革新軽水炉が2030年代中頃に稼働するために大きな障害となり得るのは、GX脱炭素電源法で原発の60年超運転を可能とした制度である。安全対策などで建設コストが1兆円規模となる革新軽水炉への建て替えに対して、電力会社は1千億円規模で済む従来原発の運転延長を選択する可能性が高い。
三菱重工業
革新軽水炉「SRZ-1200」のプラント・コンセプトを公表している。加圧水型軽水炉(PWR)を採用する北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力と協力し、福島第一原発事故の教訓を反映した新しい規制基準や国際原子力機関(IAEA)の最新基準を踏まえて開発を進めている。
SRZは、Supreme Safety(超安全)とSustainability(持続可能性)、Resilient(しなやかで強じんな)light water Reactor(軽水炉)、Zero Carbon(CO2排出ゼロ)で社会に貢献する究極型(Z)を表している。現在、電気出力:120万kW級の基本設計を進めている。
また、再生可能エネルギーの拡大に伴う電力系統の不安定対策として、1日単位の電力需要変化に合わせて出力を調整する日負荷追従運転や、秒~分単位の電力需要の変化に合わせプラント出力を±5%ほどで調整する周波数制御運転を可能とする。しかし、金属疲労への対策は明らかにされていない。
SRZ-1200の安全対策
①安全系設備の強化、自然災害への耐性、テロや不測事態へのセキュリティー強化:
建屋を岩盤に埋め込むなどして耐震性を強化し、地震・津波だけでなく、大型航空機の衝突などのテロに対しても防護対策を講じる。また、水素製造電源としての適応化の検討も進める。
②プラントの状態に応じて自動作動するパッシブ設備の採用:
高性能蓄圧タンクなどのパッシブ系システムと、炉心注水システムなどのアクティブ系システムとの組み合わせにより、安全対策を多重化する。
③溶融炉心対策であるコアキャッチャー設置と事故耐性燃料の開発:
仮に炉心溶融が起きた場合でも、溶融デブリを格納容器内で確実に保持・冷却するため、格納容器の下部にコアキャッチャーを設置する。
また、事故時の水素発生を抑制する事故耐性燃料(ATF)は、従来のジルコニウム(Zr)合金製の燃料被覆管外表面に、酸化・腐食に強いクロム(Cr)コーティングを施し、2030年代の実機適用を目指す。
④放出される放射能量を低減し、影響を発電所の敷地内に留めるシステム設計:
万が一の重大事故に備えて、格納容器の破損を防ぐ設備、セシウムやヨウ素を除去するフィルターベントシステム、ベントガスから放射性希ガスを吸着・分離・貯留するシステムなどを設置する。
小型軽水炉を含む他の次世代原子炉の実現に関しては、福島第一原発事故後に強化された安全規制が最大の壁になる。これに対して革新軽水炉は基本構造が既存原発に近く、新規制に対応しやすいと国内の原子炉メーカーは考えており、できる限りの早期実用化を目指して開発を進めている。
革新軽水炉への建て替え
原発立地の難しさから、「革新軽水炉」の設置は廃炉跡地への建て替えが主体になると考えられる。過酷事故対策を含む安全対策を強化し、国内の原子炉メーカーは2025年から詳細設計に入り、2030年代初頭から製作・建設、運転開始の目標時期は2030年代中頃を目指すとしている。現在は、概念設計中である。
福島第一原発事故以前に建て替えが明確だったのは、美浜原発1,2号と浜岡原発1,2号機であったが、2023年11月時点で、廃炉が決定した原発18基に具体的な建て替え検討は進められていない。電力会社が原発再稼働に優先的に人的資源と資金を回した結果で、原発の建て替えまでは手が回らなかった。
事故を起こした福島第一原発1~6号機を除き、国内では運転開始から約40年を経過する老朽原発のうち、比較的出力の低いものから廃炉が決定した。運転延長に必要な安全対策費が増大する中で、再稼働による収益改善効果が低く、廃炉費用が安い小型原発が対象になったのである。
実際、原発の廃炉には20~30年を要し、火力発電所の1~2年に比べて非常に長い。経済産業省が示す廃炉費用も、小型原発(出力:50万kW)350~476億円、中型原発(出力:80万kW)434~604億円、大型原発(出力:110~138万kW)558~834億円と、火力発電所(出力:50万kW)の30億円~に比べて桁違いに高い。
高い廃炉費用の負担の問題もあるが、廃炉に要する期間の長さが「革新軽水炉」への建て替えに大きな影響を及ぼす。革新軽水炉の運転開始目標が2030年代中頃としているが、2009年11月に廃止措置を開始して2036 年度に完了予定の浜岡原発1,2号機の跡地のみが、革新軽水炉の建設地となりえる。
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