2012年7月にFIT法が導入されて以降、太陽光発電の急速な伸びが報道された。しかし、急速なFIT買取価格の引き下げと、電力貯蔵システムの遅れによる出力制御の問題が多発し、国内での太陽光発電の導入量は徐々に鈍化している。
PSCの開発は、国内での太陽光発電の導入拡大が目的なのか?安価なシリコン系太陽光パネルで世界を席巻した中国メーカーからのシェア奪還なのか?二兎追うものは、一兎も得ず!
国内で進められているPSC実証試験
2022年8月、積水化学工業はJR西日本の「うめきた(大阪)地下駅」にフィルム型PSCを提供・設置すると発表。積水化学工業は独自に30cm幅のロール・ツー・ロール製造プロセスを開発し、変換効率15.0%、屋外での耐久性10年相当を確認している。
2023年2月、東芝は、桐蔭学園・東急・東急電鉄・横浜市が東急田園都市線の青葉台駅正面口改札前自由通路にPSCを設置し、屋内光での発電実証を実施するため、大面積(24.15cm×29.10cm)のフィルム型PSCを提供すると発表。独自のメニスカス塗布法で製造し、大面積で変換効率16.6%を確認している。
2023年4月、積水化学工業とNTTデータは、フィルム型PSCを建物外壁に設置する実証実験を開始した。
2023年5月、積水化学工業は、東京都とPSCの実証実験を大田区の森ヶ崎水再生センターで開始した。大きさの異なるPSCを3種類、各3枚(合計面積は約9m2、合計出力:約1kW)を、水処理施設の反応槽覆蓋上部に設置した。
2023年10月、日揮HDは、出資するエネコートテクノロジーズが開発するPSCで電力事業を始める。物流倉庫や工場などの屋根や壁を借りてPSCを設置し、得られた電力を固定価格で売電する電力小売事業である。
2024年に北海道苫小牧市の物流倉庫を使い変換効率や耐久性を実証し、2026年の発電をめざす。大量生産や壁面取り付け工法の開発で、2028年までに発電コストをシリコン系太陽電池を下回る水準にする。
2023年10月、半導体商社マクニカは、宮坂力特任教授が代表のペクセル・テクノロジーズ、フィルム加工メーカーの麗光と連携し、約15m2のPSC(出力:1.5kW)を2024年春頃までに横浜港大さん橋に設置し、塩害など過酷な環境下での耐久性や変換効率などを調べる。
2025年度には10倍超の規模で実証実験を行う。耐久性に関しては、発電部のモジュールなどが劣化した際には交換できる設計とし、交換式による経済性も検証する。
2023年10月、積水化学工業と積水樹脂は、大阪本社が入居する堂島関電ビルのリニューアル工事で、最上階の12階外壁にフィルム型PSC(約1m角のパネルを48枚)を実装した。
積水化学のPSCと接着剤技術、積水樹脂の軽量不燃パネル「プラメタル」を組み合わせた「フィルム型ペロブスカイト太陽電池付き建材パネル」を共同開発した。プラメタルは、アルミニウムまたは鋼などの金属とプラスチックまたは無機材との積層複合板で、マンションやビルの外壁や天井に多く使われている。
2024年4月、積水化学工業は浮体式太陽電池の実証実験を開始した。同社が開発したPSCの軽さを生かして水上に浮かべる狙いである。2025年以降の事業化に向けての用途開拓の一環である。
浮体の構造設計などの技術を持つエム・エムブリッジと、設置した太陽電池のデータ取得などのノウハウを持つ恒栄電設と協力し、東京都北区の閉校した学校のプールで約1年間実証する。
2024年5月、YKKAPは、「発電する窓」の開発で関電工との提携を発表。PSCは外部調達し、既存ビルでも簡単に設置できる内窓タイプと、壁面部分に取り付けるタイプの2種類を開発して2026年の市場投入をめざす。
YKKAPの試算では国内の既存ビルだけで520万kW規模の市場がある。
