福島第一原発の処理水海洋放出(Ⅲ)

原子力

 2014年10月以降、汚染水は「サリー」でセシウムやストロンチウムを除去した後、「淡水化装置」を経て、多核種除去設備「アルプス」により、汚染水に含まれている62種の放射性物質が除去されている。しかし、アルプスではトリチウムが除去されていない。
 2020年12月、構内に全容量が約137万m3のタンクの設置が完了した。ALPS処理水の貯蔵タンク基数は1046基であるが、現在はタンク容量の98%に達している。

汚染水の浄化処理

 福島第一原発の事故直後、燃料デブリ冷却のために注水を継続する必要から、生じた汚染水からセシウムやストロンチウムを除去し、再び原子炉に循環させて利用する仕組みが急がれた。緊急で事故処理ノウハウのあるフランスのアレバと米国キュリオンの放射性物質除去装置が導入された。

 しかし、装置トラブルが連続して十分な性能を発揮できないため、新たに東芝が開発した単純型汚染水処理システム「サリー(第二セシウム吸着装置)」(SARRY:Simplified Active Water Retrieve and Recovery System)が導入され、2011年10月頃から主力の浄化装置として稼働を始めた。

 その後、「サリー」でセシウムやストロンチウムを除去した後、「淡水化装置」を経て、多核種除去設備「アルプス」(ALPS:Advanced Liquid Processing System)により、汚染水に含まれている62種の放射性物質が除去されている。しかし、ALPSではトリチウムが除去されていない。

 このALPSは、2013年3月に試運転を始めた東芝製の既設ALPSと、放射性物質の除去性能を向上させた増設ALPS、日立GEニュークリア・エナジー製の高性能ALPSの3種類がある。いずれも2014年10月頃から本格稼働している。ALPSで浄化処理された処理水は、構内のタンクに貯蔵されている。

 ALPSが稼動するまでは、サリーでセシウム・ストロンチウムを取り除いた高濃度汚染水を構内のタンクで貯蔵し、敷地境界の放射線量は基準を大幅に超過していた。しかし、2015~2016年には高濃度処理水もALPSによる浄化処理が進み、敷地境界線量の基準をクリアする状況に改善されている。 

図6 福島第一原発の汚染水からの放射性物資の除去・貯蔵工程

タンクへの貯蔵

 福島第一原発の事故後、大量に発生する高濃度汚染水を貯蔵するため納期優先でボルト組立型(フランジ型)タンクが使われたが、ゴムパッキンからの漏洩トラブルが発生して非難が相次ぎ、三井造船製の溶接型タンクへの切り換えが進められた。
 2017年からは、フランジ型タンクに貯蔵しているALPS処理水についても、漏洩リスクの少ない溶接型タンクへの更新が行われ、2019年3月に完了した。

 タンクは津波対策として敷地内の海抜30m以上の高台に設置されており、漏えい時に系外への流出を防ぐ目的でタンクエリアの周囲に二重のせきが設置された。また、雨どいや堰カバーが付帯され、雨水の堰内への流入を抑えている。

 2020年12月、構内に全容量が約137万m3のタンクの設置が完了した。ALPS処理水の貯蔵タンク基数は1046基(測定・確認用タンク:30基含む)で、ストロンチウム処理水と呼ばれるALPS処理前の汚染水を貯蔵するタンクが24基、その他、淡水化装置(RO)処理水12基、濃縮塩水1基がある。

図7 ALPS処理前の汚染水、ALPS処理後の処理水を貯めるタンクの更新

 福島第一原発の事故後、3年半を要してALPSによる汚染水の浄化処理とタンクへの貯蔵がようやく定常化された。しかし、スピード優先で対策を進めざるを得なかったことで、たびたび汚染水の漏洩トラブルを招き、福島県近隣の漁業関係者の信用を大きく損なうことになった。

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