2050年カーボンニュートラル(Ⅱ)

はじめに

エネルギー関連産業の成長戦略

 エネルギー関連産業においてリストアップされたのは①洋上風力・太陽光・地熱②水素・燃料アンモニア③次世代熱エネルギー④原子力である。国内のCO2排出量の37%を占める電力部門の脱炭素化は必須であり、再生可能エネルギーについては最大限の導入を目指す必要がある。

 そのためには系統整備、発電コストの低減、周辺環境との調和、出力変動の平準化のための蓄電池の活用が重要となる。2020年時点で総発電量の20%弱である再生可能エネルギーを、2050年には約50~60%への増設を目指す。

①洋上風力・太陽光・地熱

 洋上風力発電は再生可能エネルギーの切り札と位置付け、沿岸部での大量導入を目指し、政府主導で海域調査や送電網の確保などの地元自治体との調整を行うセントラル方式で推進する。
 導入目標を、2030年までに発電容量:1000万kW、着床式発電コスト:8~9円/kWh(2030~2035年)、2040年までに発電容量:3,000万~4500万kW(国内調達比率:60%)を目指し、系統・港湾のインフラを計画的に整備する。

 現状でも再エネの出力制御の頻発が問題視されている。単に洋上風力発電を増設すれば出力制御の増加を招くため、並行して大規模電力貯蔵システムの開発が不可欠であろう。

 太陽光発電は次世代型太陽電池(ベロブスカイト型)の研究開発を重点化し、2030年に発電コスト:14円/kWhとして普及段階への移行を目指す。将来の世界市場5兆円の取り込みを視野に入れる。

図1 フィルム材料に形成したベロブスカイト型太陽光電池
 出典:積水化学工業

 地熱発電は高温高圧の超臨界地熱発電の実現に向けて、坑井やタービン等の腐食対策を推進し、国内市場は1兆円以上を目指す。また、自然公園法や温泉法の運用の見直して開発を加速する。

②水素・燃料アンモニア

 水素は、石炭やLNGの代替燃料として最大限追求を進める。特にアジアを中心として、水素を燃料とする火力発電の需要は高まるため、水素の供給量・需要量の拡大を目指して、インフラ整備、並びにコスト低減を加速するため、消費量を大きく引き上げる目標を策定した。
 現状の水素消費量である200万トン/年を、2030年;最大300万トン2050年;2,000万トン程度と大きく引き上げ、ガス火力並みの供給コスト(2050年;20円/Nm3程度以下)を目指す。

 また、水素発電タービンFCトラックの商用化を加速し、定置用燃料電池の発電効率・耐久性の向上を図り、水素の活用を拡大する。一方で、水電解装置のコスト低下(1/3~1/6)により海外市場への参入を目指す。

 燃料アンモニア(NH3は、水素社会への移行期の脱炭素燃料として有望とし、2030年に向けてアンモニアの生産規模を拡大し、現在のLNG価格を下回る10円/Nm3-H2台後半での供給を進める。
 火力混焼用の発電用バーナーの技術開発を進め、2030年までに石炭火力への20%混焼の導入・普及、2050年までに50%混焼や専焼化技術を実用化し、東南アジアの石炭火力に混焼技術を導入し、約5000億円と見込まれる燃料アンモニア市場の獲得を目指す。

 また、安価な燃料アンモニアの供給に向け、コスト低減の技術開発やファイナンス支援を強化し、国際的なサプライチェーンを構築してアンモニア供給・利用産業イニシアティブを取る。

 2022年3月、政府は「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(高度化法)」において、位置付けが不明瞭であった水素・アンモニアを非化石エネルギー源と位置付け火力発電であってもCCSを備えたもの(CCS付き火力を法律上に位置付け、その利用を促進するとした。

 政府は、2050年には総発電量の約10%を水素・アンモニア燃料とした火力発電約30~40%を火力発電+CO2回収と原子力発電で見込んでいる。
 CO2回収を前提とする火力発電は、エネルギーのベストミックスの観点から選択肢として最大限追求を進めるとしている。そのため、CO2回収・貯留(CCS)技術確立CO2貯留の適地開発CO2回収コスト低減が、化石燃料火力発電の生き残りには必須となる。

③次世代熱エネルギー

 産業・民生部門のエネルギー消費量の約60%は熱需要であり、熱は国民生活に欠かせない。供給サイドが需要サイドを巻き込みながら、熱エネルギーを供給するガスの脱炭素化を目指す。

 2030年に既存インフラに合成メタンを1%注入2050年には既存インフラに合成メタン90%注入することで、都市ガスのカーボンニュートラルを進める。
 合成メタンの安価な供給を実現するため、メタネーションの高効率化などの革新的技術開発、安価な海外のサプライチェーンの構築等を進め、2050年までにLNG価格と同等のコスト(40~50円/N㎥)を目指す。 

④原子力発電

 軽水炉は低炭素発電として確立した技術であり、安全性向上を図りながら、可能な限り依存度は低減しつつも、引き続き最大限の活用が必要とし、再稼働を進める。しかし、国内の原子力発電所の再稼働は進まず、2023年7月時点で建設中を除く全原子力発電所33基の内、10基に留まっている 。

 小型モジュール炉(SMR、出力:30万kW以下)は、2020 年代末の運転開始を目指す米英加等の海外実証プロジェクトと連携する日本企業の取組を支援し、2030年までに技術実証を行う。米国と連携してアジアなどへの輸出を視野に入れ、建設コストの低減を目指す。

図2 米国ニュースケールパワーのSMR(熱出力:250MW、電気出力:77MW)
 出典:日経Xtech

 高速炉の開発は、米国やフランスとの国際連携を日本原子力研究開発機構(JAEA)の保有する実験炉・原型炉の運転・保守データ、試験施設等も活用して開発を着実に推進する。

 高温ガス炉の開発は、JAEAが保有する高温工学試験研究炉(HTTR)を活用し、安全性の国際実証に加え、2030年までに高温ガス炉における水素製造に係る要素技術を確立する。

 核融合炉の開発は、国際熱核融合実験炉(ITER)計画の2025年運転開始、2035年核融合運転開始を目指し、国内で建設中の大型トカマク装置(JT-60SA)の運転開始に向けた研究開発を推進する。

 2023年7月、経済産業省は、次世代原子力である高速炉高温ガス炉の開発に向け、設計や製造・建設を統括する中核企業に三菱重工業を選定した。機器メーカーやゼネコンなどを取りまとめ、安全性の高い次世代型の原発の開発を加速させる役割を担う。
 政府は2023年度以降の3年間で、高温ガス炉と高速炉の開発に計900億円の予算を確保している。三菱重工業は、この資金を使った設計や開発の中心で、実証炉の建設も継続して担う。

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