ITERは発電システムの検証を含まない核融合実験炉であり、ITER終了後に各国が原型炉を建設し、その後に商用炉に進む予定であった。しかし、ITERの大幅な建設遅れが原因で、EU、日本、韓国、中国は個別に原型炉(DEMO)の開発に向けて動いている。
一方で、英国、米国においては核融合ベンチャーの誕生が相次いでおり、それぞれ独自の技術に基づいて開発が進められている。
海外における核融合開発
ITERは発電システムの検証を含まない核融合実験炉であり、ITER終了後に各国が原型炉を建設し、その後に商用炉に進む予定であった。しかし、ITERの大幅な建設遅れが原因で、一部の国では個別に原型炉(DEMO:DEMOnstration Power Station)の開発に向けて動いている。
DEMOは各国・地域が、それぞれの地域で開発・建設する。
EUは「EU DEMO」(発電出力:200万kW、竣工予定2050年頃)、日本は「JA-DEMO」(150万kW、2045年頃)、韓国は「K-DEMO」(50万kW、2037年頃)である。中国のDEMOは「Chinese Fusion Engineering Testing Reactor(CFETR)」(100万kW、2025年頃)と「The prototype fusion power plant (PFPP) 」(100万kW、2060年頃)の2段階で進められている。
今後、建設が予定されるDEMOはITERに比べてさらに大型化するため、建設コストが10兆円近くになる可能性もあるといわれ、その先の商用炉までには天文学的な費用を要する可能性のある。
欧州(EU)
2014年、欧州の核融合研究の統括組織として、欧州連合、英国、スイス、ウクライナの30の核融合研究団体や大学からなる「EUROfusion(ユーロフュージョン・コンソーシアム)」が設立された。
EUROfusionでは、ITER実験の準備と核融合発電実証プラントDEMOのコンセプトの開発などに関する共同研究プログラム(Euratom Horizon 2020)が実施されている。
2022年2月、英国オックスフォード近郊の欧州トーラス共同研究施設(JET:Joint European Torus)での実験では、重水素と三重水素を核融合した時の発生エネルギー量が5秒間で59MJ(約1.1万kW)と、1997年の実験結果(4秒間、21.7MJ)に比べて2倍以上を達成したことを発表した。
1997年の実験では、ドーナツ型真空容器(内容積:80m3)内側の第一壁には炭素を使ったが、放射性同位体である三重水素を吸収することが明らかとなり、今回はITERの稼働条件を模倣してベリリウムとタングステンを使い吸収率を1/10以下とし、プラズマ安定化の調整が行われた。
英国
2021年10月、英国核融合戦略を発表し、プロトタイプの商用核融合炉の建設地候補の選定を進めている。10月末から英国グラスゴーで開催されたCOP26でも、最終日に核融合炉に関するセッションが設けられた。
2022年3月、Tokamaku Energyは、に民間の核融合ベンチャーとして世界で初めて「プラズマ温度1億度」を達成し、2023年現在、累計調達金額は2.5億ドル(約350億円)で世界で注目されている。
2023年1月、英国原子力公社(UKAEA)のカルハム・キャンパス内に、カナダの核融合ベンチャーGeneral fusionと建設するデモンストレーション施設の建設を発表。両社が開発する核融合施設は2026年に試運転を開始し、2027年初頭にはフル稼働する計画である。
また、2023年1月、UKAEAと英国のスタートアップFirst light fusionは、カルハム・キャンパス内にFirst light fusionの核融合設備を収容する専用施設の設計・施工契約を締結した。
2023年2月、核融合プログラムを実行する機関として、英国インダストリアル・フュージョン・ソリューションズ(UKIFS)の設立を発表した。球状トカマク型核融合炉による発電施設(STEP:The Spherical Tokamak for Energy Production)を、2040年までにウェストバートンで建設する。
中国
