進み始めた日本のグリーン変革(Ⅲ)

はじめに

 「グリーントランスフォーメーション」を進めるための最大の課題は、非化石燃料電源への転換に要する膨大な投資費用であり、政府は今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要としている。

 日本の部門別CO2排出量(2022年度、電気・熱配分前)は、エネルギー転換部門は40.5%、産業部門が24.4%、運輸部門が17.8%、業務その他部門が5.5%、家庭部門が4.8%、その他7%である。そのためグリーントランスフォーメーションは、エネルギー転換部門、産業部門、運輸部門が当面の対象となる。

動き出したグリーントランスフォーメーション

 多くの問題を抱えながらも法制化は進められており、「グリーントランスフォーメーション」は動き出した。

 2024年2月、財務省は、「第1回クライメート・トランジション(移行)利付国債(GX経済移行債)」の入札を実施した。額面約8000億円で、償還期間10年である。調達した資金は、「2050カーボンニュートラル」を実現する技術の研究開発への投資など、GX推進の活動に使われる。

 2024年2月、政府は、エネルギー源として水素などの普及を目指す「水素社会推進法案」と、火力発電所や航路などから排出されるCO2を回収して地下に貯留する「CCS事業法案」閣議決定した。化石燃料の使用量が多い電力や鉄鋼など、脱炭素化が難しい業界の取り組みを後押しする。

 2024年5月、「水素社会推進法(低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律)」が国会で成立した。再エネなどを活用して製造した水素、アンモニア、合成メタン、その他の合成燃料量の自律的なサプライチェーン構築に向けて、認定した事業者に対して「価格差に注目した支援」と「拠点整備支援」を行う。

 2024年5月、「CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)」が国会で成立した。2030年までに民間事業者がCCS事業を開始するにあたり貯留事業等の許可制度等を整備する。許可を受けた事業者には試掘権と採掘権を設定し、CO2の漏えいを確認するため、貯留層の温度・圧力等のモニタリング義務を課す。

 2024年5月、政府は、2040年に向けた脱炭素化や産業政策の方向性を盛り込んだ新たな国家戦略を年度内に策定する方針を固めた。「GX2040ビジョン」として長期的な産業政策を打ち出すことで関連投資を促し、国内産業の競争力強化を図る。
 「第7次エネルギー基本計画」の議論と合わせ、データセンターなど大量の電気を使う設備に対応した脱炭素電源の拠点化を踏まえた送電線整備、再生エネ発電所が多い地域や水素・アンモニアの輸入基地に合わせた産業集積の方向性、脱炭素電源を使った半導体産業の集積などを議論するとしている。

 2024年7月、GX戦略の中核機関となる「GX推進機構」が、東京都内で業務を開始した。GX推進法に基づく認可法人で5月に設立され、企業が脱炭素の技術開発や設備投資に必要な資金を調達するために、金融機関からの融資を債務保証(上限1兆円)する業務や、スタートアップへの出資などを行う。
 将来的には、2026年度に本格的に始める「排出量取引制度」の運営や、2028年度に導入する化石燃料の輸入事業者への賦課金徴収なども手がける。職員数は現在の約40人から100人体制に拡充する。

 2024年8月、政府は、製造過程で排出されるCO2を減らした「グリーン製品」の調達を製造業者らに義務づける方針を固めた。2025年から段階的に始めるため、有識者会議「GX2040リーダーズパネル」で関係省庁に制度設計を指示した。 グリーンスチールや、グリーンケミカルなどを義務化の対象とする。
 具体的な製品や調達量は今後検討が進められるが、自動車や住宅メーカー、造船会社など大企業を念頭に置き、脱炭素投資の補助金を申請する企業に対し、一定量のグリーン製品調達を補助金支給の条件とし、調達実績の開示も求める。調達義務化の裏付けとなる法制化も進める方向だ。  

 グリーントランスフォーメーションの最大の課題は、非化石燃料電源への転換に要する膨大な投資費用であり、政府は今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要としている。
 CO2排出量の最も多いエネルギー転換部門に対しては、2020年3月、「エネルギー供給構造高度化法」で中間目標値が設定された。年間販売電力量が5億kWh以上の電気事業者に対し、「2030年度に非化石電源比率を44%以上」という目標が定められた。
 今後、産業部門、運輸部門にも類似の目標が設定されるであろう。

 

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