1992年に建設を開始した軽水炉サイクルの中核である「再処理工場」は、トラブル続きで建設が大幅に遅れている。そのため、使用済核燃料の多くは原発内の貯蔵プールで仮保管されたままである。原発立地自治体からの要請で、電力会社が「中間貯蔵施設」への移設をめざしているが、施設の稼働も遅れている。
また、2000年に始めた「高レベル放射性廃棄物処分場」は、高レベル放射性廃棄物を10万年も貯蔵するという難しい問題のため調査段階にあり、建設の見通しは立っていない。
一方、福島第一原発事故で発生した放射性災害廃棄物は、政府が「中間貯蔵施設」を建設すると表明したが、最終処分場になることを危惧した住民の反対で進まず、地震や台風・大雨による放射性物質の流出が危惧される状況に置かれている。
原子燃料サイクルと放射性廃棄物
プルサーマル計画とは?
現在、原子力発電所(原発)で燃やされた使用済核燃料の多くは原発内の貯蔵プールで仮保管されており、一部が中間貯蔵施設に送られる計画である。また、生じた低レベル放射性廃棄物は、低レベル放射性廃棄物埋設センターに送られて浅地中への埋設が進められている。
使用済核燃料は現在建設中の再処理工場に送られ、高レベル放射性廃棄物を除去する。その後、プルトニウム239を分離・回収し、劣化ウラン(濃縮後にウラン235含有量が0.2%程度になったウラン)と混ぜて混合酸化物燃料(MOX燃料、プルトニウム239を4~9%含む)に加工し、軽水炉燃料として再利用される。
通常のウラン燃料(約2.7億円/トン)に比べてMOX燃料は高価(約4.2億円/トン)であるが、再利用しない「直接処分」に比べてウラン利用効率が1.2倍程度に高まり、プルトニウムを燃やすことができる。この方式を「プルサーマル計画」と呼び、原爆の原料となるプルトニウム量低減を主目的に行われている。
再処理工場で除去された高レベル放射性廃棄物は、冷却のために「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理施設」で30~50年間貯蔵された後、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の地下深く(300m以上)の安定した岩盤内に閉じ込める(地層処分と呼ぶ)計画である。
しかし、軽水炉サイクルの中核である「再処理工場」は、トラブル続きで建設が大幅に遅れている。そのため、使用済核燃料の多くは原発内の貯蔵プールで仮保管され、「中間貯蔵施設」の稼働も遅れている。「高レベル放射性廃棄物処分場」は調査段階にあり、建設の見通しは立っていない。
現在、まともに動いているのは、日本原燃の「低レベル放射性廃棄物埋設センター」のみで、浅地中への低レベル放射性廃棄物の埋設が進められている。
放射性廃棄物の分類
放射性廃棄物とは、原子力発電所や放射性物質を利用した医療、工業、原子力関連の研究開発などで発生する放射性物質を含む廃棄物である。
この放射性廃棄物処理に関しては、安全性確保の観点から原子炉等規制法、放射線障害防止法等の規制を受ける。福島第一原発事故により大気中に放出された放射性物質で汚染された物質は、放射性物質汚染対処特措法(2011年年8月30日 法律第110号)の規制を受け、従来の放射性廃棄物とは区別されている。
放射性廃棄物は、発生源および放射性物質の濃度により「高レベル放射性廃棄物」と「低レベル放射性廃棄物」に大別される。それぞれについて、放射性廃棄物の種類と発生源、ならびに放射性廃棄物の処分方法が明示されている。
高レベル放射性廃棄物は、使用済燃料の再処理により分離抽出された核分裂生成物を含む濃縮廃液と、これをガラス固化処理し金属容器に封じ込めたものである。現在、国内にあるガラス固化体は海外に製造委託したものが約2500本で、国内の使用済核燃料を処理すると合計で約26000本になる。
ガラス固化体1本には使用済核燃料が1トンほど内蔵される。約2500本は青森県六ケ所村の「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」に最長50年の約束で中間貯蔵されている。しかし、2045年に迫っているガラス固化体の青森県外搬出期限のため、最終処分場(容量:約4万本)を稼働させる必要に迫られている。
