日本の「2050カーボンニュートラル」

日本のグリーン成長戦略とは?

 日本は、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言した。これを実現するために、2021年6月、経済産業省が中心となり、関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定した。

 米国トランプ前大統領と蜜月関係を続けた安倍晋三元内閣総理大臣の時代には、遅々として進められることのなかったエネルギー・環境政策の大転換である。続いて、2050年カーボンニュートラル実現のためのエネルギー政策及びエネルギー需給についても見直しが進められた。

 このグリーン成長戦略では、産業政策・エネルギー政策の両面から、成長が期待される14の重要分野について実行計画を策定し、政府として高い目標を掲げ、可能な限り具体的な見通しを示した。
 すなわち、「エネルギー関連産業」「製造・輸送関連産業」「家庭・オフィス関連産業」について、その分類ごとに2030 年までに市場が立ち上がる「導入拡大フェーズ」から、2050 年までに市場が立ち上がる「研究開発フェーズ」まで、異なる時間軸の分野・製品が特定。

 政府は、このグリーン成長戦略の推進により、2030年で年額90兆円2050年で年額190兆円程度の経済効果が見込まれるとしている。

表1 産業政策の観点から成長が期待される14の分野・産業

エネルギー関連産業の成長戦略

 エネルギー関連産業では①洋上風力・太陽光・地熱②水素・燃料アンモニア③次世代熱エネルギー④原子力がリストアップされた。国内のCO2排出量の37%を占める電力部門の脱炭素化は必須であり、再生可能エネルギーについては最大限の導入を目指す必要がある。

 そのためには系統整備、発電コストの低減、周辺環境との調和、出力変動の平準化のための蓄電池の活用が重要となる。2020年時点で総発電量の20%弱である再生可能エネルギーを、2050年には約50~60%への増設を目指す。

①洋上風力・太陽光・地熱

 洋上風力発電は再生可能エネルギーの切り札と位置付け、沿岸部での大量導入を目指し、政府主導で海域調査や送電網の確保などの地元自治体との調整を行うセントラル方式で推進。
 導入目標を、2030年までに発電容量:1000万kW、着床式発電コスト:8~9円/kWh(2030~2035年)、2040年までに発電容量:3,000万~4500万kW(国内調達比率:60%)を目指し、系統・港湾のインフラを計画的に整備する。

 現状でも再エネの出力制御の頻発が問題視されている。単に洋上風力発電を増設すれば出力制御の増加を招くため、並行して大規模電力貯蔵システムの開発が不可欠。

 太陽光発電は次世代型太陽電池(ベロブスカイト型)の研究開発を重点化し、2030年に発電コスト:14円/kWhとして普及段階への移行を目指す。将来の世界市場5兆円の取り込みを視野に入れる。

図1 フィルム材料に形成したベロブスカイト型太陽光電池
 出典:積水化学工業

 地熱発電は高温高圧の超臨界地熱発電の実現に向け、坑井やタービンの腐食対策を推進し、国内市場は1兆円以上を目指し、自然公園法や温泉法の運用を見直して開発を加速する。

②水素・燃料アンモニア

 水素は、石炭やLNGの代替燃料として最大限追求を進める。特にアジアを中心として、水素を燃料とする火力発電の需要は高まるため、水素の供給量・需要量の拡大を目指して、インフラ整備、並びにコスト低減を加速するため、消費量を大きく引き上げる目標を策定した。
 現状の水素消費量である200万トン/年を、2030年;最大300万トン2050年;2,000万トン程度と大きく引き上げ、ガス火力並みの供給コスト(2050年;20円/Nm3程度以下)を目指す。

 また、水素発電タービンFCトラックの商用化を加速し、定置用燃料電池の発電効率・耐久性の向上を図り、水素の活用を拡大する。一方で、水電解装置のコスト低下(1/3~1/6)により海外市場への参入を目指す。

 燃料アンモニア(NH3は、水素社会への移行期の脱炭素燃料として有望とし、2030年に向けてアンモニアの生産規模を拡大し、現在のLNG価格を下回る10円/Nm3-H2台後半での供給を進める。
 火力混焼用の発電用バーナーの技術開発を進め、2030年までに石炭火力への20%混焼の導入・普及、2050年までに50%混焼や専焼化技術を実用化し、東南アジアの石炭火力に混焼技術を導入し、約5000億円と見込まれる燃料アンモニア市場の獲得を目指す。

 また、安価な燃料アンモニア供給に向け、低コスト化やファイナンス支援を強化し、国際的なサプライチェーンを構築してアンモニア供給・利用産業イニシアティブを取る。

 2022年3月、政府は「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(高度化法)」において、位置付けが不明瞭であった水素・アンモニアを非化石エネルギー源と位置付け火力発電であってもCCSを備えたもの(CCS付き火力を法律上に位置付け、その利用を促進。

