脱炭素に向けた発電電力量の推移(Ⅺ)

はじめに

 2023年度の国内総生産(GDP)は、物価の影響を含めた名目GDPが前年より5.7%増えて591.4兆円に達した。 しかし、米ドル換算では1.1%減の4.2兆ドルで、ドイツの4.4兆ドルに抜かれ、世界4位に転した。円安を何とかしないと、2024年度はインドにも抜かれるとの報道が流れている。

 先進国を中心にカーボンニュートラルが進められる中で、2020年10月、日本も遅ればせながら「カーボンニュートラル2050」を宣言した。しかし、「再生可能エネルギーの主電源化」、「原子力発電所の再稼働」を推進するも順調には伸びず、CO2を排出する火力発電への依存率が高いのが現状である。
 加えて、ロシアによるウクライナ侵攻を発端に化石燃料価格が高騰し、依存度の高い日本ではエネルギーの安定供給対策が重要課題となっている。

 今後の新たな施策として、政府は変動型の浮体式洋上風力ペロブスカイト太陽電池などを推進すると表明している。しかし、再生可能エネルギーの主力電源化に必要な電力貯蔵システムの導入が遅れ、今後も調整電源として火力発電を使用せざるを得ない状況が続くであろう。 

日本の電力事情の現状と将来

11.1 日本の総発電電力量の推移のまとめ

 福島第一原発事故以降、政府はFIT制度の導入電力自由化などの諸施策を打ち出してきた。向かう方向は、「化石燃料による火力発電の低減」、「再生可能エネルギー発電の主電源化」、「原発の再稼働」であるが、着実に進められているのであろうか?

 総発電電力量の抑制(省エネ)はゆっくりと進んでいる。しかし、2021年10月に策定された第6次エネルギー基本計画2030年を目標とした発電電力量の構成比への到達には、まだまだ道は遠い

 一方、政府は、2040年度の発電電力量を1兆1000億~1兆2000億kWhと想定している。人工知能(AI)の普及によるデータセンターや半導体工場の増加などで電力需要の増加が見込まれるためで、再生可能エネルギーと原子力発電で対応するためには、それぞれの一層の増強が必要となる。

図1 日本の発電電力量の推移と2030年の目標値  出典:経済産業省

11.2 動き始めた原子力発電所

 原発の再稼働は遅れてはいない。”厳しい原子力規制委員会の審査””地元の理解”を得ることで、PWR12基、BWR2基が営業運転を始めた。安全・安心を担保するには厳しい審査の手を抜くことはあってはならない。

 福島第一原発事故以前の原発の平均設備利用率は60~80%であり、運転が定常化すれば現在28%である利用率は改善され、発電電力量は増加する。2030年に電源構成の目標(20~22%、第6次エネルギー基本計画)、2040年の目標(20%、第7次エネルギー基本計画)の達成は可能である。

 2040年の目標をめざして、今後は電源開発の大間原発(ABWR、138.3万kW)、東京電力の東通第1号原発(ABWR、138.5万kW)、中国電力の島根第3号原発(ABWR、137.3万kW)などの建設を中断した原発の建設再開や、より安全性を高めた次世代原子力発電所の新設が重要課題である。
 再稼働した60年超の老朽化原発に依存する現状からの脱却を、早期に進める必要がある。

図2 原子力発電の発電電力量の推移 出典:経済産業省

11.3 ようやく2010年レベルに戻った火力発電

 先進国を中心に「パリ協定」の発効で脱石炭火力発電が進む中で、日本の2023年総発電電力量(9854億kWh)に占める火力発電電力量(6761億kWh)は減少傾向にあるが電源構成比率は68.6%と高く、その内訳は石炭(2804億kWh)、LNG(3241億kWh)、石油(716億kWh)である。 

 政府主導で「非効率石炭火力」の休廃止が進められる一方で、「高効率石炭火力」へのリプレースと新設が進められた結果、火力発電の発電電力量は減少傾向にあるものの、2030年に発電電力量の目標(41%、第6次エネルギー基本計画)、2040年の目標(30~40%、第7次エネルギー基本計画)には遠いのが現状である。

 2021年の火力発電電力量(7469億kWh)から、ようやく日本の火力発電は2010年レベルに戻ったことがわかる。2010年の総発電電力量(11494憶kWh)に占める火力発電電力量(7521億kWh)の割合は65.4%、その内訳は石炭(3199億kWh)、LNG(3339億kWh)、石油(883億kWh)である。