低レベル放射性廃棄物は、原子力発電所、ウラン燃料成型加工(転換、濃縮を含む)施設、再処理施設、研究施設、放射性同位元素(RI)使用施設などから出た、半減期が比較的短い放射性物質を含む。
低レベル放射性廃棄物の浅地中処分
現在、原子力発電所から出た低レベル放射性廃棄物は、1992年12月に操業を開始した青森県六ケ所村にある日本原燃の「低レベル放射性廃棄物埋設センター」で、一部の浅地中処分が始まっている。
原子炉施設の廃止措置で発生する低レベル放射性廃棄物は、放射能レベルが比較的高いものから低いものまで幅広く分布しており、放射能濃度に応じて余裕深度処分(地下50~100m)、コンクリートピット処分、人工構築物を設けないトレンチ処分に区分して埋設される。
再処理工場やMOX燃料工場の操業では、高レベル放射性廃棄物のほかにも、各種の低レベル放射性廃棄物が発生する。これらの廃棄物中には、TRU核種(ウラン238が中性子を吸収しβ崩壊を繰り返してウランより高い原子番号の元素になった種々の核種)が含まれ、放射能レベルに応じて埋設処分される。
ウラン濃縮工場や燃料加工の工場の操業では、半減期が極めて長いウラン廃棄物が発生する。ウラン濃度が比較的低い大部分の廃棄物については、浅地中処分を行うことが可能であり、再利用による資源の有効利用の可能性も含めた研究開発が進められている。
2019年末に読売新聞が国内の電力会社8社に対してアンケート調査を実施した結果:
■現時点で廃炉が決まっている原発18基の解体で排出される低レベル放射性廃棄物は合計約164000トンに達するが、93%の処分先が未定。(事故を起こした福島第一原発は廃炉工程が異なるため除く)
■この低レベル放射性廃棄物は、使用済核燃料の再処理で生じる高レベル放射性廃棄物以外のもので、放射能が高い順に制御棒などの「L1廃棄物」、汚染された廃液などの「L2廃棄物」、コンクリートなどの「L3廃棄物」に分類される。
L1廃棄物は電力会社が地下70m以上に300~400年埋設した後、国が10万年管理する。L2廃棄物は300~400年、L3廃棄物は50年、国が管理する。
■原発18基のうちで処分先が決まっているのは日本原子力発電の東海原子力発電所のみで、L3廃棄物12300トンを同敷地内に埋設することを東海村は認めている。しかし、放射能レベルの高いL1とL2廃棄物については、東海村は認めない方針を示している。
処分先を決めるには法的手続きの他に立地自治体の同意が必要であるが、立地自治体は廃棄物の受け入れには消極的であり、廃棄物の処理が停滞するのは自明である。
指定廃棄物と除染廃棄物はどうする?
環境省の廃棄物関係ガイドラインによれば、福島第一原発事故により発生した災害廃棄物は「指定廃棄物」と「除染廃棄物」に分けられる。
指定廃棄物
原発事故で飛散した放射性物質に汚染された水道施設、公共下水道・流域下水道、工業用水道施設、特定一般廃棄物処理施設又は特定産業廃棄物処理施設である焼却施設、集落排水施設から生じた廃棄物で、放射性物質濃度が8000ベクレル/kgを超えるものが指定廃棄物である。
2015年6月時点で指定廃棄物量は約16万トンに達し、宮城、栃木、群馬、茨城、千葉の5県が多いため、処分場をこの5県に1カ所づつ建設する計画である。しかし、住民の反対により農地などに一時保管されているのが現状で、処分場建設の目途は立っていない。
除染廃棄物
福島県内を中心に除染特別地域内又は除染実施区域内の土壌などの除染により発生したもので、政府は福島県内での中間貯蔵施設の建設を発表。しかし、中間貯蔵施設が最終処分場になる不安の声が強く、用地取得率は2017年6月時点で33%過ぎず、福島県内各地の仮置き場に一時保管されているのが現状。
2014年9月、政府は福島県内の除染作業で出た汚染土壌などを最長30年にわたり保管する総面積は16km2の中間貯蔵施設の建設を発表した。総事業費が1兆円規模の大型プロジェクトで、双葉町、大熊町にある福島第一原発周辺の用地を整備する計画である。