 政府は、2050年には総発電量の約10%を水素・アンモニア燃料とした火力発電約30~40%を火力発電+CO2回収と原子力発電で見込んでいる。
 CO2回収を前提とする火力発電は、エネルギーのベストミックスの観点から選択肢として最大限追求を進めるとしている。そのため、CO2回収・貯留(CCS)技術確立CO2貯留の適地開発CO2回収コスト低減が、化石燃料火力発電の生き残りには必須となる。

③次世代熱エネルギー

 産業・民生部門のエネルギー消費量の約60%は熱需要で、国民生活に欠かせない。供給サイドが需要サイドを巻き込み、熱エネルギーを供給するガスの脱炭素化を目指す。

 2030年に既存インフラに合成メタンを1%注入2050年には既存インフラに合成メタン90%注入することで、都市ガスのカーボンニュートラルを進める。
 安価な合成メタンの供給を実現するため、メタネーションの高効率化などの革新的技術開発、安価な海外サプライチェーンの構築を進め、2050年までにLNG価格と同等のコスト(40~50円/N㎥)を目指す。 

④原子力発電

 軽水炉は低炭素発電として確立した技術で、安全性向上を図り、可能な限り依存度は低減しつつも、最大限の活用が必要として再稼働を進める。しかし、国内の原子力発電所の再稼働は進まず、2023年7月時点で建設中を除く全原子力発電所33基の内、10基に留まっている 。

 小型モジュール炉(SMR、出力:30万kW以下)は、2020 年代末の運転開始を目指す米英加等の海外実証プロジェクトと連携する日本企業の取組を支援し、2030年までに技術実証を行う。米国と連携してアジアなどへの輸出を視野に入れ、建設コストの低減を目指す。

図2 米国ニュースケールパワーのSMR(熱出力:250MW、電気出力:77MW)
 出典:日経Xtech

 高速炉開発は、米国やフランスとの国際連携を日本原子力研究開発機構(JAEA)保有の実験炉・原型炉の運転・保守データ、試験施設も活用して開発を着実に推進する。

 高温ガス炉開発は、JAEA保有の高温工学試験研究炉(HTTR)を活用し、安全性の国際実証に加え、2030年までに高温ガス炉における水素製造に係る要素技術を確立する。

 核融合炉開発は、国際熱核融合実験炉(ITER)計画の2025年運転開始、2035年核融合運転開始を目指し、国内で建設中の大型トカマク装置(JT-60SA)の運転開始の研究開発を推進。

 2023年7月、経済産業省は、次世代原子力である高速炉高温ガス炉の開発に向け、設計や製造・建設を統括する中核企業に三菱重工業を選定した。機器メーカーやゼネコンなどを取りまとめ、安全性の高い次世代型の原発の開発を加速させる役割を担う。
 2023年度以降の3年間で、高温ガス炉と高速炉の開発に計900億円の予算が確保され、三菱重工業はこの資金を使う設計・開発の中心で実証炉建設も継続して担う。

輸送・製造関連産業の成長戦略

 国内のCO2排出量の25%を占める産業部門、17%を占める運輸部門の脱炭素化は重要課題である。
 グリーン成長戦略では、輸送・製造関連産業では⑤自動車・蓄電池産業⑥半導体・情報通信産業⑦船舶産業⑧物流・人材・土木インフラ産業⑨食料・農林水産業⑩航空産業⑪カーボンリサイクル・マテリアル産業がリストアップされている。
・内閣官房成長戦略会議資料、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略、2020年2月12日

⑤自動車・蓄電池産業

 自動車は日本の基幹産業であり、遅くとも2030年代半ばまでに軽自動車を含めた乗用車の新車販売で電動車(BEV、HEV、PHEV、FCEV)化100%を実現できるよう包括的な措置を講じる。また、トラックなどの商用車も、乗用車に準じて2021年夏までに電動化目標を設定する。
 この10年間はEVの導入を強力に進め、蓄電池をはじめ世界をリードする産業サプライチェーンとモビリティ社会を構築。2050年に自動車分野の生産から廃棄まで全工程を脱炭素化する。

 乗用車は2035年までに新車販売で電動車100%を実現。 商用小型車は2030年までに新車販売で電動車20~30%、2040年までに電動車・脱炭素燃料車100%を目指す。商用大型車は、2020年代に5000台の先行導入を目指し、2030年までに2040年の電動車の普及目標を設定。

 2023年7月、環境省はEVトラック導入で、ディーゼル車より高額な購入費用の一部を補助し、2023年度中に4000台の導入を目指す。(2021年度のトラック新車販売は77万台)グリーントランスフォーメーション経済移行債を使い、事業費に136億円を充当。
 2.5トン超のEVトラックではディーゼル車との差額の2/3を補助する。小型トラックでは、300万円/台程度の補助額を想定し、運送事業者や地方自治体などに出す。

