量産化に一歩踏み出した航空燃料「SAF」(Ⅷ)

航空機

 政府のSAF使用に関する基本方針に従い、石油元売り大手(コスモ石油、出光興産、ENEOS、富士石油、太陽石油)とプラントメーカーの日揮HDが、「SAF製造能力の構築」と「原料サプライチェーンの確保」にむけて動き始めた。いずれも、SAF製造技術を有するメーカーからの技術導入による生産設備の立ち上げである。

石油元売り大手のSAF生産動向

 政府のSAF使用に関する基本方針に従い、石油元売り大手が「SAF製造能力の構築」「原料サプライチェーンの確保」に向けて動き始めた。今後、国際競争力のある価格で、安定的にSAF供給できる体制を構築する必要がある。

コスモ石油

 日揮HD、レボインターナショナルと連携し、大阪の堺製油所で、国内で回収した廃食油を用いたHEFA技術によるSAF製造を進めており、2024~25年に3万㎘/年の製造をめざしている。また、三井物産とも連携し、バイオエタノールを原料としたSAF製造も進めており、2027年に22万㎘/年の製造をめざしている。

 2021年7月、日揮HD、レボインターナショナルと協力し、コスモ石油堺製油所内に3万kL/年のSAF製造工場の建設を発表。2025年には工場でジェット燃料とSAFを混合し、国際線が就航する成田空港、羽田空港、関西国際空港などに向けて出荷する。販売価格は、従来のジェット燃料並みの100円台/ℓをめざす。

 2022年7月、三井物産とSAF製造に取り組むと発表。三井物産が出資する米国ランザジェットが開発したエタノールを触媒に反応させるATJ技術で、コスモ石油の製油所で2028年末までに22万㎘/年の製造をめざす。
副産物の2万㎘/年のバイオディーゼル燃料は、空港内の輸送機やトラック・重機等を対象に販売する。

 2024年6月、家庭の使用済みてんぷら油をガソリンスタンドで回収し、SAF原料とする試みを開始。東京都練馬区、中野区、港区の給油所に回収ボックスを設置し、買取はせずにペットボトルなどで持ち込んでもらう。消費者は油を固めて捨てる手間が省ける。9月以降に対象のガソリンスタンドを広げ、回収量を増やす。

 2024年9月、コスモ石油堺製油所内で、建設中のSAF製造装置が報道陣に公開された。国内初の本格的なSAF工場で、日揮HDなどと共同出資する会社が運営する。丸亀製麺や牛丼の松屋と提携して廃食油が10月から搬入され、生産能力は3万㎘/年で2024年度に稼働する。

出光興産

 千葉製油所で、バイオエタノールを原料としたATJ技術によるSAF製造(10万㎘/年)に取り組み、2028年度に実証運転を開始する。また、南米チリのHIFグローバルと協業し、水素とCO2から生成したメタノールで合成燃料を製造する技術の導入を進め、2030年頃までに北海道製油所での生産開始をめざしている。

 2022年4月、千葉製油所でエタノール由来のSAF製造を始める。バイオエタノールは当面はブラジルなどから輸入(18万㎘/年)し、ATJ技術による製造装置(10万㎘/年級)の開発を進め、2026年度から供給を開始する。
 2030年には50万㎘/年規模まで製造設備を増強し、価格を100円/ℓ台に抑える。

 2023年3月、苫小牧市の北海道製油所で合成燃料の実用化をめざし、北海道電力や石油資源開発と調査をと進めると発表。東芝、東洋エンジニアリング、全日本空輸などと連携し、CO2と水素から製造する合成燃料の技術開発・実証を進め、2030年までにガソリンスタンドなどへ供給する。

 2024年8月、徳山事業所でのHEFA技術によるSAF製造プロジェクトのFSを完了して基本設計へ移行する。米国の全農グレインと協業して大豆油など植物油の調達を進め、2028年度から25万㎘/年のSAF生産を開始し、2030年までの50万㎘/年の国内供給体制を構築する。 
 将来的には、食用でなく油収量効率が高い「ボンガミア」などの油糧植物の油脂を活用する計画である。