除染廃棄物の受け入れ・分別施設で重量・放射線量を測定して分別し、放射線セシウム濃度に応じて「土壌貯蔵施設」に埋設される。放射性物質の濃度が低く地下水を汚染する恐れがない土壌は低地に、それ以外は丘陵地や台地で底面に遮水シートや水を通しにくい地層を設置する。
雨水などは排水管を通じて水処理施設に集め、放射性物質を除去してから河川に放出する。草木などの可燃物は減容化施設で焼却して、専用のドラム缶に入れ、鉄筋コンクリート構造など遮蔽効果のある廃棄物貯蔵施設で保管する。
福島第一原発事故により発生した放射性災害廃棄物は、消滅した訳ではない。地震や台風・大雨による放射性物質の流出が危惧される状況に置かれている。
■「指定廃棄物」は、2015年6月時点で約16万トンに達した。宮城、栃木、群馬、茨城、千葉が多く、政府は処分場をこの5県に1カ所づつ建設するとしたが、住民の反対で農地などに一時保管されている。
■「除染廃棄物」は、2014年9月に政府が福島県内に最長30年にわたり保管する総面積は16km2の「中間貯蔵施設」の建設を発表したが、最終処分場になるとの不安から反対が相次ぎで、福島県内各地の仮置き場に一時保管されている。
使用済核燃料の再処理工場の建設遅れ
プルサーマル計画を進めるためには、青森県六ヶ所村で日本原燃が建設を進める「核燃料再処理施設」を稼働させる必要がある。六ヶ所村には、1992年から操業している「ウラン濃縮工場」と「低レベル放射性廃棄物埋設センター」、1995年から操業している「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」がある。
しかし、施設の中核である核燃料の「再処理工場」の操業が大幅に遅れている。1992年に建設を開始したがトラブル頻発により、2021年6月には総事業費が14.44兆円に膨らんだことを公表し、2022年9月には26回目となる工事完成の延期を発表。日本原燃は「2024年度のできるだけ早い時期の操業」を公表した。
しかし、2024年8月、日本原燃は、六ヶ所再処理工場、MOX燃料工場の竣工目標を、それぞれ「2026年度中」、「2027年度中」に延期すると27回目となる延期を発表した。
同社はこれまで、六ヶ所再処理工場は「2024年度のできるだけ早期」、MOX燃料工場は「2024年度上期」を竣工時期として、設備工事計画認可の審査、工事、検査に取り組んできたが、2024年9月以降も審査への対応が継続すると判断。原子力規制委員会の審査会合を踏まえ、新たな竣工目標を検討するとしていた。
再処理工場が完成すれば、フル稼働時には約800トン/年の使用済核燃料を処理できる。使用済核燃料は各原発などで管理保管されており、2023年の総量は約1.9万トンに達する。全施設の管理容量は合計約2.4万トンのため約80%に達しており、再処理工場の早期の稼働が待たれる。
また、使用済核燃料から抽出されたウランとプルトニウムから混合酸化物(MOX)燃料を製造する「MOX燃料工場」も、2020年12月に原子力規制委員会から安全対策が新規制基準に適合したことを認められたが、2021年6月には総事業費が2.43兆円に膨らんだことを公表し、2024年度上期に竣工を延期してい。
再処理工場の立地自治体である青森県では、核燃料サイクルが滞った結果、なし崩し的に高レベル放射性廃棄物の最終処分地になる事態を懸念している。
2024年6月、使用済燃料再処理・廃炉推進機構は、日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)の総事業費見通しが、2023年の試算から4000億円増え15兆1000億円になったと発表。耐震評価など新規制基準への対応のほか、廃棄物の輸送費、人件費、光熱費などの上昇、諸税などを反映した。
使用済核燃料の再処理工程
再処理工場での工程:
