国内では処理水の海洋放出反対の抗議集会が各地で開催されている。また、福島県の住民や漁業関係者による国と東京電力に海洋放出停止を求めた訴訟を始めることが発表された。
近隣諸国からは、良好な外交関係を維持している国々からは、処理水の海洋放出には一定の理解を得たものの、中国、香港政府、マカオ政府からは水産物を中心に輸入の一次停止・禁止が発表された。
海洋放出前後の様々な反応
国内の海洋放出反対
マスコミ報道によると、福島県以外でも北海道、香川県、大阪府、広島県などの各地で「処理水の海洋放出反対」を掲げた抗議集会が開催された。以前から首相官邸前では抗議活動が行われてきたが、8月18日と22日にも市民約250人が集結し、「約束を守れ!、汚染水を海に流すな!」の声を上げた。
2023年8月23日、処理水の放出に反対する福島県の住民や漁業関係者は、原子力規制委員会に海洋放出計画の認可の取り消しを求める行政訴訟と、東京電力に放出の差し止めを求める民事訴訟を、9月8日に福島地方裁判所に起こすことを発表した。
海洋放出は、8年前に政府と東京電力が福島県漁連と結んだ「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」という約束を無視する行為で契約違反であり、住民が平穏に生活する権利を侵害し、海に関わる人たちの生活の基盤を壊すと主張している。
近隣諸国の反応
韓国
2023年8月17日、韓国・釜山の環境団体が東京電力に処理水放出の差し止めを求めた訴訟で、釜山地裁は原告の請求を却下した。原告側は判決後、控訴する方針を明らかにした。
原告は提訴の根拠として、海洋汚染の防止を目的としたロンドン条約及び議定書、放射性廃棄物等安全条約を挙げたが、条約などは締結国間の紛争解決手続きを定めたもので「国民に直接訴える権利を与えたとみなすことはできない」とした。
2023年8月23日、野党・民主党や市民団体による抗議があり、ソウル中心部では環境運動の市民団体などが集会を開き、「放射性物質の投棄は、海を汚す非文明的行動であり、直ちに中止すべきだ。日本の放出を擁護する尹 錫悦政権も共犯だ」などと批判した。
国会で過半数を占める最大野党「共に民主党」の李在明代表は、党の緊急会議で「国際社会の懸念と反対にもかかわらず、日本は人類最悪の環境災害の道を選んだ。第2次世界大戦の時、銃と刀で太平洋を踏みにじったとすれば、いまは放射性物質で人類全体を脅かす形だ」と強く批判した。
2023年8月24日、大学生とみられるグループが在韓日本大使館に突入しようとし、騒ぎとなった。BBCのジーン・マケンジー・ソウル特派員は、6月の世論調査では回答者の84%が処理水の放出に反対すると答えたと報じた。
2023年8月24日、韓国の韓悳洙首相は、処理水の放出開始からおよそ30分後に、国民に向けた談話を読み上げ、「科学的基準と国際的手続きに従って放出されるのであれば、過度に心配する必要はないというのが世界中の専門家の共通意見だ」と指摘した。
「韓国政府は、関連する情報を確保して徹底的にモニタリングし、水産業を守るためのさまざまな支援策を展開する。日本産水産物の輸入規制も維持する」、「国民を最も脅かすのは、科学に基づかない偽ニュースと政治的利益のための虚偽の扇動だ。誤情報で国民を混乱させてはならない」と強調した。
韓国との良好な外交関係による成功である。前政権であったなら、韓国政府の動きは全く異なったものとなったであろう。しかし、韓国の一般市民には放出反対の人々が相当数いて、風評被害が拡大する可能性がある。放出基準に即した継続的な情報発信を継続する必要がある。
一方、従来の福島県など15県からの水産物や食料品の輸入停止措置は継続している。
中国
2023年8月24日、中国外交部は処理水の海洋放水が始まった直後に声明を発表。「日本が利己的な利益のために人々に二次的な被害を与えていると非難し、汚染された水の処理は国境を越えた原子力安全上の大きな問題だ」と指摘した。
同日、中国の税関当局は冷凍や乾物を含む日本の水産物の輸入を全面的に一時停止すると発表した。(国内のマスコミの多くは全面禁輸と報じたが!?)中国はこれまでも、福島県など周辺10都県の水産物や食料品の輸入停止措置を実施していた。
中国の税関当局は、「福島の核汚染水が食品の安全に対してもたらす放射性物質による汚染のリスクを全面的に防いで中国の消費者の健康を守り、輸入食品の安全を確保する」とし、「日本の食品の汚染リスクの確認を続け、日本から輸入される食品に対する監督管理を強化する」とした。