 蓄電池は電動化の鍵でBEV価格の約30%を占めるため、高性能・低コスト化を進める。さらに革新型蓄電池の開発により、2030年に向け世界で約2倍(8兆円→19兆円)、車載用は約5倍(2兆円→10兆円)と予測される成長市場の取込みを目指す。

  2030年までの早い時期に、国内の車載用蓄電池の製造能力を100GWhまで高める。また、家庭用、業務・産業用蓄電池の合計で2030年までの累積導入量約24GWhを目指す。
 一方、公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラ15万基を設置し、2030年までにガソリン車並みの利便性を実現。2030年までに1000基程度の水素ステーションを最適配置で整備。

 欧米や中国はBEVを次世代車の本命と位置付けている。日本はBEVの世界市場で何故出遅れたかを反省する必要がある。日本メーカーが先行した燃料電池車では、欧米や中国が長距離バス・トラックなどの商用車向けに力点を置き先行している。
 政府は目標設定だけに終わってはいけない。特に、設置数が3万基で頭打ちとなっている充電インフラに関しては、抜本的な増設対策を施す時期にきている。

⑥半導体・情報通信産業

 デジタル機器・情報通信の省エネ・グリーン化のために、Siに加えてGaNやSiCなどの次世代パワー半導体グリーンデータセンター光エレクトロニクス技術により、データセンターや情報通信インフラの省エネ化を達成し、2030年までに実用化・普及拡大で1.7兆円の市場を獲得する。

⑦船舶産業

 ゼロエミッション船の達成に必要なLNG、水素、アンモニア等のガス燃料船開発に係る技術力を高め、生産基盤を構築するとともに、国際基準の整備を主導し、造船・海運業の国際競争力の強化と海上輸送のカーボンニュートラルを目指す。
 国際海運では、2050年までに水素・アンモニアなどの代替燃料転換を目指す。

図3 ゼロエミッション船 出典:日本船舶技術研究協会

 LNG燃料船の高効率化のため、低速航行風力推進システム等と組み合わせてCO2排出削減率86%を目指し、2021年度中にLNG燃料エンジン及びスペース効率の高い燃料タンク、燃料供給システム等の技術開発を開始し、生産基盤を構築する。

 水素燃料電池船電気推進船は、近距離・小型船向けの普及を目指す。

 水素・アンモニア燃料船は、遠距離・大型船向けの普及を目標に、2021年度中に水素・アンモニア燃料エンジン及び燃料タンク、燃料供給システム等の技術開発、2025年までに実証事業を開始する。従来目標の2028年よりも前倒しでゼロエミッション船の商業運航を目指す。

⑧物流・人材・土木インフラ産業

 従来のエンジン駆動から動力源を抜本的に見直した革新的建設機械(電動、水素、バイオ等)の認定制度を創設し、導入・普及を促進する。 

 また、過疎地域等におけるドローン物流の実用化に向け、制度面の整備、技術開発及び社会実装を推進し、本格的な実用化・商用化を目指す。 特に、社会実装については「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.2.0(2021年6月25日公表)」の普及を促進。

⑨食料・農林水産業

 従来のエンジン駆動から動力源を抜本的に見直し、農林業機械や漁船の電化・水素化等について、2040年までに技術確立を目指す。また、高速加温型ヒートポンプ等の開発を通じて、2050年までに化石燃料を使用しない園芸施設への完全移行を目指す。

 2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書で、藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素が「ブルーカーボン」と命名され、吸収源対策の新しい選択肢と認識された。ブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生態系として、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林があげられる。
 2024年1月、政府は国内のブルーカーボンを約36万トンと算定し、国連に報告する方針を固めた。今後、国内で排出される温室効果ガスから差し引いて、実質排出量を算出する。2021年度に植物が吸収したCO2量は4760万トンで、そのほとんどは森林が吸収源であるが、これに加算される。

⑩航空産業

 1kmの移動に要する乗客一人当たりのCO2排出量が、航空機はバスの約2倍、鉄道の約5倍と多いことから、利用を避ける飛び恥(Flight shame)運動が進行している。このような航空機分野を、政府はCO2排出量削減の重点分野に位置づけている。

 航空機業界では新燃料であるSAFの採用電動航空機、電気も動力源として使うハイブリッド航空機の開発が進められており、欧州エアバスが2035年に実用化を発表した水素燃焼航空機など、脱炭素化が大きなトレンドである。

