重機の未来予測
ゼロエミッション重機・建機・農機などの実現に向け、現行蓄電池性能の観点から、ディーゼル・エレクトリック方式の電気式重機は、ハイブリッド式重機を経て、小型重機は蓄電池式重機に向かい、中大型機は燃料電池式重機あるいは水素エンジン式重機の実現を目指している。
国内では、現時点で建機を始めとする重機分野では、軽油燃料のディーゼル・エンジン駆動が主流であり、電動化市場は世界的にも立ち上がってはいない。しかし、環境規制の厳しい欧州を始め、世界の潮流は2050年カーボンニュートラルに向かっており、各重機メーカーは脱炭素化を進めている。
現在、重機などに供給されるエネルギー源は、一次エネルギーから二次エネルギーへと移行する過渡期にある。電動重機を購入できない、あるいは購入しない国々や人々については、CO2ゼロを実現するためにバイオ燃料、合成燃料(e-fuel)、水素の供給が重要である。
すなわち、再生可能エネルギーで発電した電力を使って製造したグリーン水素、あるいはバイオマスを原料としたバイオ燃料や、カーボンリサイクルにより製造された合成燃料(e-fuel)である。ただし、ガソリンや軽油並みの低コスト化と、十分な供給量の確保が必要である。
ところで、CO2削減の本命は電動式重機や水素エンジン重機といわれているが、価格がディーゼルエンジン機の3~4倍以上と高く、燃料供給にも課題がある。
そのため、建機を中心にバイオ燃料を利用する動きが拡大している。バイオディーゼル燃料は軽油より高価であるが、ドロップイン型燃料ではエンジン改造の必要はなく、また燃料充填に際して特別な設備を必要としない点が注目されている。
電動化トレンド
重機・建機・農機などを取り巻く状況は、鉄道分野におけるディーゼル・エンジン気動車と類似しており、先行する自動車分野の動向を垣間見ながら一歩遅れて次世代機の開発が進められている。
2008年6月、小松製作所は市販車として世界初のハイブリッド式油圧ショベル「PC200-8」を、日本・欧州を中心に発売した。電気式重機に蓄電池を追加したハイブリッド式重機の実用化である。しかし、ハイブリッド式重機は、完全電動化が普及するまでのつなぎと位置付けられた。
日立建機は電動化の開発・製造に早い時期から取り組み、2000年代に蓄電池駆動式ショベルを市場導入し、中小型の有線式電動ショベルは、日本市場で累積100台以上の納入実績を有している。
2020年代に入ると本格的に電動化開発が進み、10トン以下の小型重機は蓄電池式の実用化が進められた。ディーゼル・エンジン方式の電気式重機と同等の掘削能力と耐久性を備えるが、静粛で排ガスを発生せず、オイル交換などエンジン関連の保守が不要などの利点が示された。
さらに、2030年以降には、20トン以上の中大型重機は燃料電池式が主流になると予想して開発が進められた。2021年にはNEDO支援などを受けて、FCショベル、FCトラクター、FCトラック、FCクレーンなどの開発構想が、重機メーカー各社により発表された。
同時期に、一部の重機メーカーでは、水素エンジン式の重機開発を並行して実施している。
バイオ燃料
2023年前後、建設機械にバイオ燃料を利用する動きが急拡大し、中大型重機ではバイオ燃料方式が注目を集めている。CO2削減の本命は電動式や水素エンジン式であるが、装置価格がディーゼル・エレクトリック方式の電気式重機の3~4倍以上と高く、燃料供給インフラにも課題がある。
使用するバイオディーゼル燃料は軽油より高価であるが、エンジン改造の必要はなく、また燃料充填に際して特別な設備を必要としない。そのため、ユーザーには初期投資を抑えられる利点がある。
建設機械メーカーはバイオディーゼル燃料の利用を想定しておらず、機械保証の範囲外となるため、複数の企業・機関が実証実験を行い、エンジンに与える影響を検証して普及促進が行われた。
その結果、2023年に小松製作所は欧州地域の工場で生産される建設・鉱山機械の出荷時の充填燃料をバイオディーゼル燃料(HVO)に順次切り替えると発表した。
また、住友重機械建機クレーンは、350トン吊クローラクレーン「SCX3500-3」が東急建設が施工する川崎市内の工事で、伊藤忠エネクスのリニューアブルディーゼル(RD)を使用したと発表。
電動重機の普及の可否は低コスト化にある。蓄電池式重機の普及にはリチウムイオン電池の高性能化と低コスト化が鍵であり、自動車用蓄電池の開発動向を見極めながら進められている。
また、中大型重機を対象に、2030年以降の実用化を目指す燃料電池式重機、水素エンジン式重機の普及は、低コストで豊富なグリーン水素の供給が前提条件である。
この前提条件が崩れると、”つなぎ”の役割りであるドロップイン型バイオ燃料式重機が、中大型重機の脱炭素の本命となる。バイオ燃料の低コスト化と供給量の確保が課題である。
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