現在、米国では多くの原子炉メーカーが、小型軽水炉「SMR」の開発を進めている。中でも、ニュースケール・パワーの「VOYGR」、ホルテック・インターナショナルの「SMR-160」、GE日立・ニュークリアエナジーの「BWRX-300」は、国内外において実現可能性の検討が進められている。
しかし、小型軽水炉「SMR」開発で先頭を走るニュースケール・パワーは、アイダホ国立研究所(INL)で2029年の稼働を計画していた初号基「VOYGR-6」について、2023年11月に経済性が見込めないとの理由で建設中止を発表した。
米国の小型軽水炉「SMR」の開発
ニュースケール・パワーの「VOYGR」
NuScale Power(ニュースケール・パワー)が開発する「NuScale Power Module (NPM)」は、PWR型の小型軽水炉(熱出力:20万kW、電気出力:7.7万kW、炉心出口温度:316℃)である。
1モジュールは圧力容器・蒸気発生器・加圧器・格納容器を含む一体型パッケージで、最大12基のモジュールが地下プールの中に設置される。大型の冷却水ポンプや大口径配管が不要で、それぞれが独立したタービン発電機と復水器に接続される。
モジュール12基が設置された「VOYGR-12」は総出力:92.4万kWで、6基が設置された「VOYGR-6」は46.2万kW、4基が設置された「VOYGR-4」は30.8万kWとラインアップされている。
2020年9月、米国原子力規制委員会(NRC)はモジュール1基の出力が5万kWのNPMについて、SMRとして初の「標準設計承認(SDA)」を発給。2023年1月には設計認証(DC:Design Certification)を発給した。その後、設計改良が行われ、2023年1月には出力が7.7万kWのNPMのSDAを申請した。
米国エネルギー省の支援を受け、西部6州の電気事業48社で構成するユタ州公営共同事業体(UAMPS)が、アイダホ国立研究所(INL)内に初号基「VOYGR-6」を建設する計画を進め、最初のモジュールは2029年の運転開始を発表。2021年4月に日揮HD、2021年5月に IHI が相次ぎ出資を表明した。
2022年1月、英国シアウォーター・エナジーと、SMRと風力発電を組み合わせたハイブリッドエネルギー・プロジェクトをウェールズで進める協力覚書を締結。また、同年2月、KGHMポーランド採掘会社と、2029年までに「VOYGR」をポーランド国内で建設するため先行作業契約を締結した。
2022年4月、初号基建設に向け、韓国の斗山エナビリティ(=Doosan Enerbility、旧斗山重工業)と、原子炉圧力容器の鍛造材生産を始めとする主要機器の製造を本格的に開始する契約を締結した。
2022年12月、SMRを活用したクリーン水素製造を共同開発・実証するため、Shell Global Solutions(シェル・グローバル・ソリューションズ)、アイダホ国立研究所(INL)、ユタ州公営共同事業体、Fuel Cell Energy(フュエルセル・エナジー)他と共同研究協定を締結した。
出力変動する再生可能エネルギーの負荷調整を目的に、固体酸化物形電解セル(SOEC)で水素を製造・貯蔵し、逆反応である固体酸化物形燃料電池(SOFC)を用いて、貯蔵した水素で発電する。
2023年11月、アイダホ国立研究所(INL)で2029年の稼働を計画していた初号基「VOYGR-6」の建設中止を発表した。同年9月には中部電力も出資を発表しており、国内関係者に衝撃が走った。
米国初の案件であったが、2023年1月、発電価格が8.9セント(約13円)/kWhと当初計画より約5割高くなる見通しを発表し、さらにインフレや金利高で建造費なども高騰し、経済性が見込めないとの理由を発表した。
その他、米国Xcelエナジーやデイリーランド電力共同組合が、「VOYGR」導入を検討している。米国外では、カナダ、チェコ、エストニア、ポーランド、ルーマニアなどの企業が「VOYGR」導入を検討しており、それぞれが実行可能性調査などの了解覚書をニュースケール・パワーと締結している。今後の動向が注目される。
ホルテック・インターナショナルの「SMR-160」
Holtec International(ホルテック・インターナショナル)が進める「SMR-160」は、子会社SMRが開発中のPWR型の小型軽水炉(電気出力:16万kW、炉心出口温度:321℃)である。事故時に、外部からの電源や冷却材の供給なしで、炉心冷却が可能な受動的安全系を備えている。