 電動航空機の開発に向け、蓄電池、モーター、インバータ等、航空機の動力としてのコア技術の確立を進め、2030年以降の段階的な実機搭載を目指す。

 水素航空機の実現に向け、燃料タンクやエンジン燃焼などのコア技術の研究開発と、水素燃料の保管、輸送、利用のための空港の民間設備など、空港周辺インフラの検討を推進。

 持続可能な航空機燃料SAFは、植物由来であるバイオ燃料が高コストのために現状では普及していない。ジェット燃料並の低コスト化を、2030年までの実現を目指す。

図4 エアバスが発表した3種類のゼロエミッション航空機:水素燃料のジェットエンジンと燃料電池のハイブリッド技術を採用

 政府は、航空機・エンジン材料の軽量化や耐熱性向上に資する新材料の導入を推進し、日本企業による電動部品や航空機主要部品の開発を支援する。先端材料のデータベース整備や生産技術も含めた必要な技術開発を進め、国内メーカーの必要な技術レベルへの到達を目指す。
 特に、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の製造サイクル全体としてのCO2排出量削減を目指し、中長期的なリサイクル技術の確立を、自動車や他分野とも連携して推進する。2050年には、CO2排出量を2005年比で半減し、部品納入などでの経済効果を1兆円超と算定している。

⑪カーボンリサイクル・マテリアル産業

 カーボンリサイクルでは、「CO2吸収型コンクリートCO2回収型のセメント製造技術」、「カーボンフリーな合成燃料」、「人工光合成によるプラスチック原料」、「低濃度・低圧排ガスからCO2を分離・回収技術」の開発を目指す。

 低価格かつ高性能なCO2吸収型コンクリートの開発では、公共調達による販路拡大により、2030年に既存コンクリートと同価格(=30円/kg)を目指す。また、防錆性能を持つ新製品を開発・実証し、建築物やコンクリートブロックに用途拡大を図る。
 また、CO2回収型のセメント製造技術では、セメント原料(石灰石)燃焼時のCO2を回収し、回収CO2と廃棄物を原料としたセメントの製造方法を確立する。

 カーボンフリーな合成燃料はCO2と水素を反応させて製造する。2030年年頃の実用化を目標にコスト低減・供給量拡大の大規模実証を進め、2040年までに自立商用化、2050年にはガソリン価格以下を目指す。 革新的技術の開発を、今後10年間に集中する。

図5 三菱重工業CO2回収装置(右)とトラック運搬用タンク(左)

2023年7月、東京ガスと三菱重工業は、横浜市鶴見区のごみ焼却場からCO2を回収し、東京ガスの研究施設でメタンを合成するメタネーション実証実験を開始。200kg/日を集め、一般家庭約260軒が1日に使うメタンを製造。

 人工光合成によるプラスチック原料製造は、高効率の光触媒開発により製造コストを2030年までに約2割削減、保安・安全規制の検討を先行実施し、バイオマス・廃プラスチック由来化学品の製造技術を確立。ナフサ分解炉の高度化も進め、2050年に既製品と同価格とする。

 低濃度・低圧な排ガスからCO2を分離・回収技術は、 2030年に更なる低コスト化と石油増進回収法(EOR)以外の用途拡大を実現し、2050年に年間10兆円と目される世界のCO2分離回収市場の3割のシェア確保を目指す。

 マテリアル産業では、「ゼロカーボン・スチール」、「革新的素材の開発・供給」、「熱源の脱炭素化」の開発を推進する。

 ゼロカーボン・スチールの実現に向け、水素還元製鉄は①鉄鉱石の還元に必要な炉内熱補償技術、②石炭使用量の減少に伴う通気確保技術、③還元鉄の溶解に不可欠な電炉の高度化・不純物除去技術等を確立。2050年で最大約5億トン/年(約40兆円/年)の市場を獲得する。

 革新的素材の開発・供給に関しては、高張力鋼板(ハイテン)を超える革新鋼板(超ハイテン)や、複数素材の組合せに不可欠な接着・接合技術等を開発する。

 熱源の脱炭素化は、高温を必要とする製紙業ガラス・セラミックス産業を対象に、水素やアンモニア等の非化石燃料由来熱源を使う製造設備の技術開発を目指す。

家庭・オフィス関連の成長戦略

 国内のCO2排出量の10%を占める業務・家庭部門の脱炭素化も重要であり、⑫住宅・建築物産業・次世代電力マネージメント産業⑬資源循環関連産業⑭ライフスタイル関連産業がリストアップされている。

住宅・建築物産業・次世代電力マネージメント産業

 住宅・建築物は、民生部門のエネルギー消費量削減に大きく影響する。カーボンニュートラルと経済成長を両立させる高度な技術を国内に普及させる市場環境を創造し、海外への技術展開を目指す。
 今後、住宅・建物についても省エネ基準適合率の向上に向けて更なる規制的措置の導入を検討し、非住宅・中高層建築物の木造化を促進する。