①原発から運ばれてきた使用済核燃料は、使用済燃料輸送容器(キャスク)から取り出され、燃料貯蔵プールで冷却・貯蔵して放射能を数百分の1に減衰。(原発のプールでの冷却・貯蔵と合わせて4年以上)
②長さ約3mの燃料棒を被覆管ごと数cm程度に細断し、高温の硝酸で溶かしてウラン・プルトニウム・核分裂生成物などが混ざる硝酸溶液にする。溶け残った被覆管などの金属片は、固体廃棄物として処理。
③硝酸溶液と油性の溶媒を混合して第一段階で核分裂生成物を分離する。分離した核分裂生成物は濃縮され高温のガラス原料と混ぜ、ステンレスの容器(キャニスター)に入れて固化。
④さらに、化学的性質の違いを利用して第二段階でウラン溶液とプルトニウム溶液を分離。
⑤精製工程で、ウラン溶液とプルトニウム溶液中の微量な核分裂生成物を除去した後、脱硝工程でウラン溶液から硝酸を蒸発・熱分解させて、酸化ウラン粉末として貯蔵。
⑥プルトニウム溶液は、一度分離したウラン溶液と1:1の割合で混合され、硝酸を蒸発・熱分解させて、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)粉末の状態で貯蔵。
高レベル放射性廃棄物のガラス固化
再処理工程で出る高レベル放射性廃棄物は液体のため蒸発濃縮して容量を減らした後、ガラス原料とともに高温で溶かし混ぜ合わせ、ステンレス容器(キャニスター)に入れて冷却しガラス固化体とする。 ガラスは水に溶けにくくて化学的に安定なため、放射性物質を長期間変化なく閉じ込めるために使われる。
ガラス固化体は、強い放射線を発し、製造直後の表面温度は200℃を超える。そのため青森県六ヶ所村の「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理施設」で30〜50年間にわたり冷却しながら貯蔵した後、最終処分地に向けて搬出し、300m以上の深い地層中に処分(地層処分と呼ぶ)され、以後、10万年にわたり保管される。
使用済核燃料の中間貯蔵施設の建設遅れ
政府は原発で生じた使用済核燃料に残るウランとプルトニウムを抽出し、MOX(混合酸化物)燃料に加工し再利用する核燃料サイクルを進めている。電力会社は原発の貯蔵プールで使用済核燃料を仮保管し、青森県六ケ所村の再処理工場で処理を行う計画であったが、その稼働が30年超も遅れている。
その結果、使用済核燃料は各原発の貯蔵プールなどで管理保管されており、2023年の総保管量は約1.9万トンに達する。全施設の管理容量は合計約2.4万トンのため約80%に達する。そのため、一時保管が継続されて最終処分地化するのを懸念した立地自治体が、電力会社に搬出を強く促す動きが出ている。
2020年11月に原子力規制委員会は、東京電力柏崎刈羽原発(保管量:2370トン、保管率:81.4%)と日本原子力発電敦賀原発(保管量:630トン、保管率:69.2%)、東海第二原発(保管量:370トン、保管率:84%)の使用済核燃料を保管する青森県むつ市の「中間貯蔵施設」の安全審査の合格を発表した。
これにより、2021年度以降で最長50年間の使用済核燃料の保管が可能となった。しかし、他の原発では県外への搬出先が見出せていない。そのため、2020年12月に電気事業連合会は青森県むつ市で建設中の「中間貯蔵施設」の原発各社での共同利用の考えを示したが、地元むつ市から強い反発を受けた。
リサイクル燃料備蓄センター(東京電力、日本原子力発電)
2010年8月、東京電力と日本原子力発電により、青森県むつ市で「リサイクル燃料備蓄センター(貯蔵量:5000トン)の建設が始まり、2013年8月には貯蔵建屋(1棟目:3,000トン)が完成した。しかし、原子力規制委員会による安全審査の長期化や、安全対策工事の追加などから操業開始を9回延期している。
すなわち、2013年12月施行された「核燃料施設等の規制基準」に適合するため、2014年1月に事業変更許可申請を行い、2020年11月に事業変更許可を得た。2023年8月、「保安規定」が認可され、運営会社のリサイクル燃料貯蔵(RFS)は青森県とむつ市に対し、中間貯蔵事業の開始を2024年上期をめざすと伝えた。