 問題は、大手電力会社が進めるバイオマス混焼による見掛けの発電効率向上策である。これにより「非効率石炭火力」の温存が平然と進められていることに、脱石炭火力で先行する欧州から非難が集中している。
 一方で、CO2を排出しない水素やアンモニア燃料の混焼実証や、排出されたCO2を分離回収・貯留するCCS技術の開発も進められているが、実現には経済性の問題が大きな壁となっている。  

図3 火力発電の発電電力量の推移  出典:経済産業省

11.4 太陽光発電に偏かたよりすぎた再生可能エネルギー

 FIT制度が導入された2012~2015年、大規模水力発電を含む再生可能エネルギー全体の発電電力量の年平均伸び率は10~12%であったが、2016年以降は年々低下し、2023年は3.0%まで下がった

 仮に、年平均伸び率3.0%を維持して発電電力量が増加した場合、2030年には2771億kWhに到達する。これは、第6次エネルギー基本計画で目標とした総発電電力量(9300~9400億kWh)の36~38%とする再生可能エネルギーの電力量(3348~3572憶kWh)の77.5~82.8%である。

 2012年7月の固定価格買取制度(FIT)、2017年4月の改正FIT法、2022年4月からFITと併存する形でのFIP制度の導入と、10年間以上にわたり再生可能エネルギーの導入拡大が推進されてきた。
 しかし、今後も年平均伸び率の低下は進み、2030年の電源構成の目標(36~38%、第6次エネルギー基本計画)、2040年の目標(40~50%、第7次エネルギー基本計画)を実現するには程遠いのが現状である。

 変動型再生可能エネルギーである設備利用率の低い太陽光発電と風力発電について、政府は次世代のベロブスカイト型太陽電池(2040年までに2000万kWの増設)と浮体式洋上風力発電(2040年までに3000万~4500万kWの増設)を切り札として推進している。
 しかし、”電力貯蔵システムの導入の遅れ”を解消しなければ、増設されても”出力制御”の対象となり、有効に使えない可能性が高い。 

 一方、非変動型再生可能エネルギー設備利用率の高い水力発電については、発電電力量が明らかに低下傾向を示しており、地熱発電についても顕著な伸びは認められない。
 木質バイオマスや間伐材等由来を燃料したバイオマス発電の発電電力量は増加傾向を示すものの、輸入材の高騰で発電所の休止・廃止の兆しが出てきている。

図4 再生可能エネルギーの発電電力量の推移  出典:経済産業省

11.5 第7次エネルギー基本計画に向けて

 2011年3月の東日本大震災により発生した「福島第一原発の事故」が、日本のエネルギー政策を根底から狂わしたことは事実である。原発の停止により不足した電力を火力発電でまかない、再生可能エネルギーを主電源とすべく固定価格買取制度(FIT)などの導入で推進した。

 しかし、2017年6月、米国トランプ政権が自国の石炭産業を保護するため、「パリ協定」からの離脱を表明すると、当時の安倍政権は、これに追随するように火力発電抑制の手を抜き続けた
 2020年10月、菅政権は「2050カーボンニュートラル」を宣言し、ようやく石炭火力の低減に向けて動き始めた。しかし、引き継いだ岸田政権では有効な手を打てず、原発再稼働の旗振りに留まった。

 電力(エネルギー)は国民生活や経済活動の基盤をなすものであり、地球環境問題の解決に向けた安定供給のあり方を明確に示す必要がある。そのために、2050年の脱炭素社会の実現に向け、具体的な電源構成や数値目標を定めることは重要なことである。

 しかし、これを”絵にかいた餅”としないために、「何故、第6次エネルギー基本計画で示した2030年の目標は到達できそうもないのか?」を反省し、第7次エネルギー基本計画に反映させると共に有効な支援策を実行する必要がある。この筋道が明確でないと、2040年の目標は再び未達で終わることになる。

 ところで政府は、これまで”省エネ”と称して総発電電力量の目標値を低減してきた。しかし、第7次エネルギー基本計画の策定にあたり、電力需要は人工知能(AI)の普及に伴うデータセンターや半導体工場の増加で、2040年には2023年度実績より10~20%増加して1.1兆~1.2兆kWhに達すると想定している。

 そのため「電力の安定供給」と「脱炭素化」を両立させるには、今後も主力電源と位置付けている”再生可能エネルギーの増強”と、”安心・安全な原子力発電の実現”が鍵となることは間違いない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました