進み始めた日本のグリーン変革(Ⅱ)

はじめに

 岸田政権では、「グリーン成長戦略」「グリーントランスフォーメーション(GX)」へと引き継がれて推進された。大きな前進は、GX実行の財源として、炭素税導入CO2排出量取引などを「カーボンプライシング」と称して明示した点にある。研究開発資金をばら撒くだけでなく、その財源を集める手順を示したのである。

岸田政権のグリーントランスフォーメーション(GX) 

GX会議とは?

 GX実行会議とは、産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革(GX、グリーントランスフォーメーション)を実現する。内閣総理大臣を議長とし、関係閣僚と各界の社長、会長、理事、相談役など有識者13人+αが名を連ねる。

 2022年7月、「第1回GX実行会議」が開催され、岸田議長は電力・ガスの安定供給に向け、再エネ、蓄電池、省エネの最大限導入のための制度的支援策や原発の再稼働とその先の展開策など、具体的な方策の明確化を関係閣僚に指示した。会議は必要に応じて開催され、2024年5月には第11回実行会議が開催された。

 その間、2023年2月にはGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針が閣議決定され、2023年5月にはカーボンプライシングの導入を含むGX推進法、原子力発電所の運転期間の実質60年超への延長を盛り込んだGX脱炭素電源法のGX関連法が相次いで成立した。 
 また、これらの政策を実行するため「GX推進法」に基づき、2023年7月には「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)が閣議決定された。

GX基本方針の概要

 気候変動問題への対応に加え、ロシアによるウクライナ侵略を受け、エネルギー安定供給の確保と経済成長を同時に実現するため、主に①、②の取組を進める。

①非化石燃料電源への転換の推進
 エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した「省エネ」に加え、「再エネ」「原子力」などのエネルギー自給率向上に資する脱炭素電源への転換など、GXに向けた脱炭素の取組を進める。
②炭素税やCO2排出量取引などの推進
 GXの実現に向け、「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシング」によるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を行う。

 問題点は、「再エネ」の中に石炭火力発電による水素・アンモニア燃料の混焼をまぎれ込ませている点であり、欧州先諸国からは、石炭火力発電の延命措置と非難されている。
 一方、原発再稼働の推進のほか、廃炉跡地への次世代革新炉への建て替え原発の60年運転核燃料サイクルの推進など、福島第一原発事故以後の原子力政策を大きく転換させる方針が示され、GX推進=原子力政策推進の印象を強めた。

GX推進法の制定

 「2050年カーボンニュートラル」の国際公約と産業競争力強化・経済成長を同時実現するため、政府は今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要であるとし、そのうち20兆円は化石燃料賦課金(税金)などでまかなうとした。

 政府として本格的なカーボンプライシング(CO2排出への課金)を行うことが最大のポイントである。実現に向けてGX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)が制定され、次の①~⑤の取り組みが進められる。

①GX推進戦略の策定・実行
 政府は、GXを総合的・計画的に推進するための「GX推進戦略(脱炭素成長型経済構造移行推進戦略)」を策定・実行する。
②GX経済移行債の発行
 政府は、GX推進戦略の実現に向けた先行投資を支援するため、2023年度から10年間、GX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)を発行し、GX推進に関する施策を講じる。
③成長志向型カーボンプライシング(CP)の導入
 炭素排出に価格付けし、GX関連製品・事業の付加価値を向上させて、投資を促進する。
 2028年度から、化石燃料の輸入事業者から排出されるCO2量に応じて化石燃料賦課金(税金)を徴収。2033年度から、発電事業者に一部有償でCO2排出枠(量)を割り当て、量に応じた特定事業者負担金を徴収する。これらの「炭素税」は、GX経済移行債の償還財源とする。
④GX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)の設立
 経済産業大臣の認可によりGX推進機構を設立し、企業へのGX投資支援(金融支援、債務保証等)、化石燃料賦課金・特定事業者負担金の徴収のほか、排出量取引制度(特定事業者排出枠の割当て・入札等)等の運営を行う。
⑤進捗評価と必要な見直し
 GX投資等の実施状況やCO2排出に係る国内外の経済動向等を踏まえ、施策のあり方について検討を加え、その結果に基づいてGX推進戦略を含めて適宜に見直すとした。
 化石燃料賦課金排出量取引制度に関する制度設計は、排出枠取引制度の本格的な稼働のための具体的な方策を含めて検討し、この法律の施行後2年以内に、必要な法制上の措置を行う。

 問題点は、産業界の意向を反映したのか?CP導入時期の2028年が遅いことである。1990年にフィンランドで炭素税が導入されたのを皮切りに、世界銀行報告書『世界のカーボンプライシングの実施状況』によると、2021年4月時点で64の国・地域でカーボンプライシングが導入されている。
 また、経済産業省の認可法人「GX推進機構」に巨額の官民資金を集める構想である。金権体質の政権においては、その運営方針・施策の透明性を担保する必要があり、必ず問題が起きる。

