電力ひっ迫と原発の再稼働について(Ⅰ)

原子力

政府による突然の原発再稼働方針

岸田政権が今夏の電力需要ひっ迫を契機として、突然に原発稼働の方針を打ち出した。その後には、従来の原発政策を一転させ原発の再稼働の加速、新増設や建て替え、次世代革新炉の開発の検討を表明した。本当に、原発の再稼働が最近の電力ひっ迫対策として有効なのかを順を追って探ってみる。

岸田首相による最大9基の原発稼働の発言

 2022年7月14日、電力需要ひっ迫に備え、岸田首相は記者会見で「私から経済産業相(萩生田)に対しできる限り多くの原発、この冬でいえば最大9基の稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保するように指示した」と述べた。 

「政府関係者によると、再稼働を見込むのは、定期検査などで停止している関西電力の美浜原発3号機と大飯原発4号機、高浜原発3、4号機(以上、福井県)、九州電力玄海原発3号機(佐賀県)の5基。現在稼働中の関西電力大飯原発3号機(福井県)、四国電力伊方原発3号機(愛媛県)、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)の4基の利用も想定している。」

https://www.tokyo-np.co.jp/article/189630

 この時点では、既に再稼働済みの原発10基のうち、定期点検などで停止している原発5基と現在稼働中の4基を合わせた9基とのことで、原発の再稼働を加速する発言ではなかった。

来夏以降に向けた原発の更なる再稼働

 2022年8月12日、第2次岸田内閣の経済産業相(西村)が、今冬に向け「原発の最大9基の稼働を確保できるよう着実に取り組みたい」、来夏以降に向け「原発の更なる再稼働が重要だ」との認識を示し、再稼働の地元同意には「国も前面に立って理解、協力を得られるよう粘り強く取り組む」と発言した。

 小型モジュール炉(SMR)などの次世代の原子力発電所のあり方についても言及し、「研究開発、人材育成、原子力サプライチェーンの維持強化など将来を見据えた取り組みもしっかり進めたい」と述べた。一方で、新増設は「想定していない」と従来の政府方針を引き継いだ

原発10基に加え、来夏以降に追加で7基の再稼働

 2022年8月24日、化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革、すなわちGX(グリーントランスフォーメーション)を実行するために施策検討の第2回GX実行会議(議長:岸田首相、GX実行推進担当大臣:西村経済産業相)が開催された。

 会議は、西村GX実行推進担当大臣より「日本のエネルギーの安定供給の再構築」について原子力政策の今後の進め方などについて説明が行われた後、これについて有知識者から意見が出され、最後に報道関係者を入れて岸田首相が発言することにより締めくくられた。

図1 GX会議で示された原子力政策の今後の進め方
出典:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai2/siryou1.pdf

 報道によれば岸田文雄首相は第2回GX会議で「これまでに再稼働した原発10基に加え、来夏以降に追加で7基の再稼働を進める方針」を表明し、「国が前面に立ってあらゆる対応をとっていく」と強調したと報じられた。 

別の詳細な報道によると「政府が再稼働を目指す方針の7基は、東北電力女川原発2号機(宮城県)、東京電力柏崎刈羽原発6号機、7号機(新潟県)、日本原子力発電東海第二原発(茨城県)、関西電力高浜原発1号機、2号機(福井県)、島根県にある中国電力島根原発2号機(島根県)で、いずれも、規制委員会の審査に合格している。このうち、高浜原発2基はテロ対策に必要な施設の完成後に1号機が来年6月、2号機が来年7月に再稼働を計画している。また、安全対策工事を終える必要がある島根原発2号機の再稼働は今年度中の工事完了後、女川原発2号機の再稼働は再来年2月を計画している。
 一方で、柏崎刈羽原発は昨年、テロ対策上の重大な不備が相次いで発覚し、原子力規制委員会による検査が現在も継続している。東海第二原発は、安全対策工事を再来年9月に終える予定であるが周辺自治体の避難計画の策定が終わっておらず、再稼働の時期が見通せない状況である。いずれも地元から再稼働の同意は得られていない。」

https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20220824/1000084024.html

 また、岸田首相は従来の方針を一転し、原発の新増設や建て替え次世代革新炉の開発についても年末までに具体的な結論を出せるよう、検討の加速を指示した。加えて、原則40年、最長60年としてきた原発の運転期間の延長も検討し、活用を推進する方針であると報じられた。

第2回GX実行会議における岸田内閣総理大臣の原子力政策関連の発言 
 電力需給逼迫という足元の危機克服のため、今年の冬のみならず今後数年間を見据えてあらゆる施策を総動員し不測の事態にも備えて万全を期していきます。特に、原子力発電所については、再稼働済み10基の稼働確保に加え、設置許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を採ってまいります。
 GXを進める上でも、エネルギー政策の遅滞の解消は急務です。本日、再エネの導入拡大に向けて、思い切った系統整備の加速、定置用蓄電池の導入加速や洋上風力等電源の推進など、政治の決断が必要な項目が示されました。併せて、原子力についても、再稼働に向けた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転期間の延長など、既設原発の最大限の活用、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など、今後の政治判断を必要とする項目が示されました。
 これらの中には、実現に時間を要するものも含まれますが、再エネや原子力はGXを進める上で不可欠な脱炭素エネルギーです。これらを将来にわたる選択肢として強化するための制度的な枠組、国民理解を更に深めるための関係者の尽力の在り方など、あらゆる方策について、年末に具体的な結論を出せるよう、与党や専門家の意見も踏まえ、検討を加速してください。

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