次世代原子力(新型炉)の開発現状(Ⅶ)

原子力

 フランスはCOP26で大型軽水炉(EPR)の建設再開を宣言し、原子力依存を電力供給の5割まで引き下げる方針(現在はおよそ7割)を事実上撤回した。
 ロシア国営原子力企業ロスアトムは、MOX燃料を使い高速実証炉「BN-800」の営業運転を実施し、鉛冷却高速炉のパイロット実証炉「BREST-300」の建設を開始した。
 中国は高温ガス炉「HTR-PM」が168時間の連続運転に成功し、世界初となる商業運転に移行。また、 プール型ナトリウム冷却高速原型炉「CFR600」(電気出力:60万kW)の建設が最終段階に入った。

フランスの新型炉開発動向

 2021年10月、フランス政府は10億ユーロ(約1300億円)を投じてSMR開発を進めると表明。同年11月にはCOP26で大型軽水炉(EPR:欧州加圧水型軽水炉)の建設再開を宣言し、原子力依存率を電力供給の5割まで引き下げる方針(現在はおよそ7割)を事実上撤回した。

 2023年6月、フランス電力(EDF)、子会社のNUWARD、ベルギーのTractebelは、フランスのPWR型小型モジュール炉「NUWARD」(熱出力:54万kW×2モジュール、電気出力:17万kW×2モジュール)の技術開発の協力強化の枠組み協定に調印した。
 SMRロードマップによれば、2025~2030年に「NUWARD」の詳細設計と正式申請を計画し、同期間中の設計認証とサプライチェーンの開発を経て、2030年に初号機の建設に着工し、建設期間を約3年とした。

ロシアの新型炉開発動向

 ロシア(旧ソ連)は、早くからナトリウム冷却型高速炉の研究開発を進めた。1981年にはエカテリンブルグ市ベロヤルスクで原型炉「BN-600」を稼働。1984年にはベロヤルスクでタンク型実証炉「BN-800」の建設が始まったが、ソ連崩壊により建設が中断され、2006年に再開された。
 2016年10月、「BN-800」(出力:88万kW)が、ベロヤルスク原子力発電所4号機として商業運転を開始。ハイブリッド炉心(ウラン燃料+MOX燃料)から、燃料交換時に順次MOX燃料への置換が進められた。

 2022年10月、ロシア国営原子力企業ROSATOM(ロスアトム)は、営業運転中の高速実証炉「BN-800」の全炉心にMOX燃料が装荷されたと発表。MOX燃料集合体は、2018年後半からクラスノヤルスク地方ゼレズノゴルスクの鉱業化学コンビナート(MCC)で連続製造を開始している。 

 2021年6月、ロスアトム傘下の燃料製造企業TVEL(トヴェル)傘下のシベリア西部トムスク州セベルスク市の化学コンビナート(SCC)で、鉛冷却高速炉のパイロット実証炉「BREST-300」(電気出力:30万kW)の建設を開始した。遅くとも、2027年に運転開始の計画である。
 SCC内では、2024年に専用のウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料製造プラント、2030年に同炉から出る使用済燃料の再処理プラントの稼働を計画。実証炉と合わせた3施設で、「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」を構成する。

 ロスアトムは、「BREST-300」は性能確認に重点を置き、10年後に120万kWの「BR-1200(LFR)」の商業運転を計画している。また、鉛ビスマス冷却高速炉の小型炉「SVBR-100」(電気出力:10万kW)も開発中である。

中国の新型炉開発動向

中国の「HTR-PM」

 2012年から、清華大学原子力・新エネ技術研究院(INET)での研究成果を基に、ペブルベッド型高温ガス炉実証炉「HTR-PM」(熱出力:25万kW×2基、電気出力:21万kW、炉心出口温度:750℃)の建設を、山東省威海市石島湾で開始した。
 中国の国家科学技術重要特定プロジェクトの一つとして、中国華能集団有限公司、中国核工業集団公司、清華大学が共同出資し、華能山東石島湾核電有限公司を設立しての開発である。

 2016年12月に公表された中国の「エネルギー技術創新”一三五”計画」の重点項目とし、実証炉「HTR-PM」による発電運転実証が行われ、2021年12月には電力網に接続して発電を開始。2023年12月、「HTR-PM」が168時間の連続運転に成功し、世界初となる商業運転に移行した。 

 現在、商用炉「HTR-PM600」(熱出力:25万kW×6基×2ユニット、電気出力:65万kW×2、原子炉出口冷却材温度:750℃)を設計中、福建省、江西省、広東省、浙江省での建設が計画されている。

図13 華能石島湾高温ガス炉「HTR-PM」 出典:中国華能集団

中国の「CEFR」

 中国はロシアの協力を得て、北京の原子能科学研究院高速炉研究センターにプール型ナトリウム冷却炉である高速炉の実験炉(CEFR、電気出力:2万kW)を保有し、2014年12月に100 %出力運転を達成してプルトニウム燃焼炉の開発を進めた。

 2017年12月、中国核工業集団は福建省霞浦県長表島で、プール型ナトリウム冷却高速原型炉「CFR600」(電気出力:60万kW)の建設を開始。2020年12月、2基目の「CFR600」の建設を開始した。それぞれ2023年と2026年の稼働を予定している。
 また、実証炉「CFR1000」(電気出力:100万kW)を計画し、2030 年代に運転開始の見込みである。

 2023年5月、福建省霞浦県長表島で高速増殖炉「CFR600」の建設が最終段階に入った。年内の稼働が見込まれ、本格運転すれば100発超/年の核弾頭を製造できるプルトニウムが生産される。中国には核施設の査察義務がなく、民生用の核物質を軍事転用する可能性が高い。

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