進めた結果、現在は中国企業が世界シェア1~5位を独占している。
日本企業は総合電機メーカーが太陽光パネルの生産を手掛け、専業メーカーに比べて投資規模で劣り、原材料であるシリコン調達などでコスト競争に負けたのである。明らかに貿易摩擦が発生し、国内企業の保護が必要な状況にも関わらず、十分な政府支援は行われなかった。
コモディティ化が進むシリコン系太陽光パネルは、他メーカーへの入れ替えが容易であるため、毎年上位順位が変動する過当競争市場であり、太陽光パネルの価格は年々低下している。当面は規模の経済によるコスト優位の中国企業がシェア上位を占め、日本企業の再参入は難しい。
2023年2月、東芝エネルギーシステムズは住宅用太陽光発電システムの新規販売の終了を発表した。東芝は2010年に提携した米国サンパワー製の太陽光パネル(変換効率:20%超)を使い発電システムの供給を進めてきたが、国内外の多くのメーカーが市場参入し、競争が激化した結果の撤退である。
産業用太陽光発電事業については継続を表明しているが、大型のパワーコンディショナーや受変電設備に強みがあるためで、安価な中国製太陽光パネルの拡大は止まらない。
国際エネルギー機関(IEA)の予告
2022年7月、国際エネルギー機関(IEA)は太陽光パネルの主要製造段階での中国シェアが8割を超えると公表した。2021年にはポリシリコンの世界生産能力の79%を占め、その42%は新疆ウイグル自治区にある。主要素材のポリシリコンやウエハーは、今後数年で中国シェアが95%になる。
その結果、中国で火災や自然災害が発生すれば世界への供給が滞るほか、価格上昇につながる可能性があり、中国と西側諸国の対立が深まれば輸出が止まるリスクもある。今後、生産地の多様化を進める必要性をIEAは訴えている。
日本はエネルギー自給率が12.1%と世界的にみても低い。これは石炭・石油・天然ガスなど化石燃料への依存度が高く、そのほとんどを輸入に頼るためである。その結果、輸入先の社会情勢や国家間の関係性などの影響を受け、現在も「電力ひっ迫」や「電気料金高騰」などが起きている。
エネルギー自給率を上げるためには、再生可能エネルギーの導入が有効であるが、その旗頭である太陽光発電について、自前の優れた太陽光パネル技術を有するにも関わらず、安価な中国製を導入しているのが現状である。国産パネルの保護・育成に向け、政策転換の潮時ではないか?
次世代太陽光パネルの危機
最近、ペロブスカイト型太陽電池(PSC:Perovskite Solar Cell)への注目度が高い。色素増感型太陽電池の一種であるPSCは、従来の色素の代わりにペロブスカイト結晶構造を持つ有機無機混合材料を用い、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発表したもので、世界中で研究が進められている。
PSCはフィルムなどの基板に有機無機混合溶液を塗布して製造するため、低コストで軽量で柔軟なため、既存の太陽光パネルが設置できない耐荷重の小さい工場屋根や湾曲した壁面などにも設置できる。積水化学工業、東芝、アイシンなどが2025年以降の事業化を目指して研究開発を加速している。
2022年8月、積水化学工業はJR西日本が開業を目指す「うめきた(大阪)地下駅」にフィルム型PSCを提供・設置すると発表した。積水化学工業は独自に30cm幅のロール・ツー・ロール製造プロセスを構築し、変換効率15.0%、屋外耐久性10年相当の特性を確認している。
今後、実用化に向けて1m幅の製造プロセスの確立、耐久性や効率のさらなる向上を目指している。
また、2023年2月、積水化学工業とNTTデータは、フィルム型PSCを建物外壁に設置する実証実験を、2023年4月から開始すると発表した。
2023年2月、東芝は、桐蔭学園・東急・東急電鉄・横浜市が東急田園都市線の青葉台駅正面口改札前自由通路にPSCを設置し、屋内光での発電実証を実施するため、大面積(24.15cm×29.10cm、面積702.8cm2)のフィルム型PSCを提供すると発表した。
東芝は独自のメニスカス塗布法で製造し、大面積での変換効率16.6%を確認している。
以上のように、次世代太陽光パネルと目されている日本発のペロブスカイト型太陽電池(PSC)は、国内ではNEDOなどの政府支援を受けて発電実証が進められている。一方で、PSCの量産に関しては、次のような報道が流れた。
2022年7月、中国のスタートアップ大正微納科技が薄くて曲がるペロブスカイト型太陽電池の大型パネルで世界初の量産を始めた。製造コストは既存の太陽光パネルの3倍だが、将来シリコン系太陽電池の半分まで下げられる可能性があり、スマートフォンへの搭載を想定している。
開発段階で日本が先行している次世代太陽電池のペロブスカイト型PSCについても、量産への投資に消極的な日本企業を尻目に中国企業が動き始めているのである。シリコン系太陽電池の二の舞を演じて、同じ失敗を繰り返すことになるのか?
政府は研究開発段階の支援のみならず、企業における事業推進段階においても十分な指導とサポートを行い、世界で通用する大企業を育成する必要がある。今後も1企業だけの損得勘定に任せれば、リスク回避により次世代太陽電池についても早期の縮小・撤退が待っている。
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