国内におけるATF開発動向
ATFの実用化開発は、欧米、特に原子力規制委員会も含めた米国の動きが飛び抜けている。また、国内には軽水炉環境を模擬した条件での照射試験ができないため、国内でATF燃料被覆管のサンプルを製造しているが、放射線照射試験は100%米国に依存しているのが現状である。
実際に、2017年度には米国オークリッジ国立研究所(ORNL) の HFIR (High Flux Isotope Reactor) で、「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」の材料照射試験を実施した。2024年度には,米国アイダホ国立研究所(INL)のATR(Advanced Test Reactor)で、「Crコーティング・ジルカロイ」の低燃焼度照射試験が完了した。
また、2024年度から、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究用原子炉(MITR)で、「SiC/SiC複合材料」のBWR水質環境下における放射線照射試験を開始する。
その他、設計基準事故や設計基準を超える事故シナリオにおけるATF被覆管の化学的、機械的、熱水力挙動を調査することを目的とするOECD/NEAの国際プロジェクト(QUENCH-ATFプロジェクト)には、日本代表として日本原子力研究開発機構(JAEA)が参画して情報収集を進めている。

2019年度から、国内の原子力メーカー3社が経済産業省からの補助を受けて、ATFの要素技術開発を進めている。①三菱重工業によるPWR向け燃料被覆管「Crコーティング・ジルカロイ」の開発、②日立GEニュークリア・エナジー/グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン/日本核燃料開発によるBWR向け「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」と「SiC/SiC複合材料」の開発、③東芝エネルギーシステムズによるPWR/BWR向け「SiC/SiC複合材料」の開発である。
①三菱重工業によるPWR向け燃料被覆管「Crコーティング・ジルカロイ」の開発
PWR向けの燃料被覆管「Crコーティング・ジルカロイ」の開発は、2019年度に経済産業省からの補助を受けて開始された。現行のジルカロイ燃料被覆管の表面に耐酸化特性に優れたCrコーティングを施すため、短期で実現可能な概念と位置付けられている。
三菱重工業では物理蒸着法(スパッタリング法)を用いて、ジルカロイ燃料被覆管の外表面に約10㎛のCrコーティング技術を開発し、事故耐性効果の確認のための冷却材喪失事故(LOCA)の模擬試験や、解析コードを用いた大破断LOCA解析などを実施している。
LOCA時を模擬した1200℃高温水蒸気条件の酸化試験では、Cr コーティングによりジルカロイの酸化反応が50分程度抑制された。また、最高温度1200℃でのLOCA時に生じる燃料被覆管破裂と高温酸化及び急冷事象を模擬した試験でも、Cr コーティングによりジルカロイの延性が維持されて折損しないことが確認された。
また、PWR の通常運転時の水質を模擬した腐食試験では、通常運転時の冷却材温度よりも高い360℃で、延べ335日の加速試験を実施した結果でも、Cr コーティング燃料被覆管では有意な腐食量の増加は認められていない。

②日立GEニュークリア・エナジー/グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン/日本核燃料開発によるBWR向け「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」と「SiC/SiC複合材料」の開発
日立GEニュークリア・エナジー他によるBWR向けの燃料被覆管については、「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」と「SiC/SiC複合材料」の2種類のATF開発が進められている。
アルミナ保護被膜の形成で事故耐性に優れる「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」の開発は、文部科学省の原子力システム研究開発事業(2013~2016年)に始まる。2019年度に経済産業省から補助を受け、長さ:4m超の燃料被覆管の製造技術と端栓の密封・接合技術の開発と、材料データ収集が行われている。
「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」では、引張強度に及ぼす放射線照射の影響、BWR環境(290℃高温純水中)での腐食挙動評価、応力腐食割れの評価が行われた。また、改良ステンレス鋼は熱中性子吸収断面積が大きいため、0.3~0.4mmと現行の半分に薄肉化した被覆管の座屈強度評価が行われている。
最高温度1300℃でのLOCA時に生じる燃料被覆管破裂と高温酸化及び急冷事象を模擬した試験でも、被覆管の脆化は認められず、現行被覆管よりも高い耐バースト性能が確認されている。
「SiC/SiC複合材料」では、BWRの通常運転時に問題となる冷却水中へのSi溶出抑制の耐環境コーティング技術に取り組み、チタン(Ti)コーティングSiC被覆管からの水素ガス発生量は、コーティングなしのSiC被覆管と比べてわずかに増加するが、ジルカロイ被覆管と比べると94%減少する解析結果が得られた。
また、SiC被覆管の反応熱による温度上昇は現行のジルカロイ被覆管と比べて小さく、事故時の水素ガス発生量の低減に寄与することを解析により確認している。

③東芝エネルギーシステムズによるPWR/BWR向け「SiC/SiC複合材料」の開発
東芝エネルギーシステムズは、2012年から文部科学省、経済産業省の補助を受けて”BWR/PWR向け燃料被覆管”とBWRに使われる”チャンネルボックス”について、「SiC/SiC複合材料」のATF開発を進めている。
「SiC/SiC複合材料」の製造プロセスは、SiC長繊維をチューブ形状に編み上げ、その間隙を埋める高密度化処理を化学気相浸透法(CVI)、外表面に耐環境性向上に化学気相蒸着法(CVD)でSiCコーティングする。
既に、SiC被覆管(長さ:1.5m)やSiCチャンネルボックス(長さ:1m)の製造プロセスを開発しており、SiC接合による端部封止技術も開発している。また、X線コンピュータ断層撮影(X線CT)や超音波探傷試験(UT)など部品検査技術の開発も並行して進めている。
また、SiC被覆管自体については引張強度などの機械特性評価、SiCチャンネルボックスの熱衝撃試験(大気中1200℃から水中投下)などで健全性を確認している。
過酷事故を模擬した高温水蒸気酸化試験や、PWR(330℃、18.5MPa、DO3ppm)/BWR(290℃、8MPa、DO8ppm)環境を模擬した腐食挙動評価から、PWR環境に比べ溶存酸素濃度(DO)が高くて腐食の厳しいBWR環境でも耐える耐環境性コーティング技術(CVD法によるSiCコーティング)を確立している。
今後、燃料被覆管やチャンネルボックスの長尺化(4m超)製造技術の構築、放射線の照射試験データの拡充、並行してSiC/SiC複合材料に適した検査技術の開発を進めて適用可能性を実証する。

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