遅れた放射性廃棄物の処理(Ⅵ)

原子力

 高レベル放射性廃棄物を10万年も貯蔵するとなると、多くの国、地域で慎重となるのは当然である。事前検討を行っているが、10万年の間に何が起きるかは分からない。特に、火山・地震大国である日本では、どの地域であっても誰も10万年の安全・安心を保障することできない。 

海外での最終処分場に向けた動き

フィンランド

 2000年に最終処分地を決定し、2016年からフィンランド南西部のオルキルオト島で、世界初の高レベル放射性廃棄物の最終処分場「オンカロ処分場」の建設を開始した。花崗岩の地盤を掘削する工事で、電力会社でつくる運営主体のポシバは、2021年12月に2024年からの操業を政府に申請した。
 2120年代までに約6500トンの使用済核燃料の保管作業を終える。フィンランドでは核燃料サイクルは行わないため、使用済核燃料を直接に円筒形の金属性容器に封入して地下約400~450mに閉じ込め、100年後に施設が満杯になった段階で封鎖する。放射線が安全レベルに下がるまで10万年間保管する。

図10 核廃棄物最終処分場「オンカロ」の建設  出典:在フィンランド日本国大使館

スウェーデン

 2009年に最終処分場の建設地を、ストックフォルムの北約120kmにあるエストハンマル自治体のフォルスマルクに決め、安全審査に入った。2022年1月には世界で2例目となる建設計画が承認され、2023年以降に建設が始まり、2030年代後半の地層処分を予定している。
 スウェーデンも再処理は行わず、使用済燃料は既に約8000トンあり、最終的に約12000トンを予定している。同国南部オスカーシャムにつくる施設で使用済核燃料を銅製容器に入れ、北に約400km離れたフォルスマルクの地下約500mに閉じ込め、10万年単位で保管するとしている。

フランス

 2000年からパリ東部のビュール地下研究所が最終処分場の建設に向けた試験施設で実験を開始し、2006年には議会が地下での最終処分場建設の基本方針を議決し、事実上ビュール村での建設計画が決まった。政府機関が2023年1月に最終処分場の許可を申請し、2025年の操業開始を予定している。
 試験施設近くの地下500mに計画される最終処分場は、厚さ約120mの粘土層で囲まれ広さ15km2である。国内の原発(現在56基)などから出る放射性廃棄物8.5万m3を受け入れる。搬入開始後、約100年間は科学技術の進展を待ち、より良い処分法が開発されれば廃棄物を搬出する。現時点で、反対派住民らの声は強い。

米国 

 米国は政府主導で、2002年にネバダ州ユッカマウンテンに最終処分地を決定し、エネルギー省が建設申請をしたが、2009年のオバマ政権が計画中止の方針を打ち出し、審査が中断した状態にある。
 使用済核燃料は、原発内でプール貯蔵または乾式貯蔵キャスクでの貯蔵、一部はイリノイ 州モリス中間貯蔵施設(プール貯蔵方式)で貯蔵されている。また、スリーマイル島原発2号機の事故により発生した燃料デブリと使用済核燃料は、別途にアイダホ国立研究所(INL)で保管されている。

スイス

 スイスでは首都ベルン北部のモン・テリ岩盤研究所で地層処分の実験が進められている。2022年9月、放射性廃棄物管理共同組合が、最終処分候補地を北部のノルドリッヒ・レーゲルン地方に決定したと発表。国内で稼働中の5基の原発から発生する放射性廃棄物を、全て地層処分できるとしている。
 地層処分施設は地下800mの深さで、放射性廃棄物を閉じ込める作業を行う工場はアールガウ州ビュレンリンゲンの既存のツビラグ中間貯蔵施設内に建設する。建設予定地の岩盤はオパリナス粘土層で遮水性に極めて優れており、放射性物質が漏れ出すのを防げる

ドイツ

 2023年4月に脱原発を達成したドイツは、中間貯蔵施設が国内に16カ所あるものの、最終処分場の建設のめどは立っていない。北部のゴアレーベンが候補地にあがったが、住民の反対運動で2013年に撤回された。2020年には連邦放射性廃棄物機関(BGE)が最終処分場の基準を満たす90地域を発表した。
 対象地は国土の54%の土地で、2027年後半までに地上探査をする地域の絞り込みをめざしている。BGEによれば候補地の決定は、2046~68年の間になる可能性があるとしている。

 高レベル放射性廃棄物を10万年も貯蔵するとなると、多くの国、地域で慎重となるのは当然である。事前検討を行っているが、10万年の間に何が起きるかは分からない。特に、火山・地震大国である日本では、どの地域であっても誰も10万年の安全・安心を保障することできない。
 その結果、既に設置されている原発とは別に、中間貯蔵施設が各地にできて高レベル放射性廃棄物が分散貯蔵され、国内での”たらい回し”が始まるこの状況の異常性に早く気付く必要がある
 原発を稼働させる限り、高レベル放射性廃棄物は増産される。いずれ原発や中間貯蔵施設で想定外の火山・地震の影響を受けて、放射線漏れの発生が危惧される。 

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