革新軽水炉はいつ稼働するのか?(Ⅰ)

原子力

 2011年の福島原発故により、世界の原子力発電所の新規建設は急減。その後、新興国における新規建設と先進国における経年炉の廃炉とがほぼ同等の状態が続いた。
2020年代に入るとCO2排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」が国際的な課題となる中で、原子力発電を再評価する動きが出てきた。
 世界原子力協会(WNA)の「原子力発電所運転実績レポート2023」では、2022年の原子力発電量は合計2兆5,450億kWhで、2021年よりも1,000億kWh程減少したが、6年連続で2兆5,000億kWh以上を発電している。

世界の原発事情

 2023年12月、アラブ首長国連邦ドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、日本をはじめとする22か国が、「パリ協定」で示された世界の平均気温の上昇幅を1.5℃に抑える目標の達成に向け、世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させるという宣言文書に署名した。

 現在、原発を保有あるいは計画している40カ国のうちの22カ国(日本、アラブ首長国連邦、ウクライナ、英国、オランダ、ガーナ、カナダ、韓国、スウェーデン、スロバキア、スロベニア、チェコ、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、米国、ポーランド、モルドバ、モロッコ、モンゴル、ルーマニア)が署名した。

 2050年までに世界の原子力発電設備容量を、2020年比で3倍とする目標を掲げるだけでなく、小型モジュール炉(SMR)や先進炉の導入拡大、原子力を利用した水素製造などにも言及し、電力以外の産業分野への応用も視野に入れた。また、世界の金融機関に対し、原子力を融資対象に含めることを奨励した。

 世界的な異常気象の頻発で、地球温暖化への危機感が高まり、再生可能エネルギーと並び原子力が切り札であるとの認識が進んだ結果であるが、過去を振り返ってみよう。 

原発の増設期

 世界の原子力発電所は1950~1960年代に稼働している。1954年、旧ソ連オブニンスク原子力発電所(出力:6000kW、黒鉛炉)、1956年、英国コールダーホール原子力発電所(出力:6万kW、黒鉛炉)、1957年、米国シッピングポート原子力発電所(出力:10万kW、PWR)が相次いで発電を開始した。

 その後、経済性から原子炉は大型化し、ピークの1970年代には20~30基/年で新規建設が進められた。この時期は第一次石油危機(1973年)とも重なり、第4次中東戦争を契機にOPEC諸国が原油価格を引き上げたため、石油代替エネルギーとして原子力発電が大きな期待を担った

原発の転換期

 1980年代から1990年代に至るまで、世界レベルで原油需要が減退し、非OPEC諸国の原油生産拡大により需給が緩和された。加えて、1979年の米国スリーマイル島原子力発電所事故の影響で、1980年代には原子力発電所の新規建設は大きく減少した。
 さらに、1986年には旧ソ連チョルノービリ原子力発電所事故が発生し、1990年代も新規建設が大きく減少し、廃炉件数が増加した

 2000年代に入ると化石燃料需給が逼迫ひっぱくして原油価格が高騰した。地球温暖化対策の高まりを背景に、再び原子力発電所の新規建設が増え始め、「原子力ルネッサンス」と呼ばれる時代に突入した。
 しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故の発生で、新規建設は急減した。その後、新興国の新規建設と先進国の経年炉の廃炉とがほぼ同等の状況が続いた。

 国際エネルギー機関(IEA)によると、原子力発電投資2015年の330億ドルをピークに落ち込み、2017年は2016年比45%減の170億ドルと低水準になった。これは脱原子力発電所が進むと共に、安全対策費の大幅増加で、電力会社が新規投資に慎重になったことが原因である。

原発の再評価

 2020年代に入るとCO2排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」が国際的な課題となる中で、原子力発電を再評価する動きが出てきた。2021年11月、英国グラスゴーでの第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、フランス・マクロン大統領が原子力発電所の建設再開を発表した。

図1 世界の原子力発電所の新設と廃炉の状況 出典:WNA, IAEA

 世界原子力協会(WNA)が、「世界の原子力発電所運転実績レポート2023(World Nuclear Performance Report 2023)」を発表した。2022年の原子力発電量は合計2兆5,450億kWh、2021年よりも約1,000億kWh減少したが、6年連続で2兆5,000億kWh以上をキープしている。
 2022年には原子力発電量が減少した。主要因は、フランスの多くの原発が原子炉配管の応力腐食割れで停止ドイツの2021年末での原発3基の閉鎖ロシアのウクライナ侵攻で停止したザポリージャ原発6基など西・中欧の発電量低下の影響があげられる。

 対照的に、原子力発電量の増加が顕著なのはアジアである。アジアの原子力発電量は2022年に370億kWh増加した。過去10年間で、2倍以上に増加し、現在、西・中欧の原子力発電量を上回っている。建設中の原発の3/4がアジアで、この傾向は今後も継続される。

図2 世界の地域別での原子力発電量の推移 出典:WNA、IAEA

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