電力ひっ迫と原発の再稼働について(Ⅳ)

原子力

原発は、電力需要ひっ迫対策となるのか?

 答えは「NO」である。

 原発は出力変動が苦であり、ピーク需要対策に直接使うことはできない。すなわち、原発の再稼働を進めても、ベースロードとして一定出力の運転が増加することになる。そのため、原発が増えた分だけ、効率の悪い老朽火力の休廃止を加速することが可能になるという大きなメリットはある。

 しかし、実際には原発が増えた分だけ、火力発電は削減されていない。これは再生可能エネルギーが急増しており、その出力変動分を火力発電で調整しているためである。さらなる再生可能エネルギーの増強、老朽火力の休廃止を進めるためには、大規模電力貯蔵システムの設置を加速する必要がある。

 内閣官房では、化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革を実行するためGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を開催している。電力需要ひっ迫対策として、是非とも大規模電力貯蔵システムの加速を議論して頂きたい。

電力需要ひっ迫対策は「電力貯蔵」と「送電網の整備」

 最近の電力需要ひっ迫の原因が原発の再稼働の遅れではないことから、再稼働を加速しても直接の問題解決には至らない。一方、現状のまま太陽光発電と風力発電を増加させると、出力変動調整用の火力発電の必要性がますます高まり、老朽火力の休廃止を進めれば再び電力需要のひっ迫を生じる。

 出力変動の激しい太陽光発電や風力発電を導入・拡大を目指すためには、電力貯蔵システムあるいは電力会社間での需給調整のために送電網の整備を並行して進める必要がある。

第6次エネルギー基本計画では電力システム改革において、「再エネ導入拡大に向けて電力システムの柔軟性を高め、調整力の脱炭素化を進めるため、蓄電池、水電解装置などのコスト低減などを通じた実用化、系統用蓄電池の電気事業法への位置付けの明確化や市場の整備などに取り組む」としている。・・・・・・残念ながら、この施策が大幅に遅れている。

https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-2.pdf

十年一昔、時間と共に安全意識は低下する

 原子力規制委員会は、福島第一原発事故の教訓を踏まえ、原発を推進する経済産業省から規制部門を切り離し独立性を高めるべく環境省の外局として発足。しかし、行政組織であることは間違いない。内閣府の意向「早期の再稼働」が伝われば、世界で最も厳しい新規制基準に変異が生じないだろうか?

 読売新聞の社説(2022年8月27日)で「(原子力規制委員会は)厳格な審査を進めようとするあまり、社会から孤立した硬直な組織になっていないか。経済界や電力業界とコミュニケーションを図り、合理的、効率的な審査を目指してもらいたい」との評が掲載された。多くのマスコミの意見である。

 「早期の再稼働」というプレッシャーを原子力規制委員会に与え続けることで、委員会の中で従来の許容度に微妙な変化が生じる。徐々に新規制基準違反の正当化が始まる可能性は無いだろうか?これが新基準となり、安全が最優先であったはずが、スケジュール最優先へとすり替わらないだろうか?

 これまでも多くの大企業や組織の不正に関して、同様な問題が起きてきた。「三菱自動車のリコール隠し事件」「東芝不適切会計問題事件」「神戸製鋼データ改ざん事件」など、最初は微小であった不正が徐々に大きくなり組織内で常態化していく。空気を読み忖度が得意な国民性が、これを助長する。

 原子力規制委員会には、いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、情報公開を基本として、今後も継続して原発事故で失墜した国民の信頼回復に努めてもらいたい。

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