電力ひっ迫と原発の再稼働について(Ⅴ)

原子力

電力安定供給に向けた目先の対策は?

 電力需要のひっ迫は、年間を通して数日、あるいは一日を通して数時間の単位で起きる問題である。このピーク需要に合わせて全発電設備を整えると、年間あるいは一日を通して休止する発電設備が増えすぎるため、経済的には得策ではない。

 そのため図4で示すように、電力需要の変化は主に火力発電の出力変動で対応してきた。加えて、出力変動の苦手な原子力発電や大型石炭火力発電については一定出力で運転し、需要の少ない夜間に揚水発電を使って蓄電を行い、昼間のピーク需要対策が行われてきた。

 しかし、再生可能エネルギーの急増により現有の電力貯蔵システムである揚水発電では十分に処理できず、その出力変動調整用にも火力発電が対応しているのが現状である。

図4 一日の電力需要の変化に対応した電源の組合せの従来例

 このような現状から、電力ひっ迫に対する目先の対策としては、電力需要者側が保有するエネルギーリソースを使い電力会社の供給状況に応じて、節電(図5の下げDR)などの電力調整を行うことで対価を得るデマンド・レスポンス(DR:Demand Response)の仕組みが有効である。

図5 デマンド・レスポンスの種類

 東京電力管内ではエネルックス・ジャパンエナジープールジャパンなどが展開しているDR事業を加速・拡大する。電力ひっ迫時に節電要請を出すが、対価を準備することでより確実に電力調整を行うことが可能である。新たな発電設備導入の必要がないため、短期間での対策が可能である。

 また、2020年7月、経済産業省が国内石炭火力発電所の140基を対象に、非効率発電所のうち100基程度を2030年までに段階的に休廃止する考えを示した。これを各電力会社に任せず、再生可能エネルギーの拡大状況とリンクして、政府が火力発電の休廃止を制御することも重要な対策である。

電力安定供給に向けた将来構想は?

 デマンド・レスポンス(DR)はピーク需要対策として大変有効である。さらに、その延長上には仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)の概念があり、比較的短期間での対策が可能である。

 このバーチャルパワープラント(VPP)とは、需要家側が保有するエネルギーリソース、太陽光発電などの発電設備、電気自動車などの小型蓄電設備を統合して制御することで、発電所と同等の機能を提供するシステムである。2016年頃から、国内電力会社を始め多くの企業が実証試験を進めている。

 脱炭素社会を実現するためには、電力供給の主体は再生可能エネルギーとなることは衆目の一致するところである。中でも、出力変動が顕著である太陽光発電や風力発電は、変動性再生可能エネルギー(VRE:Variable Renewable Energy)と呼ばれ、大規模電力貯蔵システムが不可欠である。

 しかし、VRE以外に地熱発電、海洋発電、バイオマス発電など安定供給が可能な電源は多い。太陽光発電に比べて導入に時間を要するが、長期戦略として日本が高い技術レベルを有する「地熱発電」や、海に囲まれた日本では未開拓の「海洋発電への投資を増強するなど強力に推進する必要がある。

 また、脱石炭火力を加速するためには、代替として当面は原子力発電を外すことは難しいであろう。原子力発電には安全対策が不可欠であることはいうまでもないが、廃炉や放射性廃棄物処理・処分など遅々として進まないバックエンド問題への対処を強力に推進することが不可欠である。

 化石燃料を燃やす火力発電は、排出されるCO2の回収・有効利用・貯留(CCUS: Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)が不可欠との認識がある。一方で、バイオ燃料や水素燃料を燃やす火力発電の実証試験が進められている。今後、経済性評価により主となる方向を見極める必要がある。

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