同年7月、千代田区、Akiba.TVと連携して「建材一体型太陽光発電(BIPV)」の実証実験を開始した。既存ビルの一角を再現したトレーラーハウス型実験場を秋葉原駅前広場に開設し、10月まで日射量や発電量のデータを収集する。屋根にはシリコン太陽電池6枚、内窓にガラス基材型BIPV6枚(合計出力:1.2kW)を設置。
2024年7月、パナソニックHDが、PSC事業に2026年に参入すると発表。2028年としていた従来計画を前倒しする。2024年秋にも阪府守口市の研究開発拠点にBIPV試作ラインを設置し、厚さ1μm以下のPSC層を2枚のガラス板に挟んだ横1m×縦1.8mの建材一体型太陽電池(BIPV)の用途開拓をめざす。
現在は神奈川県藤沢市のモデルハウスでBIPVの実証試験中で、発電性能などのデータや得られた意見を試作ラインの立ち上げに生かす。
2024年8月、液晶ガラス基板加工を手掛ける倉元製作所は、PSC生産に乗り出すと発表。約13億円を投じて岩手県一関市の花泉工場にガラス基材型、フィルム基材型に対応した生産ライン(1MW/年)を設置し、2025年2月にも生産を始める。中国の量産メーカーから設備を導入し、技術者受け入れなどで量産体制を整える。
桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授と技術顧問契約を締結するほか、中国の量産メーカーとも技術提携する。
政府によるPSC普及支援
2023年7月、「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)」を閣議毛定し、「ペロブスカイト太陽電池の早期の社会実装」を掲げた。その後、2025年からの事業化を見据えて、2020年代半ばに100MW/年規模、2030年前にはGW級の量産体制をめざして、導入支援策を検討する方針を示した。
2023年12月、政府はPSC推進に向け新たな税制優遇制度を税制改正大綱に盛り込むと発表。PSC設備の固定資産税の課税標準額を原則2/3に軽減し、自治体判断で最大1/2にもできる。NEDOの「グリーンイノベーション(GI)基金」の事業への採択が条件で、2024年度からの適用をめざす。
2024年3月、経済産業省は、固定価格買取制度(FIT)で、PSCの優遇を公表。2025年度にもPSCをFITに加え、通常の太陽光発電より高い10円以上/kWhの買取価格の設定で民間投資を促し、量産化を始めた中国企業に対抗する。2024年度に有識者会議でペロブスカイト型に関する制度の詳細を議論する。
2024年3月、環境省は、2024年度内に政府施設へのPSC導入目標を決めると発表。設置に適した建物や場所を調査し、実現可能な目標を設定してPSCの普及をめざす。東京・霞が関の各府省庁の建物や地方事務所、自衛隊基地など政府の全施設を対象とし、屋上や屋根以外に壁面や窓への設置も調査する。
2024年5月、経済産業省はペロブスカイト太陽電池の普及に向け、官民協議会を発足させると発表。次世代太陽電池の競争力確保に向けて連携を図り、中長期的な導入目標を盛り込んだ戦略をまとめる。
参加する企業・団体は約200に上り、地方自治体が約140と最も多く、積水化学工業、東芝、パナソニックHDのほか、JR7社や研究機関であり、公共インフラや官公庁での導入が進む。
2012年7月にFIT法が導入されて以降、太陽光発電の急速な伸びが報道された。しかし、急速なFIT買取価格の引き下げと、電力貯蔵システムの遅れによる出力制御の問題が多発し、国内での太陽光発電の導入量は徐々に鈍化している。
特に再エネ出力制御は、2018年に九州電力管内で離島以外で初めて行われたが、その後、北海道、東北、中国、四国、沖縄電力管内で毎年実施され、その範囲が拡大している。この問題を解決することがPSC普及に向けても必須であることを忘れてはならない。
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