原子力の未来予測(Ⅲ)

原子力

小型モジュール炉(SMR)

 米国では電気出力:30万kW以下の軽水炉を「SMR」と呼び、非軽水炉型の炉は出力に関係なく「新型炉」と定義し区別している。また、英国では出力:100万kW以下の小型軽水炉を「SMR」と称し、非軽水炉型の先進モジュール炉(AMR:Advanced Modular Reactor)とは区別している。

 実際に小型モジュール炉(SMR)の本命は、早期の市場投入が可能な軽水炉型と考えられている。国内原子炉メーカーの東芝は「MoveluX」、日立GEニュークリア・エナジーは「BWRX-300」、三菱重工業は多目的軽水小型炉(PWR)と、いずれも早期に市場投入が可能な軽水炉型のSMRの概念設計を進めている。

図5 BWR型の小型モジュール炉「BWRX-300」 出典:GE日立・ニュクリアエナジー

 米国、カナダ、英国、フランス、ロシア、中国も、軽水炉型のSMR開発を進めている。しかし、現在主流の大型軽水炉に置き換わるためには、大量生産による低コスト化が必須である。今後、基本・詳細設計が進む中で、大型の「革新軽水炉」よりも安全面と経済面で優れていることが、SMR実現の可能性を決める

 スケールメリットを発揮できる大型軽水炉と比べて、小出力の小型軽水炉(SMR)は発電単価で不利となる。期待が先行するSMRであるが、現在主流の大型軽水炉に置き換わるのは難しい
 既に、2023年11月、米国ニュースケール・パワーは、西部アイダホ州で2029年稼働を計画していたSMR6基の建設中止を発表した。主な原因は経済性が見込めないためとされている。

 一方、非軽水炉型の新型炉に関しては、第4世代の原子炉として2000年代から開発が進められてきた。

第4世代の原子炉開発とは:
 世界の原子炉開発は、黎明期の原子炉(第1世代)に始まり、現行の軽水炉等(第2世代)、現在導入が始まっている改良型軽水炉など(第3世代)と進められてきた。
■1999年、米国は第4世代(GIF:Generation IV)の概念を提唱した。
■これを受けて、2002年7月にGIFの研究及び開発課題として、6システム(ガス冷却高速炉(GFR)、鉛冷却高速炉(LFR)、溶融塩炉(MSR)、ナトリウム冷却高速炉(SFR)、超臨界水冷却炉(SCWR)、超高温ガス炉(VHTR))が選定された。
■2005年2月、「第4世代の原子力システムの研究及び開発に関する国際協力のための枠組協定」が結ばれ、2030年頃を目指して、アルゼンチン、豪州、英国、カナダ、韓国、日本、ブラジル、フランス、米国、南アフリカ、スイス、欧州原子力共同体(ユーラトム)、中国、ロシアが開発を進めている。
■2015年2月、枠組協定の延長(2025年2月28日まで)

 現在、世界の原子炉市場は核燃料を含めて、ロシア・中国が主導権を握っているといっても過言ではない。そのため、2010年代後半から、米国、カナダ、英国などが原子炉市場での主導権を取り戻すべく多くのプロジェクトを発足させている。遅れて、日本も米国、英国との協調路線を打ち出している。

 新型炉開発は、地政学的なリスクを回避するために米国・英国との協調路線は重要である。しかし、莫大な投資を必要とする新型炉(高温ガス炉、高速炉、核融合炉)開発を全方位で展開するのは難しい。既に済的理由から撤退している国々も多く、経済力に合わせた”選択と集中”が必要である。

高温ガス炉

 なぜ、高温ガス炉の開発が必要なのであろうか?その理由は、現有の軽水炉と比べた場合に高温ガス炉の利点とされる2点にある。すなわち、①原子力プラントとしての安全性②高温の熱供給である。

 原子力プラントとしての安全性は、常に追求しなければならない。現在、日本原子力研究開発機構(JAEA)が、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)の国際共同試験を高温工学試験研究炉(HTTR)を使って実施している原子炉出力100%運転中に全電源喪失に遭遇した場合の試験結果の公表が待たれる。

 HTTRはブロック型高温ガス炉であり、設計・建設・運転は、三菱重工業、東芝、IHI、富士電機、川崎重工業、日立製作所(現在は撤退)などにより行われている。原子炉圧力容器内で核分裂反応により生じた熱を、Heガスにより取り出す。HTTRから取り出した高温熱の用途展開が進められている。 

図6 高温工学試験研究炉「HTTR」の仕様 出典:日本原子力研究開発機構大洗研究所

 事故時の安全性が確認されれば、次に長期の原子力プラントとしての信頼性評価が重要となる。一方で、革新軽水炉や小型軽水炉(SMR)との経済性(建設単価、発電単価)比較により、高温ガス炉の優位性が明らかとなれば、次世代(第4世代)原子炉の本命となる可能性がある。

 高温の熱供給は高温ガス炉の特長であり、多用途展開が期待されている。中でも水素社会を実現するためには、安価で大量のクリーン水素が不可欠であり、様々な検討が進められている。課題は高温ガス炉を利用した原子力水素の経済性である。対抗馬となる再生可能エネルギー水素との比較が重要である。

 現在、中国や米国などで進められている高温ガス炉の原子炉出口温度は750℃である。水素製造の経済性を高めるためには、950℃以上の超高温ガス炉(VHTR)の開発が有効である。まだまだ、先は長い。

 2023年7月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、ニューヨークの国連本部で記者会見を開き、「地球沸騰化の時代が到来した」と発言した。地球温暖化ではなく、切羽詰まった状況にある。「将来ではなく、今できることは何であろうか?」を真剣に考える必要がある。
 再生可能エネルギー水素は技術的に成熟し、欧米中は大型水電解装置導入による低コスト化に舵を切っている。一方、高温ガス炉による水素製造はHTTR建設当初からの目的で、既に20年超を経過しているが経済性を含めた見通しは立っていない。今、どちらを選択すべきかは明確である。

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