進み始めた日本のグリーン変革(Ⅰ)

はじめに

 2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」宣言に始まった日本のグリーンイノベーションは、菅政権の「グリーン成長戦略」から、岸田政権の「グリーントランスフォーメーション(GX)」へとつなげられ、①非化石燃料電源への変換と、②炭素税やCO2排出量取引の実現の2本仕立てで進み始めている。

菅政権のグリーン成長戦略

 日本では、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。これを踏まえて経済産業省が中心となり、2021年6月、関係省庁と連携した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定された。
 グリーン成長戦略では、産業政策・エネルギー政策の両面から、成長が期待される14の重要分野について実行計画が策定された。国として高い目標を掲げ、可能な限り具体的な見通しを示したのである。

 2021年3月、「2050年カーボンニュートラル」に向けて、政府は令和2年度第3次補正予算で2兆円の「グリーンイノベーション基金」を、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に立ち上げた。

 グリーン成長戦略で実行計画を策定した14の重点分野のうち、特に政策効果が大きく、社会実装までを見すえて長期間の取組が必要な領域について、NEDOは具体的な目標とその達成を進める企業等を対象に、10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する。
 この「グリーンイノベーション事業の基本方針」は、その後に何度か改定されたが、継続されている。

図1 NEDO「グリーンイノベーション基金事業」で進められている代表的なプロジェクト

 2024年7月時点で、以下の20件のNEDO開発プロジェクトが進められている。
●次世代浮体式洋上風力発電の低コスト化と実証事業
●次世代太陽電池(ペロブスカイト太陽電池)の開発加速
●廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル型炭素循環の開発
●大規模水素サプライチェーンの構築と水素発電技術の実証
●再生エネ等由来の電力を活用したアルカリ水電解による水素製造の大規模実証
●高炉による水素だけで低品位鉄鉱石を還元する直接水素還元技術の開発
アンモニア供給コストの低減と、アンモニア発電おける高混焼率化と専焼化
●CO2等を用いたプラスチック原料の製造技術開発
●持続可能な航空燃料(SAF)、合成メタン燃料、グリーンLPGの製造技術開発
●セメント製造プロセスでのCO2回収技術と、CO2固定量最大化コンクリートの開発
●天然ガス火力発電排ガスと、工場排ガス等からCO2分離回収技術の開発・実証
●次世代蓄電池の開発とリサイクル技術、次世代モーターの開発
●電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発
●EV・FCEVの本格普及時におけるエネルギーマネージメントのシミュレーション技術の開発
●次世代グリーンパワー半導体と、次世代グリーンデータセンター技術開発
●次世代航空機の開発(水素航空機、軽量化の技術開発)
●次世代船舶の開発(水素・アンモニア燃料船、LNG燃料船のメタンスリップ対策)
●食料・農林水産業のCO2等削減・吸収技術(高機能バイオ炭、ブルーカーボン)
●バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進
アンモニア・水素燃焼工業炉の技術確立と、電気炉の高効率化の推進

 ところで、成長が期待される14の重要分野の一つである原子力産業に関する研究・開発」に関しては、その特殊性から従来通りに経済産業省(資源エネルギー庁原子力政策課)から、限られた企業や研究機関へ直接委託され進められている。

 菅政権の示した2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」は、先進諸国とも足並みを揃える意味で高く評価される。経済発展の優先を名目に、安倍政権では避け続けてきた脱炭素問題に正面から取り組むもので、ギリギリのタイミングであったことを忘れてはならない。
 残念ながら菅政権のグリーン成長戦略では、成長が期待される14の重要分野を羅列し、「グリーンイノベーション基金」を確保することで終わった。研究開発が経済発展に至る道筋と、それを支える財源については、岸田政権のグリーントランスフォーメーション(GX)で推進される。

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