 次世代電力マネージメントは、高度な予測・運用・制御手法の活用・展開により再エネ大量導入系統混雑問題等への効果的な対応を推進する。
 今後、変動性が大きい再エネとEVや蓄電池を組み合わせた、電力需給の最適化サービスを提供する新たなビジネスを促進し、太陽光併設の家庭用蓄電池価格を2030年度で7万円/kWhを目指す。また、長距離直流送電システムの計画的・効率的な整備を目指す。

図6 電力システムの将来像 出典:経済産業省

資源循環関連産業

 「バイオプラスチック導入ロードマップ」を踏まえ、更なる再生利用拡大に向けた、バイオマス素材の高機能化や用途の拡大・低コスト化に向けた技術開発・実証を推進し、リサイクル技術の開発・高度化、設備の整備、需要創出等を目指し、 2030年までにバイオプラスチックを約200万トン導入する。

 リサイクル性の高い高機能素材やリサイクル技術の開発、回収ルート最適化、再生利用の市場拡大を推進し、 廃棄物処理施設からCO2等を回収しやすくするための燃焼制御の技術開発や実証事業によるスケールアップ、コスト低減等を図り、実用化・社会実装を目指す。

 低質ごみからの高効率エネルギー回収の技術開発、焼却施設から利用施設に熱供給を行うための蓄熱や輸送技術の向上・コスト低減を促進し、今後のごみ質の大きな変化に伴うメタン化施設の大規模化を見据え、廃棄物の広域的処理や廃棄物処理施設の集約化を目指す。

ライフスタイル関連産業

 住まい・移動のトータルマネジメント(ZEH・ZEB需要側機器(家電、給湯等)地域の再生可能エネルギー動く蓄電池BEV/FCEV等の組み合わせを実用化)、ナッジやシェアリングを通じた行動変容、CO2削減のクレジット化等を促す技術開発と実証、導入支援、制度構築を推進。

 以上の「2050年カーボンニュートラル」を実現するための政府の実行計画は、政府が有識者会議などを通じて現時点で可能な限り具体化した見通しを示したものである。
 企業の野心的な挑戦を後押しすべく2兆円のグリーンイノベーション基金が造成され、NEDOでは2021年度から10年間の計画で、技術開発から実証・社会実装まで継続して支援する計画。
 2023年時点で、水素の大規模サプライチェーン構築、水素の水電解装置、次世代船舶、次世代航空機、ベロブスカイト型太陽電池、洋上風力など17件の開発プロジェクトが進行中である。

菅政権のグリーン成長戦略

 日本では、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。これを踏まえて経済産業省が中心となり、2021年6月、関係省庁と連携した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定された。
 グリーン成長戦略では、産業政策・エネルギー政策の両面から、成長が期待される14の重要分野について実行計画が策定された。国として高い目標を掲げ、可能な限り具体的な見通しを示したのである。

 2021年3月、「2050年カーボンニュートラル」に向けて、政府は令和2年度第3次補正予算で2兆円の「グリーンイノベーション基金」を、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に立ち上げた。

 グリーン成長戦略で実行計画を策定した14の重点分野のうち、特に政策効果が大きく、社会実装までを見すえて長期間の取組が必要な領域について、NEDOは具体的な目標とその達成を進める企業等を対象に、10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する。
 この「グリーンイノベーション事業の基本方針」は、その後に何度か改定されたが、継続されている。

図7 NEDO「グリーンイノベーション基金事業」で進められている代表的なプロジェクト

 2024年7月時点で、以下の20件のNEDO開発プロジェクトが進められている。
●次世代浮体式洋上風力発電の低コスト化と実証事業
●次世代太陽電池(ペロブスカイト太陽電池)の開発加速
●廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル型炭素循環の開発
●大規模水素サプライチェーンの構築と水素発電技術の実証
●再生エネ等由来の電力を活用したアルカリ水電解による水素製造の大規模実証
●高炉による水素だけで低品位鉄鉱石を還元する直接水素還元技術の開発
アンモニア供給コストの低減と、アンモニア発電おける高混焼率化と専焼化
●CO2等を用いたプラスチック原料の製造技術開発
●持続可能な航空燃料(SAF)、合成メタン燃料、グリーンLPGの製造技術開発
●セメント製造プロセスでのCO2回収技術と、CO2固定量最大化コンクリートの開発
●天然ガス火力発電排ガスと、工場排ガス等からCO2分離回収技術の開発・実証
●次世代蓄電池の開発とリサイクル技術、次世代モーターの開発
●電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発
●EV・FCEVの本格普及時におけるエネルギーマネージメントのシミュレーション技術の開発
●次世代グリーンパワー半導体と、次世代グリーンデータセンター技術開発
●次世代航空機の開発(水素航空機、軽量化の技術開発)
●次世代船舶の開発(水素・アンモニア燃料船、LNG燃料船のメタンスリップ対策)
●食料・農林水産業のCO2等削減・吸収技術(高機能バイオ炭、ブルーカーボン)
●バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進
アンモニア・水素燃焼工業炉の技術確立と、電気炉の高効率化の推進

