小型軽水炉「SMR」の開発現状(Ⅳ)

原子力

 日本は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、海外のSMR実証プロジェクトとの連携で、2030年までにSMR技術の実証をめざす。また、文部科学省と経済産業省が原子力イノベーション促進(NEXIP)イニシアチブ事業を行い、SMR実証炉を開発する民間企業などを支援する。
 2022年7月、経済産業省が示した工程表では、小型軽水炉について、2030年代から国内で機器の製造・建設を始め、2040年代に実証運転を開始する目標を掲げている。

日本の小型軽水炉「SMR」の開発

三菱重工業の多目的軽水小型炉

 2021年6月、国内電力会社大手とPWR型の多目的軽水小型炉(出力:30万kW)の概念設計に入った。一次冷却材管および1次系主要機器(蒸気発生器、一次冷却材ポンプ、加圧器など)を原子炉容器内に統合する一体型原子炉で、 2040年頃の市場投入を目指し、建設費は2000億円/基とした。

 原子炉内の冷却材の温度差を利用して一次冷却材を自然循環させることでポンプを不要とし、配管破断による冷却材喪失や電源喪失による事故発生を原理的に排除する。また、重要な建屋を地下設置して航空機衝突などの外部ハザードへの耐性や、二重格納構造により放射性物質の閉じ込め機能を強化する。

 将来の電源ニーズの多様化/分散化に向け、小規模グリッド電源や、離島・島しょ地域などの極小グリッド電源災害地域への緊急電源舶用動力などのモバイル電源などへの展開を想定している。

図12 PWRをベースとした多目的軽水小型炉 出典:三菱重工業

小型軽水炉「SMR」の課題

 国内では、福島第一原発事故を教訓に、安全性を高めた大型商用炉である「革新軽水炉」の開発をめざしている。しかし、欧米では安全性と経済性を両立させた「小型モジュール炉」に注目が集まっており、スタートアップを含む多くの原子炉メーカーが小型軽水炉「SMR」の開発を進めた。

 その後、国内原子炉メーカーである日立GEニュークリア・エナジーは「BWRX-300」、三菱重工業は多目的軽水小型炉(PWR)と、いずれも早期に市場投入が可能な軽水炉タイプの小型モジュール炉(SMR)の概念設計を進め、海外市場をめざしている。

 日本原子力研究開発機構(JAEA)は期待が先行するSMRの課題として、経済性安全基準サプライチェーンの構築を示している。(SMRの定義には、小型軽水炉と新型炉の両方が含まれている。)

①経済性:
 従来のスケールメリット(大型化)によるコスト削減の方向に反している。将来的に炉型を集約して標準化・量産化を進め、発電単価を低減する必要がある。加えて、大量生産しなければコストダウンが難しい。
②安全基準:
 軽水炉タイプのSMRには従来の安全基準の適用が可能と考えられるが、高温ガス炉や高速炉タイプのSMRは安全基準が確立されるまで許認可に時間を要し、開発期間が長引く。
③サプライチェーンの構築:
 軽水炉タイプのSMR以外は、既存の軽水炉と異なる新たなサプライチェーンの構築が必要となる。

 国内における「小型軽水炉のSMR」の課題は、大型商用炉として開発を進めている「革新軽水炉」に置き換わる可能性の有無である。
 小型化することで基本的に安全性が担保されると考えると、大量生産による小型軽水炉のコスト低減が必須課題である。今後、基本・詳細設計が進められる中で、経済性の評価が「小型軽水炉」の実現可能性を決める。また、実績のない小型軽水炉は、実証炉による製造・建設、運転、管理の確認が不可欠である。

 ところで、2023年11月、小型軽水炉で先行する米国ニュースケール・パワーは、西部アイダホ州で2029年稼働を計画していた6基のSMR建設中止を発表した。主な原因は、経済性が見込めないためとされている。

 政府は2030年の電源構成に占める原子力の割合について、20~22%をめざすとしている。これは大型軽水炉(出力:120万kW)の27基分に相当する。
 国内電力会社は既存原発の再稼働と運転延長を指向しており、安全性を強化した「革新軽水炉」への建て替え時期すら見通せないのが現状である。従来、発電単価を抑えるために大型化を進めてきた軽水炉開発の経緯を考えると、あえて「小型軽水炉」を多数新設するメリットは見いだせない。
 離島・島しょ地域などの分散電源として小型軽水炉「SMR」は有効であるが、国内での立地は難しいため、原子炉メーカーは海外展開を狙っている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました