期待の高まる合成燃料(e-fuel)(Ⅴ)

エネルギー

 合成燃料に関しては、ドイツのアウディポルシェにより先駆的取りが組み進められており、EVシフトが加速される中で、2023年3月のEUは「合成燃料(e-fuel)の利用に限り2035年以降のエンジン車の新車販売容認」を発表した。
 当初、合成燃料は電動化が難しい航空機・船舶向けが本命との予測もあったが、運輸部門でのCO2削減に自動車は避けて通れず、HVを含むエンジン搭載車での利用が再認識された。

自動車分野における取り組み

自動車分野でのCO2排出量

 2022年度における自動車全体で日本国内の年間CO2排出量は1.65億トンで、国内運輸部門の85.8%と特出している。運輸部門でのCO2排出量の削減には、自動車分野は避けて通れないことが明らかである。
 その内訳は、自家用自動車では年間CO2排出量が8609万トン(自動車全体に占める割合は44.9%)、営業用貨物車が4142万トン(21.6%)、自家用貨物車が3150万トン(16.4%)、バスが333万トン(1.2%)、タクシーが140万トン(0.7%)、二輪車が78万トン(0.4%)である。 

 2017年の国際エネルギー機関(IEA)の分析によれば、先進国での乗用車のEVシフトは急速に進むと予想している。2030年時点で世界の電動車(BEV、FCEV、PHEV、HEV)が占める割合は32%まで増加する。しかし、エンジン搭載車(PHEV、HEV、CNG、ガソリン車、ディーゼル車)は91%残ると予測している。
 また、トラックやバスなど大型車のEVシフトは、さらに遅れる。全世界でカーボンニュートラル(CN)を実現するには、エンジン搭載車への脱炭素燃料(バイオ燃料、合成燃料)の供給が鍵となる。

図9 IEA 「ETP(Energy Technology Perspectives) 2017」に基づき経済産業省が作成した自動車の電動化シナリオ

 日本は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、日本自動車工業会は合成燃料をその達成手段の一つと位置付けている。合成燃料の最大の課題は化石燃料並みの低コストの実現であり、政府支援が必須である。今後、サプライチェーンの構築とともに、国際規格の検討を進める必要がある。

自動車向け合成燃料の開発動向

 VWグループの広告塔であるAudi(アウディ)は、2026年からEVのみを上市し、2033年までに内燃機関を搭載した車の製造を原則として終了する。また、Porsche(ポルシェ)は、2030年に世界新車販売の80%以上を電動化する。両社は全面的にEVシフトを進めているが、一方で合成燃料/バイオ燃料の取り組みも進めている。

Audi(アウディ)と□Porsche(ポルシェ)の先駆的取り組み: 
アウディは、2013年6月、 合成メタン「Audi e-gas」精製工場の稼動を発表。グリーン電力、水、CO2から水素合成メタンを精製。水素は水素自動車向け、合成メタンはCNGガスステーションに搬送する。
■2015年4月、グリーン電力、水、CO2から合成する合成燃料Audi e-diesel」の生産を開始した。
■2018年3月、スイスのラウフェンブルクで水力発電の電力を使い「Audi e-diesel」を生産する計画を公表した。パイロットプラントでは約40万L/年を生産する。
■2018年3月、「Audi e-gasoline」の生産を行い、エンジンテストを開始。Audi e-gasoline」は、バイオマスから2段階のプロセスを経て製造される液体イソオクタン(C8H18である。
■2022年12月、出荷される新車に、シェル、ボッシュと協力して開発したR33バイオ燃料を給油して納車すると発表。工場内の給油所の燃料を、R33ブルーディーゼルR33ブルーガソリンに切り替えた。いずれも第二世代のバイオ燃料で、再生可能成分が33%含まれ、残りの67%は化石燃料である。
□2020年9月、ポルシェは、「e-fuel」の開発を進めると発表。これまで主にEV開発と販売に注力していたが、世界的に脱炭素化を進めるにはEVだけでは不十分との見解を示す。
□2022年12月、チリのHIF(Highly Innovative Fuels)やシーメンス・エナジーなどと、風力発電を使い水とCO2から「e-fuel」を生産すると発表。チリ最南端プンタアレナスのハルオニ工場での生産を目指す。約13万L/年を生産し、ポルシェは本格量産後の燃料費を約2ドル/L(約280円/L)と想定。 

図10 アウディはポルシェと協力して開発したR33バイオ燃料を給油して納車

 2020年7月、トヨタ自動車やENEOSなど6社でつくる「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」では、液体合成燃料「e-fuel」の研究開発を進めると公表。アウディポルシェの動きに触発されたと考えられる。
 合成燃料はガソリン燃料やディーゼル燃料に混合して使い、エネルギー生成段階を含むHVのCO2排出量がEVを下回る水準を目指し、2030年に一層厳しくなる環境規制に備えると発表。

 2023年2月、福島県相馬市はメタン燃料のミニバス1台の運行を開始。市内の研究拠点でIHIが製造する太陽光発電によるグリーン水素と外部工場から調達したCO2で合成する「グリーンメタン(e-メタン)」を充塡し、市内を最低1年間運航し、経費やCO2削減量のデータを収集する。
 エンジンは変えずに既存のガソリン車を改造し、メタンを充塡するタンクやバルブを搭載。タンクには最大メタン:18Nm3(0℃、1気圧での体積)を充塡し、走行距離:約150kmである。

 2023年3月、欧州連合(EU)は温暖化ガス排出量をゼロとみなす合成燃料の利用に限り、2035年以降もエンジン車の新車販売を容認。EUでは2035年までに全ての新車をゼロエミッション化し、同年以降は内燃機関搭載車の生産を実質禁止することを表明しており、大きな方針転換であった。
 EUの再生可能エネルギー指令では、第二世代エタノールなど非食品由来の燃料導入を2030年までに倍増する目標を掲げており、今後、バイオ燃料の利用に関する改正案が出される可能性が高い。

 2023年11月、マツダがロータリーエンジンをプラグインハイブリッド車「MX-30 Rotary-EV」の発電機として採用。ロータリーエンジンの利点は、ガソリン以外にも、水素や合成燃料、液化石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)など多種類の燃料へ対応しやすい。

 2024年5月、トヨタ自動車、出光興産、ENEOS、三菱重工業は、「カーボンニュートラル(CN)燃料」の国内での導入・普及に向けた協業を発表。2030年頃の導入をめざし、工程表作成や製造可能性の調査を進める。
 CN燃料は、植物由来のバイオ燃料や水素とCO2で作る合成燃料(e-fuel)などの総称で、エンジン搭載車で利用する。出光興産とENEOSはCN燃料の製造や供給を担い、トヨタ自動車はCN燃料に適したエンジン開発、三菱重工はCO2の回収技術に取り組む。

 アウディポルシェの先駆的取り組みが、EVシフトが加速される中で、2023年3月のEU発表「合成燃料(e-fuel)の利用に限り2035年以降のエンジン車の新車販売容認」につながる。アウディは「内燃機関搭載車の正確な終了時期を決めるのは、最終的には顧客と環境規制」とした。
 当初、合成燃料は電動化が難しい航空機・船舶向けが本命との予測もあったが、運輸部門でのCO2削減に自動車は避けて通れず、HVを含むエンジン搭載車での利用が再認識された。

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