2023年4月、宣言通りにドイツが「脱原発」を完了した。一方で、欧州の多くの国はエネルギー安全保障を強化するため「脱ロシア」を念頭に置き、原発回帰の動きが活発化している。米国では約35年振りに新規建設の原発が本格稼働を開始した。
しかし、欧米での原発新規建設には、安全対策や様々なトラブルのために、想定外の工期延長と建設費用の高騰が生じているのも事実である。
欧米の原発事情
ドイツの脱原発
2023年4月、ドイツで稼働中の原発3基が運転を停止し、脱原発が完了した。2002年、シュレーダー政権時代に法制化され、メルケル政権が産業界に配慮して方針を見直したが、2011年の福島第一原発事故を受けて再転換し、全廃に向けて原発17基の段階的閉鎖が進められた。
現ショルツ政権では、再生可能エネルギーでまかなう電力を現在の51%から2030年に80%、2035年までに再生可能エネルギーのみによる電力供給を目指している。
しかし、ドイツ国内でも原発支持派と反対派が対向している。原発支持派はロシアからのエネルギー供給が減り、価格が高騰している時に原発を停止したため、化石燃料依存を高めたと批判し、短期的なエネルギー不足、電力価格高騰、CO2目標の未達成を懸念している。
一方、原発反対派は、風力や太陽光発電よりコストが高い原発への依存は非理論的と指摘。老朽化原発の維持にも多額の投資が必要で、再生可能エネルギーに投資すべきとしている。将来にわたり、大惨事を引き起こす原発事故が再び起きないよう原発閉鎖を推進する。
一方、スペインは、国内の原発7基を2035年までに全廃する方針であるが、野党から反対の声が上がっている。また、原発の段階的廃止を決定したスイスも、世論調査で原発増設を求める声が過半数を占めたとの報道もあり、脱原発にもろ手を挙げての賛成ではない。
欧州の原発回帰
2022年2月、フランスのマクロン大統領は、化石燃料からの脱却に伴い最大60%の低炭素電力の増産が必要であるとし、再生可能エネルギーと原子力の2本立てで電力供給力を増やす方針を示した。
原子力は、安全性が確保できる40年超原発の運転延長と、欧州加圧水型軽水炉(EPR)を改良した「EPR2」の6基建設に着手し、さらに8基の追加新設を検討する。2028年に1号機に着工、2035年の運転開始を目指す。また、2030年までに10億ユーロをかけ、小型モジュール炉(SMR)など革新的な原子炉開発を促す。
一方、2007年に北部ノルマンディ地方で建設開始したフラマンビル原子力発電所3号機(EPR、出力:163万kW)は、2012年に完成予定であったが、技術的課題や建設費高騰で工期延期を繰り返している。総事業費は当初予定の4倍(約1兆9000億円)に膨らみ、本格稼働は2024年以降に延長された。
2022年4月、英国はエネルギー安定供給に向けた新中長期計画を公表し、2030年までに原子炉を最大8基建設し、2050年時点の原発比率を16%程度から25%に引き上げると発表した。
2022年8月、ハンガリー原子力庁は、パクシュ原子力発電所5、6号機(VVER-1200、120万kW×2基)の建設許可を発行した。ロシア国営原子力企業ロスアトムによれば、EU域内で「VVER-1200」原子炉の建設許可が発行された初のケース。
2022年11月、ポーランドは大型原子力発電所3基に米国ウェスチングハウス「AP1000」の建設を決定した。2033年までに同国初となる原発を稼働させ、2043年までに合計6基(出力:600万~900万kW)を導入し、総発電量の23%を目指す。SMRの導入検討も進めている。
2022年12月、オランダは、2035年までに原子力発電所2基を新設する方針を公表した。国内の総発電量の最大13%をまかなう計画で、2028年には1号機を着工する。
2023年4月、フィンランド南西部のオルキルオト原子力発電所で、欧州最大級の3号機(出力:160万kW、EPR)が本格稼働した。原発新設は約40年ぶりとなる。ロシアからの電力・ガス供給が停止する中、同機の本格稼働でフィンランドは電力自給がほぼ可能になる。
2005年8月に、世界で初めてフランス・アレバ(現フラマトム)設計のEPRが採用された。当初は2009年完成予定であったが、初号機のためと規制関係文書の確認作業や土木工事などで工期延長を繰返し、建設費は当初予定の約30億ユーロ(約4400億円)が2倍以上に膨らんだ。
米国の新規建設
2023年7月、米国ジョージア・パワー他は、ボーグル原子力発電所3号機(出力:110万kW)の営業運転を開始した。1979年のスリーマイル島原発事故後に新規着工した商業炉としては約35年ぶりである。ウェスチングハウス(WH)が設計したPWRの革新軽水炉「AP1000」で、4号機も2024年春までに稼働する。
原発事故などの場合、運転員の操作や電源なしに重力による水の落下で自動的に冷却できる安全対策を施した。2016年頃の稼働予定が、建設費高騰や工期大幅延長の結果、3,4号機合計の建設費は当初想定の約2倍の300億ドル(約4.2兆円)を超え、WHが一時経営破綻する事態を招いた。
一方、サウスカロライナ州では、ボーグル原子力発電所3,4号機とほぼ同時期に、スキャナとサンティー・クーパーがサマー原子力発電所2,3号機に、同じく「AP1000」を採用して着工したが、2017年3月のWH倒産申請を受けて同プロジェクトは中止となった。
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