使用済核燃料は、年間で約200~300トンを4回程度に分けて貯蔵建屋に搬入される。建屋の使用期間は50年、二重の蓋で放射性物質を閉じ込めた金属製収納容器(キャスク)についても最長50年間とし、操業開始後40年目までに貯蔵した使用済核燃料の搬出について協議するとしている。
原子力規制委員会により承認された中間貯蔵施設は、高さ28mの建屋内に使用済核燃料を入れた直径約2.5mのキャスクを設置し、空気の対流で冷却する乾式貯蔵が採用された。これは原発の貯蔵プールでポンプで水を循環させて冷却する方式に比べて危険性が低いと考えられている。
2024年3月、リサイクル燃料貯蔵(RFS)は安全対策工事を3月中に終え、使用済み核燃料中間貯蔵施設(むつ市)の操業開始目標を2024年7~9月と示し、2024年度から3年間の貯蔵計画を県やむつ市に報告した。 RFSによると使用済核燃料を入れた収納容器を2024年度に1基、2025年度に2基、2026年度に5基搬入する。
2024年8月、原発敷地外で使用済み核燃料を一時保管する全国初の中間貯蔵施設の稼働に向け、青森県とむつ市、運営会社のリサイクル燃料貯蔵(RFS)が、施設の使用期限を50年とする安全協定を結んだ。事業実施が困難となった場合、東京電力HD、日本原子力発電が搬出に責任を負う覚書も交わした。
RFSによると、原子力規制委員会の使用前検査を経て9月までに一時保管の開始をめざす。今年度は東電柏崎刈羽原発から燃料12トンを受け入れ、2026年度までに計96トンが搬入される計画である。
2024年9月、リサイクル燃料貯蔵(RFS)は、中間貯蔵建屋に柏崎刈羽原発の使用済み核燃料を搬入した。柏崎刈羽原発からキャスク1基を専用船でむつ市の港へ搬出し、陸路を経て原発敷地外で使用済み燃料を保管する国内初の中間貯蔵施設に搬入された。
キャスクには69体の使用済み燃料が収納されており、今後、1週間程度かけて検査を進め、原子力規制庁による確認を経て、10月中に稼働を始める。中間貯蔵施設ではキャスク288基、ウラン重量ベースで3000トン収容でき、2000トン収容できる2棟目の建設も予定している。
新潟県柏崎市長は6、7号機の使用済み核燃料に関し、貯蔵率を「おおむね80%以下にすること」を再稼働に同意する条件に掲げている。今回搬出したのは4号機で、貯蔵率は68%から65%に下がる。
2024年11月、使用済み核燃料を保管する青森県むつ市の中間貯蔵施設が操業した。再処理するまでの最長50年間にわたり保管する。
中間貯蔵施設の建設問題(関西電力、中国電力)
一方、福井県内にある関西電力の7基の原発にも大量の使用済核燃料が保管され、貯蔵容量の8割を超えており、県外への搬出を迫られている。関電電力は、中間貯蔵施設の県外候補地を2023年内に選定できなければ、40年を超えて運転している高浜1、2号機と美浜3号機の運転を停止するとの約束を交わしている。
2023年6月、関西電力は使用済核燃料の一部をフランスに搬出する計画を福井県に報告し、理解を求めた。関西電力は2030年頃に2000トン規模の中間貯蔵施設へ移送する計画であり、フランスへの搬出は10%の200トンに留まるため、福井県側には不満の声が上がった。
2023年8月、中国電力が山口県上関町に提案した中間貯蔵施設の建設をめぐり町議会が開かれ、建設に向けた地質などの調査を受け入れを表明した。中国電力は関西電力と共同で、上関町にある中国電力の原発建設用敷地内で調査を行う。
2023年10月、福井県知事は、関西電力の原子力発電所で生じる使用済核燃料をフランスに搬出する計画や、県内の貯蔵量を増やさない姿勢を「一定の前進があった」と評価。高浜1、2号機と美浜3号機について、「来年以降の運転継続について理解を示したい」と表明した。
関西電力は使用済核燃料の県外搬出について、新たに青森県六ケ所村の再処理工場(2024年度上期完成予定)への2026年度から搬出、2030年頃に中間貯蔵施設の操業を開始して搬出を示した。また、原発敷地内での使用済核燃料のキャスクへの保管と貯蔵容量を原則増加させないことを表明した。