 ところで、成長が期待される14の重要分野の一つである原子力産業に関する研究・開発」に関しては、その特殊性から従来通りに経済産業省(資源エネルギー庁原子力政策課)から、限られた企業や研究機関へ直接委託され進められている。

 菅政権の示した2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」は、先進諸国とも足並みを揃える意味で高く評価される。経済発展の優先を名目に、安倍政権では避け続けてきた脱炭素問題に正面から取り組むもので、ギリギリのタイミングであったことを忘れてはならない。
 残念ながら菅政権のグリーン成長戦略では、成長が期待される14の重要分野を羅列し、「グリーンイノベーション基金」を確保することで終わった。研究開発が経済発展に至る道筋と、それを支える財源については、岸田政権のグリーントランスフォーメーション(GX)で推進される。

岸田政権のGX 

GX会議とは?

 GX実行会議とは、産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革(GX、グリーントランスフォーメーション)を実現する。内閣総理大臣を議長とし、関係閣僚と各界の社長、会長、理事、相談役など有識者13人+αが名を連ねる。

 2022年7月、「第1回GX実行会議」が開催され、岸田議長は電力・ガスの安定供給に向け、再エネ、蓄電池、省エネの最大限導入のための制度的支援策や原発の再稼働とその先の展開策など、具体的な方策の明確化を関係閣僚に指示した。会議は必要に応じて開催され、2024年5月には第11回実行会議が開催された。

 その間、2023年2月にはGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針が閣議決定され、2023年5月にはカーボンプライシングの導入を含むGX推進法、原子力発電所の運転期間の実質60年超への延長を盛り込んだGX脱炭素電源法のGX関連法が相次いで成立した。 
 また、これらの政策を実行するため「GX推進法」に基づき、2023年7月には「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)が閣議決定された。

GX基本方針の概要

 気候変動問題への対応に加え、ロシアによるウクライナ侵略を受け、エネルギー安定供給の確保と経済成長を同時に実現するため、主に①、②の取組を進める。

①非化石燃料電源への転換の推進
 エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した「省エネ」に加え、「再エネ」「原子力」などのエネルギー自給率向上に資する脱炭素電源への転換など、GXに向けた脱炭素の取組を進める。
②炭素税やCO2排出量取引などの推進
 GXの実現に向け、「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシング」によるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を行う。

 問題点は、「再エネ」の中に石炭火力発電による水素・アンモニア燃料の混焼をまぎれ込ませている点であり、欧州先諸国からは、石炭火力発電の延命措置と非難されている。
 一方、原発再稼働の推進のほか、廃炉跡地への次世代革新炉への建て替え原発の60年運転核燃料サイクルの推進など、福島第一原発事故以後の原子力政策を大きく転換させる方針が示され、GX推進=原子力政策推進の印象を強めた。

GX推進法の制定

 「2050年カーボンニュートラル」の国際公約と産業競争力強化・経済成長を同時実現するため、政府は今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要であるとし、そのうち20兆円は化石燃料賦課金(税金)などでまかなうとした。

 政府として本格的なカーボンプライシング(CO2排出への課金)を行うことが最大のポイントである。実現に向けてGX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)が制定され、次の①~⑤の取り組みが進められる。

①GX推進戦略の策定・実行
 政府は、GXを総合的・計画的に推進するための「GX推進戦略(脱炭素成長型経済構造移行推進戦略)」を策定・実行する。
②GX経済移行債の発行
 政府は、GX推進戦略の実現に向けた先行投資を支援するため、2023年度から10年間、GX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)を発行し、GX推進に関する施策を講じる。
③成長志向型カーボンプライシング(CP)の導入
 炭素排出に価格付けし、GX関連製品・事業の付加価値を向上させて、投資を促進する。
 2028年度から、化石燃料の輸入事業者から排出されるCO2量に応じて化石燃料賦課金(税金)を徴収。2033年度から、発電事業者に一部有償でCO2排出枠(量)を割り当て、量に応じた特定事業者負担金を徴収する。これらの「炭素税」は、GX経済移行債の償還財源とする。
④GX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)の設立
 経済産業大臣の認可によりGX推進機構を設立し、企業へのGX投資支援(金融支援、債務保証等)、化石燃料賦課金・特定事業者負担金の徴収のほか、排出量取引制度(特定事業者排出枠の割当て・入札等)等の運営を行う。
⑤進捗評価と必要な見直し
 GX投資等の実施状況やCO2排出に係る国内外の経済動向等を踏まえ、施策のあり方について検討を加え、その結果に基づいてGX推進戦略を含めて適宜に見直すとした。
 化石燃料賦課金排出量取引制度に関する制度設計は、排出枠取引制度の本格的な稼働のための具体的な方策を含めて検討し、この法律の施行後2年以内に、必要な法制上の措置を行う。