2018年12月、中国科学院合肥物質科学研究院(CASHIPS)は、2006年に運用開始した完全超電導のトカマク型核融合実験炉EAST(Experimental Advanced Superconducting Tokamak)で、コアプラズマ部で1億℃の電子温度を達成したと発表した。
プラズマ密度は電子サイクロトロン共鳴、イオンサイクロトロン共鳴、中性粒子ビームイオンなど4種類の加熱装置を組み合わせ、総加熱出力は1万kWを超え、発生したエネルギーは300kJであった。
ITERと同様の高周波加熱方式や水冷タングステンダイバーターを使用し、良好な粒子排気と排熱、定常状態のHモード(High Confinement mode:閉じ込めの良好なモード)を実現した。
2021年6月、中国科学院等離子体物理研究所(ASIPP)は、EASTが1.2億℃の高温プラズマを101秒間、1.6億℃のプラズマを20秒間維持することに成功した。
2020年にも1億℃のプラズマを20秒間維持したが、その後、真空システム、レーザー散乱システム、マイクロ波システムなどのアップグレード作業が実施された結果である。
2021年12月、ASIPPはEASTが約1.6億℃という高温プラズマを1,056秒間維持することに成功したと発表した。
2023年4月、ASIPPはEASTで外部制御によるプラズマ定常状態の運転を確保する必要がない新しい高エネルギー制御モデルを発見し、高出力で安定した403秒のプラズマ運転を実現したことを発表。この先進的なモデルは、長時間の高性能プラズマ運転を保証することができるとした。
中国は、ITERよりも一回り規模が大きく発電能力を備えた原型炉「CFETR」を2025年までに完成させ、2030年初頭の運転開始を目指している。ITERなどの経験を活かして、2兆円規模の投資をして原型炉を作る計画である。
米国
2022年12月、ローレンス・リバモア国立研究所は、実験装置である国立点火施設(NIF:National Ignition Facility)を使い、慣性閉じ込め核融合により中心点火方式で投入したエネルギー量は2.05MJで、瞬間的に3.15MJの正味のエネルギー利得(Net energy gain)を達成した。
重水素と三重水素をhohlraumカプセル金属筒(長さ9.6mmのAuTa合金製)に入れ、192本の高出力レーザーにより2.05MJの紫外線レーザーパルス(ピーク出力:500TW、継続時間:約4ns)を間接照射した。ただし、レーザー発生に300MJの電力を要し、実用化には効率の大幅改善が必要である。
2023年7月、ローレンス・リバモア国立研究所は、核融合発電の実験に再び成功し、投入した分を上回るエネルギーを取り出すことに成功した。今回は点火に投入したエネルギー量は2.05MJで、得られたエネルギーは3.5MJである。商用プラントにはさらに研究開発が必要で、実用化まで数十年を要する。
一方、2023年の米国核融合産業協会レポートによれば、2.5億ドルの大型投資を実現したTAE Technologiesを始めとして、核融合スタートアップ25社が誕生しており、独自技術による開発を推進している。
韓国
2019年2月、国家核融合研究所 (NFRI:National Fusion Research Institute)が運用する超電導トカマク型核融合実験装置(KSTAR:Korea Superconducting Tokamak Advanced Research)で、超電導トカマク型では世界で初めて1億℃の超高温の達成に成功したと発表。
2020年11月、韓国核融合エネルギー研究院KSTAR研究センターは、KSTARで1億℃のプラズマを20秒間維持することに成功したと発表した。国家核融合研究所は、中性粒子ビーム入射加熱装置(NBI)を追加導入している。
2021年12月、韓国の科学技術情報通信部(MSIT)は、核融合エネルギーに関する基本計画を公表した。国家核融合エネルギー委員会の第16回会議を開催し、第4次基本計画(2022~2026年)の最終版を策定し、2050年代に核融合発電の実証を行うことを最終目標とした長期計画が示された。
2022年9月、KSTARで、プラズマの移動を抑制することで1億℃を超えるプラズマを安定した状態で30秒維持することに成功した。
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