ウクライナ危機で原発は何処に向かうのか?

原子力

原子力発電所の新増設を促す社説に?

 日本経済新聞紙上に、原子力発電所の新増設を促す社説が流れた。このような先鋭的な社説が新聞紙上に公開されたことには大きな不安を感じる。「再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」のが、日本の基本方針であることを忘れてはならない。

 ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー供給危機が世界レベルで生じている。社説では地球温暖化ガスを減らす脱炭素化エネルギー安定協供給をいかに両立させるかが喫緊の課題とし、英国とフランスの状況を引用して、国内の原子力発電所の新増設を政府に対して促すものである。

[社説]原発新増設へ明確な方針打ち出せ: 日本経済新聞 (nikkei.com)

日本経済新聞 2022年8月17日 19:00

 2022年7月14日には電力ひっ迫に備え、岸田文雄首相は記者会見で「私から経済産業相に対しできる限り多くの原発、この冬で言えば最大9基の稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保するように指示した。」と述べた。

 2022年8月12日、第2次岸田改造内閣で入閣した西村康稔経済産業相が、産経新聞などのインタビューに応じ、今冬について「原発の最大9基の稼働を確保できるよう着実に取り組みたい」とした上で、来夏以降については「原発の更なる再稼働が重要だ」との認識を示した。

 これらの発言を受けて、日本経済新聞では「岸田文雄首相は、表だった議論を避けてきた原子炉の新増設を政治決断する時だ。東京電力福島第1原子力発電所事故を教訓に、安全性と信頼の確保が大前提となる。」と原発新増設の後押しを社説として公開している。

日本が進めるべきエネルギー戦略は!

 2021年10月には、第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。
 その中で「東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、2050年カーボンニュートラルや2030年度の新たな削減目標の実現を目指すに際して、原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」と示している。

 東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した国民として、原子力について安全を最優先することは当然のことであり、可能な限り原発依存性を低減することが譲れる最低限である。そのため政府方針として原発の新増設は想定していない。原発の新増設には多方面からの、慎重な議論が必要である。

 2020年10月26日、日本は「2050年カーボンニュートラル」を宣言している。これを実現するためにはグリーン・リカバリーにより、経済と環境の好循環を作り出すことが必要として、グリーン成長戦略が示された。今は、ウクライナ危機の影響を踏まえ、この成長戦略の見直しが急務である。

 欧州(EU)では、ウクライナ危機により原油やLNGの価格が高騰し、再生可能エネルギーの価格競争力が上がったことで、水素社会に向けてグリーン水素をつくる水電解装置の量産が始められた。
 2022年5月、EUは2030年までにEU域内で1000万トン/年のグリーン水素の製造目標を発表した。これは従来目標の2倍の規模で、自給自足のエネルギー源としてグリーン水素を促進する意向を示した。

 もちろん、EU内でもエネルギー戦略は異なる。従来から英国は洋上風力と原子力発電の拡大を推進してきた。ウクライナ危機により、フランスは原子力発電所の新増設を表明した。一方で、脱石炭火力・脱原子力を推進してきたドイツは、ウクライナ危機により一時的な再稼働に踏み切るであろう。

 しかし、東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した日本は環太平洋火山帯に位置しており、毎年のように過酷な自然災害を受け続けている。台風、地震、火山などによる自然災害が極めて少ない英国やフランスの原子力拡大政策と、一緒に考えてはならない。ましてや見習うべきものではない。

ウクライナ危機への日本の対応

 第6次エネルギー基本計画では、2030年度の電源構成で総発電量に占める割合を化石燃料発電の割合を、石油火力発電が2%程度(2015年策定時は3%程度)、石炭火力発電が19%程度(同26%程度)、LNG火力発電が20%程度(同27%程度)と大幅に抑制している。
 ロシアからのLNG・石炭輸入禁止対応は、国内の休止石炭火力発電所の再稼働も、期限付きであればやむを得ない判断となるであろう。また、基本計画では新たに水素・アンモニアによる火力発電の約1%程度の追加を示しているが、水素・アンモニア混焼を加速させることが有効であろう。

 基本計画では再生可能エネルギーが約36~38%程度(2015年策定時は22~24%程度)と大幅に拡大している。洋上風力の拡大が期待されているが、一番の課題は遅々として進まない電力貯蔵である。
 ようやく始まった蓄電池による大容量蓄電所の拡大、未だに実証試験の域を出ない水素電力貯蔵の実用化など打つ手は多い。現時点で、捨てられている再生可能エネルギーは無視できない量である。

 また、原子力発電は約20~22%程度(同22~20%程度)と据え置き、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進めるとしている。
 この原子力発電所の再稼働を推進する過程において、政府も電力会社も決めたことは愚直に守り、決して審査基準を歪めるなどのことがあってはならない。安全基準もテロ対策も約束したことである。現時点では、リスクの高い原子力発電所に対する国民の信頼を取り戻すのが最優先である。

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