2023年8月24日、中国外務省の汪文斌報道官は記者会見で「断固たる反対と強烈な非難を表明し、日本にはすでに厳正に抗議した。間違った行為を日本にやめるよう求める。日本の行為は全世界にリスクを転嫁し、痛みを子や孫世代に与え続けるもので、日本は生態環境の破壊者、そして海の汚染者となる。日本は長期にわたって国際社会の非難を受けることになる」と述べた。
中国のSNSウェイボーでは放出開始をめぐる話題が一時、検索ランキングのトップとなり「今後日本料理は食べない」、「仕事はせずに日本に抗議する」など日本への反発の声が上がった。中には、「福島で放射線量が瞬時に上がった」など根拠のない投稿も拡散した。風評被害の拡散である。
2023年8月24日、国内のマスコミ報道によると、香港政府とマカオ政府は東京、福島、千葉、宮城など10都県からの水産物や、肉や野菜などの輸入を禁止するとした。これまでは福島県からの水産物の輸入停止措置を行使していた。
完壁な外交の失敗である。事前に海洋放出説明を打診したが、中国から拒否されたとの情報もある。中国は海洋放出すれば相応の対抗措置を行うと事前に通告しており、それを無視した結果である。政府が反意を示せば、中国で一般市民に風評被害が拡大しても不思議はない。
台湾
2023年8月24日 台湾外交部の劉永健報道官は「科学的な問題では専門家を尊重する」とした上で「日本に対し、国際的な基準に合致する形で放出を行うよう、引き続き促していく」と述べた。従来の福島県など周辺5県からの食料品の輸入停止措置は継続している。
台湾の原子力委員会が事故後10年間の海流データでシミュレーションした結果、処理水は主に米国西海岸に広がり、一部は約1~2年で台湾付近に達し、4年後にトリチウム濃度が最大となるが、台湾海域に自然に存在するトリチウム濃度よりはるかに低く、安全面の影響は無視できる程度とした。
フィリピン
フィリピン外務省は、「処理水の海洋放出については、科学的かつ事実に基づいた観点から、この地域の海洋への影響を引き続き注視していく。島しょ国家として、フィリピンは海洋環境の保護と保全に最大の優先順位を置いている」と発表した。
その上で、IAEAが海洋放出を国際的な安全基準に合致していると結論づけたことから、「この問題に関するIAEAの技術的専門性を認識している」とし、一定の理解を示した。
太平洋諸国
太平洋地域でも、海洋放出に反対する声が上がってた。太平洋の島国には約230万人が住んでおり、そのほとんどが食料と収入を海に頼っている。各国首脳らは、海洋放出が人々に与える長期的な影響が分からないことに懸念を表明した。
2023年6月、太平洋諸島フォーラム(PIF)は、日本の放出計画が核廃棄物の処分を検討している他の国々にとって危険な前例となると指摘した。しかしその後、クック諸島やフィジーなどは日本の計画に理解を示していると表明した。
2023年8月22日、クック諸島のブラウン首相(PIF議長)は、処理水の海洋放出は「国際的な安全基準を満たしている」と信じていると表明し、「科学の知見を判断する」ようフォーラム国に促した。
北朝鮮
2023年8月24日、北朝鮮外務省は、国営の朝鮮中央通信を通じて報道官の談話を発表した。談話では「国内外の強い抗議と反対を無視したまま、核汚染水を海に放出することこそ、人類に核の災難をもたらすこともためらわない犯罪行為だ」と非難した。
ロシア
2023年8月24日、ロシア外務省のザハロワ報道官は、国営のロシア通信を通じて「状況の推移を注意深く監視している。日本政府は放出した水が環境に及ぼす影響について、完全な透明性を示し、すべての情報を提供することをわれわれは期待している」と述べた。
同年7月、ロシアの衛生当局は、放射性物質を含む水産物が国内に流通するのを防ぐため、日本産の水産物や加工品を「輸入する際の検疫や流通の管理を強化するよう各地の機関に指示した」と発表。
良好な外交関係を維持している国々からは、処理水の海洋放出には一定の理解を得た。一方、米中対立などで外交関係がギクシャクした状況下なので、中国の強固な反発は当然予想されるべきである。処理水の海洋放出の開始により、実際に風評被害は拡大している。
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