2024年2月、関西電力は福井県内3カ所の原発全てに、使用済核燃料を空気で冷やす「乾式貯蔵施設」を建設する方針を発表。美浜原発(貯蔵容量:約100トン)、高浜原発(約350トン)、大飯原発(約250トン)の敷地内に建設し、2027〜30年に順次稼働する。関電の原発で発生する使用済核燃料の5〜6年分に相当する。
使用済燃料を15年以上プールで冷やした後、金属製キャスク移し替え、空気循環で冷却する。国内では日本原子力発電の東海第2原発で実用化され、四国電力や九州電力も設置する方針を示している。関西電力は移し替えで空いた貯蔵プールのスペースは原則使わないとし、貯蔵量を増やさないと説明している。
使用済核燃料の再処理工場の建設が30年超遅れたことで、電力会社の保有する原発内の貯蔵プールは、使用済核燃料で満杯状態にある。これを危惧した原発立地自治体の要請を受け、電力会社は独自に中間貯蔵施設の建設を開始した。しかし、これは問題の先送りに過ぎない。
問題の根本は再処理工場の建設の遅れである。莫大な投資と30年超の長期間をかけても解決できない難しい技術なのであろう。多くの国が経済的・技術的な難易度から、再処理から撤退したことからも伺い知れる。「核燃料の直接処分」に大きく方向転換する時にきているのではないだろうか?
高レベル放射性廃棄物の最終処分場は?
原発を始めたからには避けて通れないのが、高レベル放射性廃棄物の最終処分である。各原発の貯蔵プールなどで仮保管されている使用済核燃料の2023年の総保管量は約1.9万トンに達する。その他にも、廃炉から出る高レベル放射性廃棄物の量は膨大である。いつまでも問題の先送りでは済まない。
高レベル放射性廃棄物の地層処分
再処理工場から出た高レベル放射性廃棄物のガラス固化体は、冷却のために30~50年間、青森県六ヶ所村の「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理施設」で貯蔵される。
その後、地下300mより深い安定した地層中に処分(地層処分と呼ぶ)される。 この処分方法は、地下深部の地層が本来持っている「物質を閉じ込める力」を利用したもので、国際的にも最も好ましい方法とされている。
国内での放射性廃棄物の最終処分地の動き
2000年5月、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が施行され、同10月に電力会社を中心に事業主体となる原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立された。2002年12月から、NUMOは最終処分地選定調査の公募を開始した。
一方、2001年7月、北海道北部に現在の日本原子力研究開発機構が幌延深地層研究センターを開所した。「地上からの調査研究(第1段階)」に始まり、「深度140m、250m坑道掘削(地下施設建設)時の調査研究(第2段階)」を経て、2010年からは「350m地下施設での調査研究(第3段階)」を進めている。
2024年1月、幌延深地層研究センターは、地下350mの試験坑道の拡張工事を終えた。2025年度末までに地下500mまで掘り下げる計画で、地層処分に関する知見を深める。
現在は、地下に掘削した坑道の中で精密な物理探査やボーリング調査を行い、坑道周辺の地層、地下水の性質、地震への影響などの長期的変化を調査中である。ただし、研究終了後は地下施設を埋め戻し、研究実施区域を放射性廃棄物の最終処分場とせず、中間貯蔵施設も設置しないことを幌延町と約束している。
2007年には高知県東洋町が応募を検討するが、住民反対でとん挫するなど受け入れ自治体が現れなかった。2015年3月に最終処分に関する新たな基本方針を閣議決定し、政府が全面に立ち科学的有望地を示して自治体に調査協力を申し入れる方針に変更した。
2017年7月、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の候補地となる地域を示す科学的特性マップを公表し、全国の自治体に通知した。マップに示されたのは、火山や活断層から遠く、高レベル放射性廃棄物を数万年~10万年にわたり安全に管理できる可能性がある地域とされた。
