期待の高まる合成燃料(e-fuel)(Ⅹ)

エネルギー

 合成燃料(e-fuel)の普及のための最大の課題は低コスト化にある。特に、原料である再生可能エネルギー水素の低コスト化が不可欠で、遅れている再生可能エネルギーの導入が問題である。再生可能エネルギー電力の低コスト化が進めば、水電解で製造するグリーン水素の低コスト化も進む。

 合成燃料の製造プロセスは、原料も含めて国内で全て調達することが可能である。従来のように安易に海外から安価な水素の輸入を選択せずに、将来に向け国内製造による自給率の向上をめざす転機である。

合成燃料(e-fuel)の課題と対策

 合成燃料(e-fuel)の製造プロセスは基本的には確立している。第一段階で、再生可能エネルギー電力を利用して、回収したCO2と水(H2O)から電気分解により一酸化炭素(CO)と水素(H2)を生成する。
 第二段階で、高温(200~300℃)・高圧(5MPa程度)の条件下で、鉄(Fe)などの触媒を用いたフィッシャー・トロプシュ(FT:Fischer-Tropsch process)法により、合成燃料(e-fuel)を製造する手順である。

 経済産業省の試算いよれば、合成燃料(e-fuel)は全て国内で製造する場合は約700円/Lで、ガソリンよりも圧倒的に高い。そのため低コスト化が実用化のための最大の課題である。
 一方、海外の安価な水素を輸入して、国内でe-fuelを製造する場合は約350円/Lである。さらに、全て海外で製造する場合は約300円/L、将来、経済産業省の2040年目標値である20円/Nm3まで水素価格が下がると、e-fuelのコストは約200円/Lとガソリン価格に近くなる。

図15 合成燃料のコスト試算の結果 出典:資源エネルギー庁

 合成燃料の低コスト化には、①H2の製造・輸送コストの低減、②CO2の分離・回収コストの低減、③合成効率の向上が必要である。現時点では、グリーン水素の製造・輸送コストの占める割合が高く、海外の安価な再生可能エネルギーで水素製造を行い、日本に水素を輸入するサプライチェーンが現実的にみえる。
 しかし、それでは原油を輸入して、国内で精製している現状と変わらない。日本のエネルギー自給率は低いままであり、輸入する再生可能エネルギー水素の価格変動により国内経済が大きな影響を受ける

 そもそも、日本のエネルギー自給率は11.8%(2018年時点)で、世界的にみても極めて低いのが現状である。その原因は、化石燃料(石炭、天然ガス、石油)への依存度が85.5%(2018年時点)と高いからである。これまで化石燃料は国内資源がないため、海外からの輸入に頼らざるを得ないとあきらめてきた。

 しかし、合成燃料(e-fuel)の原料は国内に豊富に産する水とCO2である。問題は遅れている再生可能エネルギーの導入にある。再生可能エネルギー電力の低コスト化が進めば、水電解で製造するグリーン水素の低コスト化も進む。合成燃料の製造プロセスは、原料も含めて国内で全て調達することが可能である。

 次世代エネルギーと位置付けている水素・アンモニアについても、常に安価な海外からの輸入が日本の国是のごとく常識となっているが、水素・アンモニア・合成燃料は、国内資源はないという言い訳は通用しない
 「海外での再生可能エネルギー水素の製造+船舶輸送」のコストに打ち勝つ「国内での再生可能エネルギー水素の製造」は実現できないのであろうか?エネルギー自給率向上の観点から、政府はプレミアを付けてでも「国内での再生可能エネルギー水素の製造」を推奨すべきである。

  さらなる低コスト化に向けて、原料となるCO2回収の低コスト化も重要である。また、合成プロセスであるFT法についても、プロセス最適化や新触媒の開発による低コスト化も同様である。

 既に、合成燃料(e-fuel)の技術開発・実証は欧米を中心に急速に広がり、石油会社・自動車メーカー・ベンチャー企業によるプロジェクトが数多く進められている。早急なキャッチアップが必要である。
 国内では、人口減やエコカーの普及でガソリン需要が低迷したことで30年間にわたり集約が進められてきた石油会社であるが、既存システムと燃料インフラをベースに積極的な取り組みが必要である。

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