期待の高まる合成燃料(e-fuel)(Ⅸ)

エネルギー

 新興企業を中心に、欧州で73件、南北アメリカで24件の合成燃料の製造プロジェクトが始動している。出遅れた日本は、早急なキャッチアップが必要である。
 2024年3月末時点で稼働しているのは、欧州で5件(英国のZero Petroleum、アイスランドのCRI、ドイツのFairfuels、CAC、P2X-Europe)、南北アメリカで3件(チリのHIF Chile、米国のDimensional Energy、Infinium)としており、航空機や船舶向けの燃料製造計画が先行している。

世界の合成燃料(e-fuel)の開発状況

 2024年5月、先行する欧米での合成燃料製造プロジェクトの動向が、カーボンニュートラル燃料技術センターにより示された。既に、欧州で73件、南北アメリカで24件の製造プロジェクトが始動し、大半が新興企業であり、本格的な製品流通にはまだ時間を要すると報告した。
 実際に3月末時点で稼働しているのは、欧州で5件(英国のZero Petroleum、アイスランドのCRI、ドイツのFairfuels、CAC、P2X-Europe)、南北アメリカで3件(チリのHIF Chile、米国のDimensional Energy、Infinium)としており、航空機や船舶向けの燃料製造計画が先行している。

図14 世界の合成燃料(e-fuel)の開発プロジェクト 出典:資源エネルギー庁

欧州における合成燃料の開発動向

  英国オックスフォードシャーに本拠を置く「Zero Petroleum」は、2023年11月、米国ボーイングとSAF供給を加速するため次世代技術の試験・分析での提携を発表した。直接大気中からCO2を回収し、再生可能エネルギー電力により水電解で水素を製造し、SAFを合成している。 

 アイスランドの「CARBON RECYCLING INTERNATIONAL(CRI)」は、CO2と水素からe-メタノールを合成する技術を有し、中国の麦芬隆上海環境工程技術(MFES)に出資して、2022年9月から商業運転(11万トン/年)を開始している。
 2023年5月、丸紅は、MFESとMFESが出資し販売権を有する安陽順利環保科技(順利)が製造する低炭素排出型メタノール(Circular Methanol)の、中国を除くアジアにおける販売権の取得で合意した。

 ドイツ北西部エムスラントで「Atmosfair Fairfuels」は、2021年10月に航空機向け合成ケロシン(e-kerosene)の商業運転(350トン/年)を開始した。
 PEM水電解装置(Siemens Silyzer、2.5MW)で水素を製造、バイオガスプラントおよび大気中から直接CO2を回収し、INERATEC製のFTモジュールを使用してe-ケロシンを製造する。その後、ドイツ北部ハイデ製油所でジェット燃料に混合してハンブルク空港に輸送している。 

 ドイツの「CAC Engineering」は、旭化成製アルカリ電解槽で水素を製造し、独自のゼオライト触媒プロセスにより合成ガソリン”Synfuel”を製造している。2020年、フライベルグ工科大学敷地内で実証プラント(1000kL/年)を稼働した。2022年には、欧州自動車レーシング燃料として使用された。

 ドイツ・ハンブルグの「P2X-Europe」は、INERATEC製のFTモジュール導入して、2022年9月に実証プラントを稼働し、合成ガソリンや合成ディーゼル”SynZero”を製造している。

 デンマーク南部ボアディンボーの「Arcadia eFuels」は、2022年2月に商業プラント(10万トン/年)の建設計画を発表し、2026年末に商業運転を開始する。FT合成で航空・運輸部門向けに、e-ジェット、e-ディーゼル、e-ナフサの製造をめざしている。

 以上、欧州での動向に関しては、石油エネルギー技術センターの「製油所の事業転換に向けた技術動向に関する調査」(2023年3月)に、数多くの事例が示されている。

米国・南米における合成燃料の開発動向

  1973年の第一次石油ショック以降、米国はバイオ燃料を重視して急速に増産を進めた。そのため、e-fuelの開発・生産では欧州に遅れをとっている。しかし、最近はメキシコ湾沿岸地域を中心に、多くの合成燃料製造プロジェクトが動き始めている。

 南米チリの「HIF Chile」は、ドイツの支援を受けて2022年12月にマガジャネス州でデモプラント「Haru Oni」を稼働させた。風力発電(出力:3.4MW)を使い水電解装置(Siemens製PEM 1.2 MWe)により水素を製造し、大気中からのCO2回収+バイオCO2から、ExxonMobil MTG法で、e-メタノールを製造(350 トン/年)する。
 2022年4月、「HIFグローバル」は、北米初の生産拠点に米国テキサス州マタゴルダ郡を選定し、約60億ドルを投資して最大約7億6000万L/年のe-メタノール生産拠点「HIF USA」を計画し、2026年の操業開始をめざしている。また、オーストラリアのタスマニア州にe-メタノール製造拠点「HIF Asia Pacific」を計画している。

 米国の「Dimensional Energy」は、2014年にニューヨーク州イサカを拠点に設立され、大気中や工業用地から回収したCO2と、水電解で得られる水素を原料に、FT合成法で様々な合成燃料を製造する。
 2022年6月、ユナイテッド航空ベンチャーズ(UAV)から投資を受け、20年間で少なくとも3億ガロンのSAF購入契約を締結した。
 また、2023年6月、カナダのブリティッシュ・コロンビア州のリッチモンド・セメント工場に実証用CO2回収プラント(1トン/日)を設置し、約1.5バレル/日のSAF製造をめざしている。

 米国テキサス州の「Infinium」は、アマゾン、米国三菱重工、英国APベンチャーズなどから出資を受け、 水電解でグリーン水素を製造し、独自触媒を使用したリアクターでFT合成法により合成燃料を生成する。
 2022年4月、三菱重工業は、「Infinium」カーボンリサイクル燃料「electrofuels」の製造と日本市場への展開を共同で検討する覚書(MOU)を締結した。2023年、「Infinium」は、eーディーゼルの生産をAmazonの南カリフォルニア州配送トラック向けに開始した。eーSAF、eーナフサも同時生産している。

 2023年2月、CCS・CCUS事業を行う米国デンバリーは、複数のe-fuel関連企業とテキサス州でのCO2輸送・貯蔵契約を締結した。デンバリーは、累計で2200万トン/年以上のCO2を輸送・貯蔵する。
 2023年初めに、ワイオミング州キャンベル郡にCO2貯留サイトとして面積約61km2の土地開発契約を締結した。同サイトの潜在的なCO2貯留能力を4000万トンと見積もっている。

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