次世代原子力(新型炉)の開発現状(Ⅲ)

原子力

 2020年前後から、米国では原子炉開発に多くの予算が投じられ、少なくとも7基が2020年代末の運転開始をめざして開発を加速している。実績のある小軽水炉(SMR)から、各種の新型炉に至るまで、いずれも大手原子炉メーカーやスタートアップによる民間企業中心の開発である。
 X-エナジーの高温ガス炉「Xe-100」は、米国エネルギー省(DOE)の新型炉実証プログラム(ARDP)に参画し開発が加速されている。

米国の新型炉開発動向(1)

 米国では、実績のある小軽水炉(SMR)から、各種の新型炉に至るまで、いずれも大手原子炉メーカーやスタートアップによる民間企業中心の開発である。

表1 米国で開発が進む主なSMRと新型炉 出典:原子力産業新聞

 2020年5月、米国エネルギー省(DOE)は新型炉実証プログラム(ARDP)を開始し、公募により選ばれた新型炉開発プロジェクトに対して資金援助が行われている。
 具体的には①先進原子炉実証(運転開始目標7年以内、民間企業負担率は50%以上)、②将来実証リスク削減(運転開始目標10~14年以内、民間企業の負担率は20%以上)、③先進炉概念2020(ARC-20、運転開始目標2030年代半ば)の3カテゴリーがあり、10企業が参画している。

表2 先進的原子炉実証プログラム(ARDP) 出典:原子力産業新聞

 その他、航空宇宙局(NASA)と エネルギー省(DOE)は共同で「宇宙探査用核熱推進技術の開発」、国防総省(DOD)は遠隔地で電力を得る技術開発として「プロジェクト Pele (ペレ)」を立ち上げており、企業支援を行っている。米国企業による「新型炉」開発の代表は、高温ガスに関するXーエネジーの開発である。

X-エナジーの「Xe-100」

 X-energy(X-エナジー)が開発を進めるペブルベッド型小型高温ガス炉「Xe-100」は、熱出力:20万kW、電気出力:約8万kWのSMRである。これを4基設置した発電プラント(総出力:32万kW)を標準とし、高温熱供給(炉心出口温度:750℃)による海水淡水化や水素製造など幅広い分野への適用をめざしている。

 2017年3月、運転寿命60年の「Xe-100」の概念設計を開始。一方で、2018年11月、専用の4重被覆の燃料粒子「TRISO:TRi-structural ISOtropic」の製造工場の予備設計を進めるため、濃縮ウラン企業のセントラス・エナジー(旧USEC)と新たなサービス契約を締結した。

 2021年4月、米国エネルギー省が、「Xe-100」(電気出力7.5万kW)の基本設計完了を発表。また、ワシントン州の公益電気事業社エナジー・ノースウエスト、グラントPUDと、初号基設置に向けて覚書を締結した。
 国外では、2019年11月にヨルダン原子力委員会と、2022年7月にカナダのオンタリオ州政府と、「Xe-100」の利用可能性検討のため、協力合意書を交わした。

 2022年8月、米国ダウ(Dow)はテキサス州メキシコ湾岸シードリフト市の同社施設に、「Xe-100」を4基設置する原子力発電所(出力:32万kW)の建設で基本合意した。2030年頃までに「Xe-100」実証炉を完成させる計画で、X-エナジーへの出資も公表した。

 2023年7月、エナジー・ノースウエストは、ワシントン州内で最大12基の「Xe-100」を建設するための共同開発合意書(JDA)に調印した。同社コロンビア発電所(BWR、121.1万kW)の隣接区域での建設を計画し、2030年までに最初のモジュールの稼働を目指す。

図5 ペブルベッド型高温ガス炉「Xe-100」の炉構造 出典:X-エネジー

 ところで、「Xe-100」に装荷されるのはTRISO燃料粒子である。ウラン235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン(HALEU燃料)を、黒鉛やセラミックスで4重被覆した粒子型燃料である。

 2022年4月、商業規模の「TRISO-X燃料製造施設(TF3)」をテネシー州オークリッジの「ホライズンセンター産業パーク」内に建設すると発表。TRISO燃料粒子は2028年の運転開始を見込む「Xe-100」のみならず、他社が開発中の新型炉でも使用される見通しである。  

 2022年10月、「TRISO-X(TF3)」を建設するため、X-エナジー子会社のTRISO-Xがテネシー州オークリッジで起工式を実施。2022年4月、特殊な核物質(カテゴリーⅡ)の取り扱いに関する許可申請を原子力規制委員会(NRC)に提出しており、早ければ2025年にも操業可能となる。
 TF3の初期段階の生産量は「Xe-100」12基分に相当する8トン/年(ウラン換算)で、2030年代初頭までに16トン/年の生産量を目指す。

図6 4重被覆燃料粒子「TRISO」の構造 出典:TRISO-X

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