GX脱炭素電源法

 安定的かつ持続可能なエネルギー供給体系を構築するため、GX脱炭素電源法(脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律)を制定し、再生可能エネルギーの導入拡大支援と、既存の原子力発電の有効活用や廃炉について規定する。

 具体的には、関連する次の5法律を改正する。
 〇電気事業法
 〇再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)
 〇原子力基本法
 〇核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)
 〇原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)

地域と共生した再エネの最大限の導入促進
①系統整備のための環境整備(電気事業法・再エネ特措法
 重要な送電線の整備計画を経済産業大臣が認定し、工事着手段階から再エネ賦課金を交付して利用を促進する。また、事業者が電力広域的運営推進機関から貸付けを受けることも可能とする。
②既存再エネの最大限活用のための追加投資促進(再エネ特措法)
 太陽光発電に係る追加投資(更新・増設)を促すため、地域共生や円滑な廃棄を前提に、追加投資部分に既設部分と区別した新たな買取価格を適用する。
③地域と共生した再エネ導入のための事業規律強化(再エネ特措法)
 関係法令等の違反事業者に交付金(支援額)の積立てを命じ、違反が解消されない場合は支援額の返還命令を行う。また、再エネ発電事業計画の認定要件に事業内容を周辺地域に事前周知することを追加し、委託先事業者に対する監督義務を課すなど事業規律を強化する。
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安全確保を大前提とした原子力の活用・廃炉の推進
①原子力発電の利用に係る原則の明確化(原子力基本法)
 安全を最優先とする原子力利用の基本原則や、バックエンドのプロセス加速化、自主的安全性向上等の国・事業者の責務を明確化する。
②高経年化した原子炉に対する規制の厳格化(炉規法)
 原子力事業者に対して運転開始から30年超運転する場合、10年以内毎に設備劣化の技術的な評価を行い、劣化管理計画を定め、原子力規制委員会の認可を受けることを義務付ける。
③原子力発電の運転期間に関する規律の整備(電気事業法)
 原子力発電の運転期間は40年とした上で、安定供給確保、GXへの貢献などの観点から経済産業大臣の認可を受けた場合に限り、運転期間の延長を認める
 その際、「運転期間は最長で60年に制限する」という現行の枠組みは維持した上で、原子力事業者が予見し難い事由による停止期間に限り、60年の運転期間の積算から除外する。
④円滑かつ着実な廃炉の推進(再処理法
 今後の廃炉の本格化に対応するため、使用済燃料再処理機構の業務に、全国の廃炉の総合的調整などの業務を追加し、同機構の名称を「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」とする。また、原子力事業者に対して、同機構に廃炉拠出金を納付することを義務付ける。

 問題は、再エネの最大限導入を表記したものの、現在問題となっている出力制御を防ぐための電力貯蔵システムなどの対策が貧弱であり、再生エネ導入に関する本気度が感じられない点にある。
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 問題は、原発の安全性の担保にある。現時点で60年超の運転実績を有する原発はなく、科学的に安全性を証明することはできない。火山国の日本は地震・津波はもちろん、毎年のごとく台風などの風水害を受けるため、世界一厳しい原発規制が必要である。
 経年劣化とは、原発が稼働していなくても進行するから経年劣化なのである。原発の停止期間分を運転期間に加算して運転できるとすることに科学的な根拠はない。 

  2023年8月、原子力規制委員会は、GX脱炭素電源法を受けて新たな炉規法に関する規則の改正を実施した。電力会社は30年を超える原発を運転する際、施設の劣化を管理する「長期施設管理計画」を提出して認可を得る必要がある。その後、規制委による最長10年ごとの設備の劣化状況の審査と認可を受ける。
 また、運転開始から60年超の原発の審査には、容器やコンクリートの劣化状況を詳しく調べる40年時点の点検と同レベルの追加点検を義務付けられた。 

GX推進戦略

 政府は、「GX実現に向けた基本方針」の閣議決定、及び「GX推進法」、「GX脱炭素電源法」の成立により、「成長志向型カーボンプライシング構想」等の新たな政策を具体化したとし、これらの政策を実行するため「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)を定め、2023年7月に閣議決定が行われた。
 その内容は、GX基本方針である次の①、②の取り組みを進めることである。

①非化石燃料電源への転換の推進
 エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した省エネに加え、再エネ原子力などのエネルギー自給率の向上に資する脱炭素電源への転換などGXに向けた脱炭素の取り組みを進める。
②炭素税やCO2排出量取引の実現
 GXの実現に向け、「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を行う。

 問題は、非化石燃料電源への転換で、一般の国民が出来ることは徹底した省エネくらいである。政府は再エネ拡大は新電力に期待したが伸び悩み、原子力は大手電力会社が安全対策のために再稼働が遅れた。政府が、火力発電の抑制を明示しなければ転換は実現しない。
 ところで、景気減速の観点から産業界は炭素税導入に反対を表明してきたが、GX推進法が制定されたことは大きな一歩である。しかし、安価で安定した電力供給には原子力が必須とする産業界の意向を汲む原子力活用推進の法制化は、拙速過ぎると多くの国民は感じている。

 

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