 問題点は、産業界の意向を反映したのか?CP導入時期の2028年が遅いことである。1990年にフィンランドで炭素税が導入されたのを皮切りに、世界銀行報告書『世界のカーボンプライシングの実施状況』によると、2021年4月時点で64の国・地域でカーボンプライシングが導入されている。
 また、経済産業省の認可法人「GX推進機構」に巨額の官民資金を集める構想である。金権体質の政権においては、その運営方針・施策の透明性を担保する必要があり、必ず問題が起きる。

GX脱炭素電源法

 安定的かつ持続可能なエネルギー供給体系を構築するため、GX脱炭素電源法(脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律)を制定し、再生可能エネルギーの導入拡大支援と、既存の原子力発電の有効活用や廃炉について規定する。

 具体的には、関連する次の5法律を改正する。
 〇電気事業法
 〇再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)
 〇原子力基本法
 〇核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)
 〇原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)

地域と共生した再エネの最大限の導入促進
①系統整備のための環境整備(電気事業法・再エネ特措法
 重要な送電線の整備計画を経済産業大臣が認定し、工事着手段階から再エネ賦課金を交付して利用を促進する。また、事業者が電力広域的運営推進機関から貸付けを受けることも可能とする。
②既存再エネの最大限活用のための追加投資促進(再エネ特措法)
 太陽光発電に係る追加投資(更新・増設)を促すため、地域共生や円滑な廃棄を前提に、追加投資部分に既設部分と区別した新たな買取価格を適用する。
③地域と共生した再エネ導入のための事業規律強化(再エネ特措法)
 関係法令等の違反事業者に交付金(支援額)の積立てを命じ、違反が解消されない場合は支援額の返還命令を行う。また、再エネ発電事業計画の認定要件に事業内容を周辺地域に事前周知することを追加し、委託先事業者に対する監督義務を課すなど事業規律を強化する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
安全確保を大前提とした原子力の活用・廃炉の推進
①原子力発電の利用に係る原則の明確化(原子力基本法)
 安全を最優先とする原子力利用の基本原則や、バックエンドのプロセス加速化、自主的安全性向上等の国・事業者の責務を明確化する。
②高経年化した原子炉に対する規制の厳格化(炉規法)
 原子力事業者に対して運転開始から30年超運転する場合、10年以内毎に設備劣化の技術的な評価を行い、劣化管理計画を定め、原子力規制委員会の認可を受けることを義務付ける。
③原子力発電の運転期間に関する規律の整備(電気事業法)
 原子力発電の運転期間は40年とした上で、安定供給確保、GXへの貢献などの観点から経済産業大臣の認可を受けた場合に限り、運転期間の延長を認める
 その際、「運転期間は最長で60年に制限する」という現行の枠組みは維持した上で、原子力事業者が予見し難い事由による停止期間に限り、60年の運転期間の積算から除外する。
④円滑かつ着実な廃炉の推進(再処理法
 今後の廃炉の本格化に対応するため、使用済燃料再処理機構の業務に、全国の廃炉の総合的調整などの業務を追加し、同機構の名称を「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」とする。また、原子力事業者に対して、同機構に廃炉拠出金を納付することを義務付ける。

 問題は、再エネの最大限導入を表記したものの、現在問題となっている出力制御を防ぐための電力貯蔵システムなどの対策が貧弱であり、再生エネ導入に関する本気度が感じられない点にある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 問題は、原発の安全性の担保にある。現時点で60年超の運転実績を有する原発はなく、科学的に安全性を証明することはできない。火山国の日本は地震・津波はもちろん、毎年のごとく台風などの風水害を受けるため、世界一厳しい原発規制が必要である。
 経年劣化とは、原発が稼働していなくても進行するから経年劣化なのである。原発の停止期間分を運転期間に加算して運転できるとすることに科学的な根拠はない。 

  2023年8月、原子力規制委員会は、GX脱炭素電源法を受けて新たな炉規法に関する規則の改正を実施した。電力会社は30年を超える原発を運転する際、施設の劣化を管理する「長期施設管理計画」を提出して認可を得る必要がある。その後、規制委による最長10年ごとの設備の劣化状況の審査と認可を受ける。
 また、運転開始から60年超の原発の審査には、容器やコンクリートの劣化状況を詳しく調べる40年時点の点検と同レベルの追加点検を義務付けられた。 

GX推進戦略

 政府は、「GX実現に向けた基本方針」の閣議決定、及び「GX推進法」、「GX脱炭素電源法」の成立により、「成長志向型カーボンプライシング構想」等の新たな政策を具体化したとし、これらの政策を実行するため「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)を定め、2023年7月に閣議決定が行われた。
 その内容は、GX基本方針である次の①、②の取り組みを進めることである。

