脱炭素に向けた発電電力量の推移(Ⅱ)

はじめに

 2010年度における発電電力量の構成比は、原子力25.1%、火力65.4%、水力7.3%、地熱及び新エネルギーが2.2%である。しかし、2011年3月の福島第一原発事故」以降原子力発電所は順次に運転停止され、2014年度における発電電力量構成比は、原子力0%、火力87.5%、水力7.9%、地熱及び新エネルギー4.6%となった。

 その後、2012年7月に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が導入、2015年12月には地球温暖化対策の国際的枠組みの「パリ協定」が採択された。その結果、2020年度の発電電力量の構成比は、原子力3.9%、火力76.3%、水力7.8%、地熱及び新エネルギー12.0%と、再生可能エネルギーが約20%に達した。

2.2010年以降の発電電力量と政府施策

2.1 福島第一原発事故前後の動向

 2010年度以降に注目して、経済産業省が公表している電源別の発電電力量を観てみよう。ただし、石油等にはLPG(液化石油ガス)やその他のガスが含まれている。また、再生可能エネルギーには、水力発電のほかに、太陽光発電、風力発電、地熱発電、バイオマス発電が含まれている。 

 2011年3月の「福島第一原発事故」前の2010年度における発電電力量の構成比は、原子力25.1%、火力65.4%、水力7.3%、地熱及び新エネルギーが2.2%である。この構成比は、福島第一原発事故以前には大きな変化はみられない。すなわち、化石燃料発電が65.4%、非化石燃料発電が34.6%である

 しかし、福島第一原発事故」以降原子力発電所の安全性不備を理由に、電気事業法施行規則第91条で定められる定期検査を迎えた原子力発電所から順次に運転停止された。2013年9月、関西電力の大飯原子力発電所4号機が運転停止したことで、国内の原子力発電所は全面停止状態に入った。

 その結果、2014年における発電電力量構成比は、原子力0%、火力87.5%、水力7.9%、地熱及び新エネルギー4.6%で、火力発電比率が90%に迫る勢いで国内の電力需要への対応が進められた。すなわち、化石燃料発電が87.5%、非化石燃料発電が12.5%となった

図1 日本の総発電電力量の推移と2030年の目標値 出典:経済産業省

2.2 固定価格買取制度とパリ協定の発効

 2012年7月、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が導入された。原子力発電の安全性が疑問視される中で地球温暖化問題がクローズアップされ、これまで大規模水力発電に依存していた再生可能エネルギーであるが、小水力、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの導入拡大をめざした

 しかし、休止していた石油火力発電の再稼働と燃料調達燃料価格の高いLNG(液化天然ガス)火力発電への依存度の急増に加え、再生可能エネルギーを高価格で買い取るFITの導入などが、国内電力会社の経営不振を招き、電気料金の大幅値上げを招いた

 2015年に入ると、中国など新興国経済の減速に加えて、シェールガス・オイルの開発を進める米国と中東産油国との生産競争による供給過剰から燃料費が低下し太陽光発電のFIT買取価格の引き下げが行われた結果、国内電力会社の経営状況が相次いで好転した。

 2015年には原発の再稼働も徐々に始まり、発電電力量構成比は、原子力0.9%、火力84.8%、水力8.4%、地熱及び新エネルギー5.9%と、再生可能エネルギーの総発電電力量に対する比率が伸び始めた。すなわち、化石燃料発電が84.8%、非化石燃料発電が15.2%となった

 一方、2015年12月、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」が採択された。CO2削減目標は「産業革命前からの気温上昇を2℃未満にし、1.5℃未満に収まるよう努力する」とされ、化石燃料、とりわけ石炭火力発電所の廃止が欧州を中心に進み始めた

 石炭火力発電比率の高い日本は、「脱石炭火力発電」に後ろ向きの国として、2019年12月に開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)以降、不名誉な「化石賞」を連続して受賞することになる

2.3 実施された電力小売自由化とは

 2015年6月、電力・ガス・熱供給を一体的に改革する「電気事業法等の一部を改正する等の法律」(改正電気事業法)が公布された。これにより、2016年4月より「電力小売業」、2017年4月より「ガス小売業」への参入の全面自由化が始まった。

 従来、一般電気事業者10社(大手電力会社)が独占的に電力供給を行ってきた家庭向け電力市場を開放することで、政府は特定規模電気事業者(新電力)の参入による競争促進で、家庭用電気料金の引き下げをめざした。しかし、電気料金が下がることはなく、上がり続けている

 2020年には新電力を中心に再生可能エネルギーの導入が進み、発電電力量構成比は、原子力3.9%、火力76.3%、水力7.8%、地熱及び新エネルギー12.0%と、再生可能エネルギーは約20%に達した。化石燃料発電が76.3%、非化石燃料発電が23.7%で、徐々にではあるが比化石燃料発電が増加している

 2020年4月、大手の一般電気事業者10社からの送配電部門の法的分離が行われた。一般電気事業者が保有する送配電網を、新電力が利用する際に自由競争の妨げとならないための措置である。
 しかし、持株会社制度による見掛けの「発送電分離」であるため、2023年3月、一般電気事業者10社による新電力の顧客情報の不正閲覧問題が発覚し、自由競争とは言い難い状況が露呈している。

図2 日本の総発電電力量構成比の推移と2030年度目標値 出典:経済産業省

 「福島第一原発事故」後のFIT制度の導入電力自由化などの諸施策により、国内の発電電力量構成は、CO2を排出する火力発電の低減再生可能エネルギー発電の増強が着実に進められているかに見える。

 しかし、2021年10月に策定された第6次エネルギー基本計画で、2030年を目標とした非化石燃料発電58~60%(再生可能エネルギー:36~38%、原子力:20~22%)には、まだまだ道は遠い。再生可能エネルギーの導入が鈍化しており、原子力発電は再稼働が順調に進められていないとの報道もある。 

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