日本の高温ガス炉の開発現状(Ⅱ)

原子力

 国内では、茨城県大洗町に日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構、JAEA)の高温工学試験研究炉(HTTR)が建設され、1998年11月に初臨界を達成した。2004年4月には、原子炉出口冷却材温度:950℃での全出力(熱出力:3万kW)運転に成功した。

 高温ガス炉(HTTR)からの高温熱供給を生かし、三菱重工業はガスタービン発電と新たに水素製造施設の接続を開始している。また、東芝は、蒸気タービン発電と蓄熱システムを組み合わせた電力供給高温水蒸気電解プラントによる水素製造の概念を公表している。

日本における高温ガス炉の開発

高温工学試験研究炉(HTTR)

 茨城県大洗町に日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構、JAEA)の高温工学試験研究炉(HTTR:High Temperature Engineering Test Reactor)が建設され、1998年11月に初臨界を達成した。2004年4月には、原子炉出口冷却材温度:950℃での全出力(熱出力:3万kW)運転に成功した。

 HTTRはブロック型高温ガス炉であり、設計・建設・運転は、三菱重工業、東芝、IHI、富士電機、川崎重工業、日立製作所(現在は撤退)などにより行われている。原子炉圧力容器内で核分裂反応により生じた熱を、Heガスにより取り出す。HTTRから取り出した高温熱の用途展開が進められている。 

図3 高温工学試験研究炉「HTTR」の仕様

 2014年8月、JAEAはインドネシアと、高温ガス炉導入に向けた技術協力協定を締結。2014年11月、福島第一原発事故以降に停止していたHTTRの再稼働に向け、安全審査を原子力規制委員会に申請した。
 原発導入を検討する地震国インドネシアでは、事故などで炉心冷却が働かない場合でも、自然に冷える高温ガス炉は安全面から魅力的である。また、高温ガス炉は原子炉冷却材に水を使わないため砂漠でも設置が可能で、サウジアラビア、アラブ首長国連邦など中東諸国でも導入に積極的である。

 2019年9月、JAEAと原子燃料工業は、高温ガス炉向けに実用レベルの燃料体を開発した。すなわち、TRISO被覆燃料粒子の製造で、セラミックス被覆層の厚さを工夫し、実用レベルの核反応が生じても壊れない燃料を開発して中性子照射試験で性能を確認した。
 JAEAでは、従来のHTTR用燃料の3倍のウラン燃焼エネルギーを取り出せる燃料体の設計技術を開発し、原子燃料工業が量産規模でのTRISO被覆燃料粒子の製造技術を確立した。

 2021年7月、HTTRは安全対策工事を終了して10年半ぶりに運転を再開した。2009年に開始したOECD/NEAの安全性実証試験プロジェクト「炉心強制冷却喪失共同試験」を再開し、高温ガス炉に関する安全基準の国際標準化を進めている。

 2021年8月、文部科学省と経済産業省は、HTTRを利用した水素製造のため、2025年頃に水素製造施設の建設開始計画を発表した。
 この水素製造施設では、HTTRから高温(900℃)のHeガスを移送し、2030年までにメタン熱分解法による水素製造を検証し、その後、2050年以降に向けて熱化学分解法(IS法)高温水蒸気電解法による水素製造を進める計画である。

図4 高温ガス炉の熱利用構想 出典:日本原子力研究開発機構

三菱重工業

 2022年4月、日本原子力研究開発機構(JAEA)と三菱重工業は、2050年カーボンニュートラルに向け、経済産業省委託事業「超高温を利用した水素大量製造技術実証事業」を受託し、HTTRに新たに水素製造施設を接続して水素製造事業を開始した。
 大量の水素製造に対応可能とするため一部機器(高温隔離弁等)の大型化検討や、カーボンフリー水素製造技術として、①熱化学反応を組み合わせた水蒸気の熱化学分解法(IS法)、②触媒と熱によるメタン熱分解法、③固体酸化物型燃料電池の逆反応である高温水蒸気電解法(SOEC)の実証試験が進められている。

 2023年7月、三菱重工業が、経済産業省が推進する高温ガス炉開発を担う中核企業に選定された。今後、2030年代の運転開始をめざす実証炉建設に向け、研究開発および設計・建設を一括して取りまとめるとし、900℃以上の超高温核熱を利用する水素製造と発電を両立するコジェネプラントの概念を公表した。
 原子炉出力は一定運転としたまま水素製造とガスタービン発電のバランスを制御することで、電力需要変化に追従し、再生可能エネルギーの出力変動にも柔軟に対応する。

図5 高温ガス炉を活用した水素ターミナルのイメージ 出典:三菱重工業業

東芝

 2021年11月、東芝エネルギーシステムズは富士電機と、経済産業省・文部科学省のNEXIP事業で進めた高温ガス炉の取組みを公表した。高温ガス炉からの熱供給を生かし、蒸気タービン発電と蓄熱システムを組み合わせた電力供給である。東芝エネルギーシステムズは、高温水蒸気電解プラントとの接続も公表した。

 高温ガス炉は熱出力一定で運転を行い、太陽熱発電で実績のある溶融塩タンクに一端蓄熱し、蒸気発生器により必要な量の蒸気を蒸気タービンに供給して発電する。普及が進む再生可能エネルギーの電力需給変動に対し、高温ガス炉を出力調整力を持つ発電プラントとする概念で、早期の実用化が期待できる。

 具体的には、高温ガス炉4ユニット構成(750℃、7MPa)からの総熱出力(240万kW)を一定とし、高温槽と低温槽で構成される溶融塩タンク(KNO3(40%)+NaNO3(60%))4モジュールで蓄熱(総容量:810万kWh、12時間)を行い、供給される蒸気(565℃)で蒸気タービン(最高出力:96万kW)により柔軟な電力供給を行う。

 また、水素製造用HTGRシステムとして、固体酸化物型電解セル(SOEC)に水蒸気(約700 ℃)を供給して電気分解する高温水蒸気電解法も検討し、水を原料としたカーボンフリーの高効率水素製造を提供する。

図6 電気出力:100万kW級の高温ガス炉蒸気タービン発電プラント
出典:東芝エネルギーシステムズ

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