次世代バイオ燃料の動向

自動車

 ユーグレナが製造・販売するバイオ燃料『サステオ(SUSTEO)』には、2020年3月に完成した軽油の代替となる「次世代バイオディーゼル燃料」と、2021年3月に完成したジェット燃料の代替となる「バイオジェット燃料(SAF)」がある。
 現在、自動車、航空機、船舶、鉄道などでの実証試験が進められているが、継続して使用するためには低コスト化が大きな課題である。脱炭素化をリードするために、日本が持つ数少ないキー技術の一つであり、将来に向けて公的支援などによる育成が不可欠である。

バイオ燃料「サステオ」

 2010年、ユーグレナはバイオ燃料の共同研究を開始し、2018年には神奈川県横浜市に日本初のバイオ燃料製造実証プラントを竣工した。第3世代と呼ばれる微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)等の微細藻類を原料としたバイオ燃料の製造を開始した。

図1 ユーグレナのバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント

 2020年3月、いすゞ自動車とユーグレナは、軽油を100%代替可能な次世代バイオディーゼル燃料が完成したと発表し、同年4月より、いすゞ自動車の藤沢工場のシャトルバスで使用を開始した。
 いすゞ自動車とユーグレナは、含有率100%でもエンジンに負担をかけずに使用できる次世代バイオディーゼル燃料の実用化に向け、2014年に共同研究契約を締結して約6年の時を経て完成させた。

 2021年3月、ユーグレナは、米国Chevron Lummus Global, LLC、Applied Research Associates, Inc.が共同開発したバイオ燃料アイソコンバージョンプロセス技術を採用し、ASTM D7566 Annex6規格に適合した微細藻類ユーグレナ等由来のバイオジェット燃料が完成したことを発表した。
 現在、バイオジェット燃料は従来燃料に混ぜて使用する規程のため、サステオ混合比率は10%程度であるが、同社の製造方法では国際規格で最大50%まで混合が認められている。 

図2 次世代バイオディーゼル燃料、バイオジェット燃料(SAF)の開発経緯

 2021年6月、ユーグレナのバイオ燃料が『サステオ(SUSTEO)』と名付けられた。ユーグレナが製造・販売するバイオ燃料サステオには、軽油の代替となる「次世代バイオディーゼル燃料」、ジェット燃料の代替となる「バイオジェット燃料(SAF)」等がある。
 バイオジェット燃料サステオは、原料に微細藻類ユーグレナ由来の油脂と使用済み食用油等を使用している。今後、これら以外にCO2排出量の削減と持続可能性が期待されるものがあれば、バイオ燃料製造時の原料として検討を進める。

 ユーグレナは、バイオ燃料の商業プラント建設を2025年の完成を目指して進めている。2026年には本格稼働させて25万kL/年の生産を計画している。 

進むバイオ燃料の実証試験

自動車

 2023年1月、千葉県幕張メッセで開催された「東京オートサロン2023」で、マツダはバイオディーゼル燃料「サステオ」を使用し2023年シーズンのスーパー耐久シリーズST-Qクラスに参戦する新開発のレーシングカー「マツダスピリットレーシング・マツダ3バイオコンセプト」を公表した。
 マツダはレースの実戦を先行開発の実験の場とし、将来の市販車での対応を目指して2021年のスーパー耐久シリーズ最終戦から、「マツダスピリットレーシング・バイオコンセプトデミオ(マツダ2バイオコンセプト)」に、サステオを使用して参戦している。

図3 新開発のレーシングカー「マツダスピリットレーシング・マツダ3バイオコンセプト」

 一方、2023年1月には、三井物産が純度100%のバイオディーゼル燃料(B100)を不具合なく使うための海外製機器の販売を発表した。バイオディーゼル燃料は、従来エンジンでは内部に不純物の詰まりや腐食が生じる不具合が起きやすく、そのための対策機器である。
 対策機器は既存トラックへの後付けが可能で、エンジン内の不純物などを除去して不具合を起きにくくする。総合物流の山九のトラックに機器を設置し、デンソーの三重県内での部品輸送で活用して効果を検証し、安全性や燃費性能など機器販売に必要なデータをそろえる。 

 三井物産は走行試験を経て2023年後半にも物流会社などを対象に、バイオディーゼル燃料(B100)と対策機器の販売を開始する。機器はトラック1台当たり数百万円、B100は200円台/Lで販売する見通しである。EVトラックの導入に比べて、初期投資を半分以下に抑えられるとしている。

航空機

 2021年6月、国土交通省航空局が保有・運用する飛行検査機「サイテーションCJ4」で、サステオを使用し、羽田空港から鳥取空港を経由し、中部国際空港に着陸する約2時間半の飛行を実施した。

 また、同年6月、Japan Biz Aviationが運航管理するプライベートジェット機「HondaJet Elite(ホンダジェット エリート)」でサステオを使用し、鹿児島空港から羽田空港へ約90分間の飛行を実施した。

 2022年3月、定期旅客運航のフジドリームエアラインズのジェット旅客機(エンブラエルERJ175)に鈴与商事がサステオを給油し、富士山静岡空港と県営名古屋空港間のチャーター運航を実施した。

