原子力の未来予測(Ⅰ)

原子力

 原子力の未来予測を語る上で、福島第一原発の廃炉処理の問題を無視することはできない。廃止措置終了までの期間として30~40年後とされており、2050年頃である。鍵は燃料デブリの取り出しで、これらを完全に遂行して、ようやく原点に回帰できる。

 原子力発電は運転でCO2を排出しないため、ゼロエミッション発電の実現には有効である。しかし、重大事故を招かないための安全対策は不可欠である。福島第一原発事故を教訓として開発中の「革新軽水炉」を早期に実現し、従来の大型軽水炉の置き換えを進める必要がある。

原子力の未来予測

図1 原子力の未来予測

 世界原子力協会(WNA)によると、2022年の原子力発電量は合計2兆5,450億kWhで、2021年よりも1,000億kWh程度減少したが、6年連続で2兆5,000億kWh以上を発電している。
 中でも、過去10年間でアジアの原子力発電量は2倍以上に増加し、現在、西・中欧の原子力発電量を上回っている。建設中の原子炉の3/4がアジアであり、この傾向は今後も継続される。

 原子力の未来予測を語る上で、福島第一原発の廃炉処理の問題は避けて通れない。廃止措置終了は2050年頃とされている。鍵は燃料デブリの取り出しで、廃炉処理を完全に遂行して、ようやく原点に回帰できる。
 しかし、燃料デブリの100%取り出しは不可能と考えられ、「廃炉=さら地に戻す」には疑問が出ている。

 また、放射性廃棄物の処分には、1993年の着工以降、トラブル頻発で大幅に遅れている青森県六ケ所村の使用済み核燃料の再処理工場の早い時期(2024年度上半期と約束)の稼働と、先送りしてきた高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定を着実に進める必要がある。
 米国スリーマイル島原発事故で99%取り出された燃料デブリは、アイダホ国立研究所に仮保管されたままである。福島第一原発事故で取り出された燃料デブリも、どう処分するかは決まっていない。

 原子力発電は運転過程でCO2を排出しないため、ゼロエミッション発電の実現には有効である。しかし、重大事故を招かないために安全対策は不可欠である。革新軽水炉を早期に実現し、従来の大型軽水炉の置き換えを進める必要がある。期待が先行する小型軽水炉(SMR)の実現には、経済性評価が鍵となる。
 そのためには国民の原子力への理解を深める必要がある。しかし、電力ひっ迫などを理由とした”その場しのぎのエネルギー政策”を進める政府に、国民の不信感は深まるばかりである。

 供給されるエネルギー源は、バイオマスを除き、一次エネルギーから二次エネルギーへと移行する過渡期にある。CO2ゼロを実現するためは、バイオマス燃料水素あるいはアンモニア燃料合成燃料(e-fuel)の供給が基本となるが、高価格となることは間違いない。
 二次エネルギーの低コスト化を実現し、十分な供給量を確保するためには、電力貯蔵システム付帯の再生可能エネルギー発電の増設、あるいは十分な安全性を担保した原子力発電の増設が基本となる。

 次世代の原子力システム(新型炉)開発は、地政学的リスク回避のために重要である。しかし、高速炉の開発では原型炉「もんじゅ」での失敗を忘れてはならない。また、高温ガス炉による水素製造はHTTR建設当初からの目的で、既に20年超を経過しているが経済性を含めた見通しは立っていない。
 莫大な投資必要とする新型炉実証炉の開発を進めるには、より確実な見通しが必要である。経済的理由で中断あるいは撤退する国々は多く、日本も全方位戦略ではなく、選択と集中をすべきである。

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