また、これまで最終処分場は内陸の地下300mよりも深い地層とされていたが、海岸から20km以内の沿岸部や島の地下も一時保管する青森県六ケ所村から船での搬送が容易なため適地とされた。条件に見合う土地は国土の65%である約900市区町村あり、海岸地域はその約30%が該当する。
最終処分地の調査は第1段階の文献調査(2年、交付金10億円/年で上限20億円)に始まり、掘削調査で地質や地下水の状況を確認する第2段階の概要調査(4年、交付金20億円/年で上限70億円)、地下施設を作り周囲の環境状況を直接調べる第3段階の精密調査(14年、交付金未定)で行われる。
市長村長、都道府県知事の首長には、調査が次の段階に移行する際に反対する権限を認め、20年程度かけて建設場所が決定される計画である。
2020年11月、北海道の寿都町、神恵内村が名乗りをあげ、電源立地地域対策交付金(調査期間中最大20億円)により文献調査が開始された。一方、北海道知事は条例で高レベル放射性廃棄物は受け入れがたいとし、第2段階の概要調査には反対を表明している。
一方、2023年9月、文献調査の受け入れを検討していた長崎県対馬市が、市議会で調査を受け入れない意向を表明した。
2024年2月、NUMOは第1段階の文献調査結果の報告書案を公表した。寿都町は町全域を、神恵内村は積丹岳の半径15km圏内に入るため南端部(陸域3~4km2)を第2段階の概要調査の候補地とした。北海道知事は、反対姿勢を貫いており、第2段階の概要調査へのハードルは高い。
高レベル放射性廃棄物の処分方法は、2000年から種々の検討が加えられている。しかし、肝心の最終処分場に関しては見通しが立たず、一時保管/中間貯蔵の状態が今後も継続すると考えられる。
都道府県レベルでは、どの自治体も「高レベル放射性廃棄物を10万年も貯蔵する」ことに関しては否定的であることは容易に推し量れる。そのため、今後は、増え続ける高レベル放射性廃棄物の”たらい回し”が心配される。問題の先送りでは、本質的な解決にはならない。
2024年3月、高レベル放射性廃棄物の処分方法に関し、地層処分に反対する地質学などの専門家3人が経済産業省の審議会に出席し、「地下の変動が激しい日本に適地はない」とする意見を述べた。
北海道教育大学名誉教授の岡村聡さんは、「日本は、複数のプレート境界の影響で地下の変動が激しく、地層処分にはそもそも適していない」と述べた。
北海道大学名誉教授の小野有五さんは「過去の地震の経験から、断層が動いた場合には広い範囲で地下が変形すると考えられ、日本の多くの場所が不適切だと考えるべきだ」と主張した。
経済産業省の担当者は、「実際の処分地選定は、20年程度かけて段階的に調査を行って進めていく。活断層や火山は繰り返し同じ地域で活動しているので、そうした地域を避けて適地を探すことは可能だ」と述べ、政府の見解を説明しました。
2024年5月、佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査を受け入れる考えを示した。同町には九州電力の玄海原発がある。調査を受け入れるのは原発立地自治体では初めてで全国3例目となる。
最終処分場は、10万年という長期にわたり高レベル放射性廃棄物を保管する場所であり、放射性物質の漏洩があってはならない。20年程度の調査で、これを科学的に証明することができるのか?大きな疑問に、経済産業省は答えていない。
火山・地震活動が活発化している現状を考えると、既に法律化されている最終処分場の選定に関して、様々な専門家を入れて再度議論する必要がある。
海外での最終処分場に向けた動き
フィンランド
2000年に最終処分地を決定し、2016年からフィンランド南西部のオルキルオト島で、世界初の高レベル放射性廃棄物の最終処分場「オンカロ処分場」の建設を開始した。花崗岩の地盤を掘削する工事で、電力会社でつくる運営主体のポシバは、2021年12月に2024年からの操業を政府に申請した。