 また、同年3月、アジア航測が保有・運航する低翼ターボプロップ双発機(テキストロン・アビエーション式C90GTi型)にサステオを給油し、大阪・八尾空港を発着地として小豆島上空を約60分間の周回飛行を実施した。

 2022年6月、ユーグレナ、中日本航空、エアバス・ヘリコプターズ・ジャパンは、中日本航空が保有するヘリコプターH215(エアバス社製AS332 L1型)にサステオを給油し、名古屋空港より約30分の飛行を実施した。

 また、同年6月に国土交通省が保有する飛行検査機にサステオを使用し、初フライトが行われた。羽田空港から鳥取空港を経由し、中部国際空港に着陸する約2時間半の飛行である。

 2023年1月、防衛省が運航する政府専用機2機(ボーイング777-300ER)にサステオ(SAF)が給油され、岸田首相の欧州および北米訪問に運航された。政府専用機にSAFが使用されるのは、2022年11月のフライトに続き2度目である。

図4 政府専用機にレフューラーからサステオを給油

船舶

 2022年2月、商船三井テクノトレードが保有・運航する燃料供給船「テクノスター」は、油藤商事より供給されたバイオディーゼル燃料を用いて運航した。日本海事協会(Class NK)により燃焼時に排出される窒素酸化物(NOx)が、MARPOL条約等での排出規制を満たすことが認証された。
 回収した廃食油をメタノールによってエステル交換して生成される脂肪酸メチルエステルを燃料とし、A重油との混合比率を3割以上に高めて使用した。

 2022年3月、日本郵船は大型ばら積み船「FRIENDSHIP」で、4回目のバイオ燃料を使用した試験航行を実施した。トタル・エナジーズ マリンフュエルズの協力で、2022年1月にシンガポール港の港湾水域でバイオ燃料を補油し、積地の南アフリカ・サルダナベイからシンガポール港に戻るまで運航した。

 2022年4月、豊通エネルギーは三洋海事が運航するタグボート向けに、名古屋港でShip to Ship方式による舶用バイオディーゼル燃料の供給トライアルを実施した。今回、供給したバイオ燃料は、豊田通商がダイセキ環境ソリューションと連携し、回収した廃食油を原料にしたものである。

 2022年8~9月、トヨフジ海運は自動車運搬船「とよふじ丸」で、低硫黄C重油とバイオディーゼル燃料の混合燃料を使用して 28 日間の試験運航を実施した。燃料供給は豊通エネルギーからShip to Ship 方式により受けた。

 2022年9月、東京都、ユーグレナ、屋形船東京都協同組合が、船宿三浦屋の運航する定員50~100人程度の3隻を使い、軽油の代わりにサステオを使う実証試験をおこなった。運航ルートは、浅草橋近くの船着き場から隅田川を通り、お台場周辺までを周遊する2時間半のコースである。

 また、同年9月、川崎近海汽船、ユーグレナ、鈴与商事は、静岡県清水港でRORO船「豊王丸」にサステオを使用し実証試験航海を開始した。今回は、「豊王丸」の寄港地である大分港および清水港での岸壁停泊中にサステオのみを代替使用して、通常業務に支障がないことを検証する。
 給油を担当した鈴与商事は、2021年7月から同社の宅配水配送車両でサステオの使用を開始しており、2022年3月には鈴与グループで航空事業を営むフジドリームエアラインズの航空機へサステオの給油を実施している。

図5 静岡県清水港でRORO船「豊王丸」でサステオを使用して実証試験航海を開始

鉄道 

 2021年10月、JR貨物は越谷貨物ターミナル駅で構内移送用トラックの燃料としてバイオディーゼル燃料の使用開始を発表した。ユーグレナのサステオを使う計画で、2388L/年を調達する計画である。今後、フォークリフトや機関車、他の貨物駅への導入を検討するとしている。

 2022年2月、JR東海はHC85系試験走行車を使用し、名古屋車両区構内でのバイオディーゼル燃料の実用性検証試験を開始した。4両編成のHC85系の1両に、バイオディーゼル燃料20%+軽油80%の混合比で給油する。使用する燃料の原料は、使用済み食用油である。
 JR東海の管内では、高山本線や紀勢本線など非電化区間が存在し、ディーゼル車両による運行が行われている。2020年度に自社で排出したCO2排出量は122万トンに及び、約5%にあたる7万トンがディーゼル車両関連の燃料に由来する。

 2023年1月、JR西日本は主にローカル線を走る全ディーゼル車両でバイオ燃料の導入の方針を掲げる。JR西日本では全車両の7%をディーゼル車両が占め、2021年度は2.1万kL/年の軽油を使用した。2023年度には、山陰線の下関駅と長門市駅の区間でバイオ燃料による燃費や走行性能を検証する。
 ユーグレナや大手商社などからバイオ燃料を調達し、2025年度以降はバイオ燃料の調達量に合わせて転換を進め、2030年頃に全ディーゼル車両へ導入する。現在のバイオ燃料価格は軽油の数倍で、ローカル線の採算が悪化する中、高いコストをどう負担するかが課題である。

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