カナダのSNC-ラバリン、米国のエクセロン・ジェネレーションなどが開発で参加し、燃料はフランスのフラマトムが供給する。
2022年3月、三菱電機は米国子会社 Mitsubishi Electric Power Productsを通じて、「SMR-160」向けの安全運転を支える計装制御システムの設計契約を締結した。
2022年10月、主要なEPC(設計・調達・建設)契約企業とし、米国外での「SMR-160」の建設プロジェクトを加速するため、韓国の現代建設と事業協力契約を締結した。
2023年2月、「SMR-160」の機器製造協力で、英国の大型鋳鍛造品メーカーであるシェフィールド・フォージマスターズと了解覚書を締結した。
「SMR-160」は、ニュージャージー州で保有する旧オイスタークリーク原子力発電所サイト、あるいは南部2州の候補サイトで初号基の建設を計画している。
また、2019年6月、ウクライナでの展開で、国営原子力発電企業エネルゴアトムらと国際企業連合を結成した。2022年7月、米国エンタジーと「SMR-160」を建設する実行可能性調査で協力覚書を締結した。2022年9月、チェコ電力(ČEZ)とテメリン原子力発電所での「SMR-160」の増設評価の継続で覚書を締結した。
GE日立・ニュークリアエナジーの「BWRX-300」
GE日立・ニュクリアエナジーと日立GEニュークリア・エナジーが開発するBWR型の小型軽水炉「BWRX-300」(熱出力:87万kW、電気出力:30万kW、炉心出口温度:288℃)は、実用化済みの改良型沸騰水型軽水炉「ABWR」の構造・部品を流用するため技術的な課題は少なく、早期の市場投入が可能である。
原子炉上部に設置した冷却用プールの大量の水を使い、ポンプや非常用ディーゼル発電機を不要とし、受動的に安全を確保する。工場で製造した部品(モジュール)を現地で組み立て、一次系以外には一般産業技術を積極採用することで建設費用や工期を抑え、約1000億円/基と公表した。
2021年11月、カナダの電力会社オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)が「BWRX-300」を選定した。受注額は4基合計で3000億円規模とみられ、オンタリオ州ダーリントンに建設する。2022年10月にカナダ原子力安全委員会(CNSC)に建設許可申請し、早ければ2028年末の初号機稼働をめざす。
2022年6月、サスカチュワン州営電力も、2030年代半ばまでにSMRを建設する場合、「BWRX-300」を採用すると表明し、同年9月に候補地2か所(サスカチュワン州のエステバンとエルボー)を選定した。
2021年12月、ポーランド最大の化学素材メーカーであるシントスのグループ企業が、ポーランドの石油精製企業PKNオーレンと合弁企業オーレン・シンソス・グリーン・エナジーを設立し、2030年代初頭までに少なくとも10基の「BWRX-300」建設に取り組む方針を発表した。
2022年8月、米国内テネシー峡谷開発公社(TVA)がクリンチリバー・サイトで「BWRX-300」を建設する可能性が出てきており、米国原子力規制委員会(NRC)の設計認証(DC)を受けるため許認可手続きを開始。2032年までに取得する計画である。
2023年2月、エストニアの新興エネルギー企業フェルミ・エネルギアは、同国初のSMRに「BWRX-300」を選定。2030年代初頭の完成をめざしている。
ラストエナジーの「PWR-20」
Last Energy(ラストエナジー)が開発を進めるPWR型の小型モジュール炉「PWR-20」(熱出力:6万kW、電気出力:2万kW)は、10基建設してベースロード用電源(総出力:20万kW)としての活用をめざしている。
従来の大型軽水炉と比べて製造に必要な費用と時間が大幅に削減される見通しで、最終投資判断が下されてから24か月以内の納入をめざしている。運転期間は42年を想定。
2022年6月、ポーランド政府所有の電力会社Enea(エネア)グループと、「PWR-20」導入を目指して建設の基本合意書を締結した。SMRの設計・建設から、資金調達、設置とメンテナンス、燃料供給と廃棄物の回収、廃止措置に至るまで、ラスト・エナジーが協力する。
2022年7月、ポーランドのレグニツァ経済特別区運営会社(LSSE:Legnica Special Economic Zone SA)、エネルギーの効率化サービスを提供するDBエナジーと、「PWR-20」を南西部レグニツァ地区内で10基建設する基本合意書を交わした。
コメント