遅れた放射性廃棄物の処理(Ⅴ)

原子力

 高レベル放射性廃棄物の処分方法は、2000年から種々の検討が加えられてきた。しかし、肝心の最終処分場に関しては見通しが立たず、一時保管/中間貯蔵の状態が今後も継続する。
 都道府県レベルでは、どの自治体も高レベル放射性廃棄物を10万年も貯蔵する」ことに関して否定的であることは容易に推し量れる。

高レベル放射性廃棄物の最終処分場は?

 原発を始めたからには避けて通れないのが、高レベル放射性廃棄物の最終処分である。各原発の貯蔵プールなどで仮保管されている使用済核燃料の2023年の総保管量は約1.9万トンに達する。その他にも、廃炉から出る高レベル放射性廃棄物の量は膨大である。いつまでも問題の先送りでは済まない

高レベル放射性廃棄物の地層処分

 再処理工場から出た高レベル放射性廃棄物のガラス固化体は、冷却のために30~50年間、青森県六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理施設で貯蔵される。
 その後、地下300mより深い安定した地層中に処分(地層処分と呼ぶ)される。 この処分方法は、地下深部の地層が本来持っている「物質を閉じ込める力」を利用したもので、国際的にも最も好ましい方法とされている。

図8 高レベル放射性廃棄物の地層処分  出典:原子力発電環境整備機構

国内での放射性廃棄物の最終処分地の動き

 2000年5月、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が施行され、同10月に電力会社を中心に事業主体となる原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立された。2002年12月から、NUMOは最終処分地選定調査の公募を開始した。

 一方、2001年7月、北海道北部に現在の日本原子力研究開発機構が幌延ほろのべ深地層研究センターを開所した。「地上からの調査研究(第1段階)」に始まり、「深度140m、250m坑道掘削(地下施設建設)時の調査研究(第2段階)」を経て、2010年からは「350m地下施設での調査研究(第3段階)」を進めている。

 現在は、地下に掘削した坑道の中で精密な物理探査やボーリング調査を行い、坑道周辺の地層、地下水の性質、地震への影響などの長期的変化を調査中である。ただし、研究終了後は地下施設を埋め戻し、研究実施区域を放射性廃棄物の最終処分場とせず、中間貯蔵施設も設置しないことを幌延町ほろのべちょうと約束している。

図9  幌延深地層研究センターでは高レベル放射性廃棄物の地層処分技術の研究を実施  

 2007年には高知県東洋町が応募を検討するが、住民反対でとん挫するなど受け入れ自治体が現れなかった。2015年3月に最終処分に関する新たな基本方針を閣議決定し、政府が全面に立ち科学的有望地を示して自治体に調査協力を申し入れる方針に変更した。

 2017年7月、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の候補地となる地域を示す科学的特性マップを公表し、全国の自治体に通知した。マップに示されたのは、火山や活断層から遠く、高レベル放射性廃棄物を数万年~10万年にわたり安全に管理できる可能性がある地域とされた。
 また、これまで最終処分場は内陸の地下300mよりも深い地層とされていたが、海岸から20km以内の沿岸部や島の地下も一時保管する青森県六ケ所村から船での搬送が容易なため適地とされた。条件に見合う土地は国土の65%である約900市区町村あり、海岸地域はその約30%が該当する。

 最終処分地の調査は第1段階の文献調査(2年、交付金10億円/年で上限20億円)に始まり、掘削調査で地質や地下水の状況を確認する第2段階の概要調査(4年、交付金20億円/年で上限70億円)、地下施設を作り周囲の環境状況を直接調べる第3段階の精密調査(14年、交付金未定)で行われる。
 市長村長、都道府県知事の首長には、調査が次の段階に移行する際に反対する権限を認め、20年程度かけて建設場所が決定される計画である。

 2020年11月、北海道の寿都町すっつちょう神恵内村かもえないむらが名乗りをあげ、電源立地地域対策交付金(調査期間中最大20億円)により文献調査が開始された。一方、北海道知事は条例で高レベル放射性廃棄物は受け入れがたいとし、第2段階の概要調査には反対を表明している。
 一方、2023年9月、文献調査の受け入れを検討していた長崎県対馬市が、市議会で調査を受け入れない意向を表明した。

 2024年2月、NUMOは第1段階の文献調査結果の報告書案を公表。寿都町は町全域を、神恵内村は積丹岳しゃこたんだけの半径15km圏内に入るため南端部(陸域3~4km2)を第2段階の概要調査の候補地とした。北海道知事は、反対姿勢を貫いており、第2段階の概要調査へのハードルは高い。

 高レベル放射性廃棄物の処分方法は、2000年から種々の検討が加えられている。しかし、肝心の最終処分場に関しては見通しが立たず、一時保管/中間貯蔵の状態が今後も継続する。
 都道府県レベルでは、どの自治体も高レベル放射性廃棄物を10万年も貯蔵する」ことに否定的であることは容易に推し量れる。そのため、今後は、増え続ける高レベル放射性廃棄物の”たらい回し”が危惧される。
 問題の先送りは、本質的な解決にはならない。この分かり切ったことを続けてきたのが、日本の原子力政策の大きな問題点である。

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