2120年代までに約6500トンの使用済核燃料の保管作業を終える。フィンランドでは核燃料サイクルは行わないため、使用済核燃料を直接に円筒形の金属性容器に封入して地下約400~450mに閉じ込め、100年後に施設が満杯になった段階で封鎖する。放射線が安全レベルに下がるまで10万年間保管する。
スウェーデン
2009年に最終処分場の建設地を、ストックフォルムの北約120kmにあるエストハンマル自治体のフォルスマルクに決め、安全審査に入った。2022年1月には世界で2例目となる建設計画が承認され、2023年以降に建設が始まり、2030年代後半の地層処分を予定している。
スウェーデンも再処理は行わず、使用済燃料は既に約8000トンあり、最終的に約12000トンを予定している。同国南部オスカーシャムにつくる施設で使用済核燃料を銅製容器に入れ、北に約400km離れたフォルスマルクの地下約500mに閉じ込め、10万年単位で保管するとしている。
フランス
2000年からパリ東部のビュール地下研究所が最終処分場の建設に向けた試験施設で実験を開始し、2006年には議会が地下での最終処分場建設の基本方針を議決し、事実上ビュール村での建設計画が決まった。政府機関が2023年1月に最終処分場の許可を申請し、2025年の操業開始を予定している。
試験施設近くの地下500mに計画される最終処分場は、厚さ約120mの粘土層で囲まれ広さ15km2である。国内の原発(現在56基)などから出る放射性廃棄物8.5万m3を受け入れる。搬入開始後、約100年間は科学技術の進展を待ち、より良い処分法が開発されれば廃棄物を搬出する。現時点で、反対派住民らの声は強い。
米国
米国は政府主導で、2002年にネバダ州ユッカマウンテンに最終処分地を決定し、エネルギー省が建設申請をしたが、2009年のオバマ政権が計画中止の方針を打ち出し、審査が中断した状態にある。
使用済核燃料は、原発内でプール貯蔵または乾式貯蔵キャスクでの貯蔵、一部はイリノイ 州モリス中間貯蔵施設(プール貯蔵方式)で貯蔵されている。また、スリーマイル島原発2号機の事故により発生した燃料デブリと使用済核燃料は、別途にアイダホ国立研究所(INL)で保管されている。
スイス
スイスでは首都ベルン北部のモン・テリ岩盤研究所で地層処分の実験が進められている。2022年9月、放射性廃棄物管理共同組合が、最終処分候補地を北部のノルドリッヒ・レーゲルン地方に決定したと発表。国内で稼働中の5基の原発から発生する放射性廃棄物を、全て地層処分できるとしている。
地層処分施設は地下800mの深さで、放射性廃棄物を閉じ込める作業を行う工場はアールガウ州ビュレンリンゲンの既存のツビラグ中間貯蔵施設内に建設する。建設予定地の岩盤はオパリナス粘土層で遮水性に極めて優れており、放射性物質が漏れ出すのを防げる。
ドイツ
2023年4月に脱原発を達成したドイツは、中間貯蔵施設が国内に16カ所あるものの、最終処分場の建設のめどは立っていない。北部のゴアレーベンが候補地にあがったが、住民の反対運動で2013年に撤回された。2020年には連邦放射性廃棄物機関(BGE)が最終処分場の基準を満たす90地域を発表した。
対象地は国土の54%の土地で、2027年後半までに地上探査をする地域の絞り込みをめざしている。BGEによれば候補地の決定は、2046~68年の間になる可能性があるとしている。
高レベル放射性廃棄物を10万年も貯蔵するとなると、多くの国、地域で慎重となるのは当然である。事前検討を行っているが、10万年の間に何が起きるかは分からない。特に、火山・地震大国である日本では、どの地域であっても誰も10万年の安全・安心を保障することできない。
その結果、既に設置されている原発とは別に、中間貯蔵施設が各地にできて高レベル放射性廃棄物が分散貯蔵され、国内での”たらい回し”が始まる。この状況の異常性に早く気付く必要がある。
原発を稼働させる限り、高レベル放射性廃棄物は増産される。いずれ原発や中間貯蔵施設で想定外の火山・地震の影響を受けて、放射線漏れの発生が危惧される。