①非化石燃料電源への転換の推進
 エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した省エネに加え、再エネ原子力などのエネルギー自給率の向上に資する脱炭素電源への転換などGXに向けた脱炭素の取り組みを進める。
②炭素税やCO2排出量取引の実現
 GXの実現に向け、「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を行う。

 問題は、非化石燃料電源への転換で、一般の国民が出来ることは徹底した省エネくらいである。政府は再エネ拡大は新電力に期待したが伸び悩み、原子力は大手電力会社が安全対策のために再稼働が遅れた。政府が、火力発電の抑制を明示しなければ転換は実現しない。
 ところで、景気減速の観点から産業界は炭素税導入に反対を表明してきたが、GX推進法が制定されたことは大きな一歩である。しかし、安価で安定した電力供給には原子力が必須とする産業界の意向を汲む原子力活用推進の法制化は、拙速過ぎると多くの国民は感じている。

動き出したGX

 多くの問題を抱えながらも法制化は進められており、「グリーントランスフォーメーション」は動き出した。

 2024年2月、財務省は、「第1回クライメート・トランジション(移行)利付国債(GX経済移行債)」の入札を実施した。額面約8000億円で、償還期間10年である。調達した資金は、「2050カーボンニュートラル」を実現する技術の研究開発への投資など、GX推進の活動に使われる。

 2024年2月、政府は、エネルギー源として水素などの普及を目指す「水素社会推進法案」と、火力発電所や航路などから排出されるCO2を回収して地下に貯留する「CCS事業法案」閣議決定した。化石燃料の使用量が多い電力や鉄鋼など、脱炭素化が難しい業界の取り組みを後押しする。

 2024年5月、「水素社会推進法(低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律)」が国会で成立した。再エネなどを活用して製造した水素、アンモニア、合成メタン、その他の合成燃料量の自律的なサプライチェーン構築に向けて、認定した事業者に対して「価格差に注目した支援」と「拠点整備支援」を行う。

 2024年5月、「CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)」が国会で成立した。2030年までに民間事業者がCCS事業を開始するにあたり貯留事業等の許可制度等を整備する。許可を受けた事業者には試掘権と採掘権を設定し、CO2の漏えいを確認するため、貯留層の温度・圧力等のモニタリング義務を課す。

 2024年5月、政府は、2040年に向けた脱炭素化や産業政策の方向性を盛り込んだ新たな国家戦略を年度内に策定する方針を固めた。「GX2040ビジョン」として長期的な産業政策を打ち出すことで関連投資を促し、国内産業の競争力強化を図る。
 「第7次エネルギー基本計画」の議論と合わせ、データセンターなど大量の電気を使う設備に対応した脱炭素電源の拠点化を踏まえた送電線整備、再生エネ発電所が多い地域や水素・アンモニアの輸入基地に合わせた産業集積の方向性、脱炭素電源を使った半導体産業の集積などを議論するとしている。

 2024年7月、GX戦略の中核機関となる「GX推進機構」が、東京都内で業務を開始した。GX推進法に基づく認可法人で5月に設立され、企業が脱炭素の技術開発や設備投資に必要な資金を調達するために、金融機関からの融資を債務保証(上限1兆円)する業務や、スタートアップへの出資などを行う。
 将来的には、2026年度に本格的に始める「排出量取引制度」の運営や、2028年度に導入する化石燃料の輸入事業者への賦課金徴収なども手がける。職員数は現在の約40人から100人体制に拡充する。

 2024年8月、政府は、製造過程で排出されるCO2を減らした「グリーン製品」の調達を製造業者らに義務づける方針を固めた。2025年から段階的に始めるため、有識者会議「GX2040リーダーズパネル」で関係省庁に制度設計を指示した。 グリーンスチールや、グリーンケミカルなどを義務化の対象とする。
 具体的な製品や調達量は今後検討が進められるが、自動車や住宅メーカー、造船会社など大企業を念頭に置き、脱炭素投資の補助金を申請する企業に対し、一定量のグリーン製品調達を補助金支給の条件とし、調達実績の開示も求める。調達義務化の裏付けとなる法制化も進める方向だ。  

 グリーントランスフォーメーションの最大の課題は、非化石燃料電源への転換に要する膨大な投資費用であり、政府は今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要としている。
 CO2排出量の最も多いエネルギー転換部門に対しては、2020年3月、「エネルギー供給構造高度化法」で中間目標値が設定された。年間販売電力量が5億kWh以上の電気事業者に対し、「2030年度に非化石電源比率を44%以上」という目標が定められた。
 今後、産業部門、運輸部門にも類似の目標が設定されるであろう。

 

タイトルとURLをコピーしました