ENEOS

 フランスのトタルエナジーと連携し、国内外で調達した廃食油などを用いて、和歌山製油所跡地でHEFA技術によるSAF製造に取り組み、2026年に約40万㎘/年の製造をめざしている。また、CO2と水素を原料とする合成燃料は、2040年までの自立商用化をめざしている。

 2022年4月、フランスのトタルエナジーズとHEFA技術によるSAF製造の事業化調査を実施。また、2022年から特殊な触媒を使い、CO2と水素から合成燃料(e-fuel)の生産を始める。160ℓ/日程度の生産から始めて、2030年には最大ℓ/日に高めて商用化をめざす。 

 2023年6月、フランスのトタルエナジーズとSAFの原料となる廃食油の共同調達を発表。2026年から和歌山製油所でSAF生産を始め、将来的に年30万トン(約40万㎘)の生産体制を整える。また、2027年に合成燃料の量産向けに試験プラントを運転する方針を示した。 

 2024年1月、花王、サントリーホールディングス(HD)、和歌山県と、SAF製造と廃プラスチックのリサイクルなどでの包括連携協定を締結した。2023年に石油精製を停止したENEOS和歌山製造所を拠点に、一般家庭で排出された廃食油からのSAF製造や、アスファルト改質剤の製造などを検討する。

 2024年3月、物語コーポレーションと廃食油の再活用で連携すると発表。物語コーポが展開する飲食店の廃食油(約420㎘/日)を回収し、SAF製造プラントで原料として使用する。その他、ゼンショーホールディングス、東急不動産、サントリー、イトーヨーカ堂などと組み廃食油の回収を進める。

 2024年7月、日本航空とSAFの販売契約を締結した。海外から廃食油由来のSAFを輸入し、ENEOSの鹿島製油所で貯蔵して空港まで運ぶ。SAFを仕入れる企業名や国は明らかにしていない。

富士石油

 2023年5月、伊藤忠商事と連携し、SAF製造の検討を開始した。千葉の袖ケ浦製油所に生産設備を設け、2027年度から約18万㎘/年の生産をめざし、プラントの基本設計を開始した。

太陽石油

 2023年7月、三井物産と連携し、沖縄の南西石油が所有する設備・遊休地を活用して、ATJ技術によるバイオエタノールを原料とするSAF製造および軽油の代替燃料であるバイオディーゼルの製造に向け、共同検討を行うことで合意。2028年には約22万㎘/年の国産SAFとバイオディゼルの生産をめざす。

 2024年11月、約2000億円を投じ、沖縄県で2028年度からSAFを22万kℓ/年生産すると公表。ENEOSホールディングスなど石油5社の2030年までのSAF生産量は合計170~190万kℓ/年に達し、政府目標はクリアする見通しである。ただし、2050年には20300万kℓ/年のSAFが必要となる試算もあり、予断は許されない。
 三井物産が出資する米国ランザジェットの技術を活用し、ブラジル、米国から輸入したサトウキビやトウモロコシを原料にアルコールを改質するATJ技術でSAFを製造する。一部を軽油の代替燃料として使える「リニューアブルディーゼル」にすることも検討する。台湾や韓国の航空会社への販売も想定する。

日揮

 SAFの大規模商用生産に向けて、レボインターナショナル、コスモ石油と共同で、廃食油を水素化処理する国産SAF製造サプライチェーンの構築に取り組んでいる。様々な企業・団体と連携して「Fry to Fly Project」を展開し、廃食油の回収を進めている。 2024年10月時点で132機関が参画している。

 2022年3月、日揮HD、レボインターナショナル、全日本空輸、日本航空などと共同で、国産SAFの商用化および普及拡大に取り組む合同会社「ACT FOR SKY」を設立。新会社は国産SAFの大規模生産を目指し、100%廃食油を原料とするSAFの国内供給(約3万㎘/年)をめざす。
 生産設備は、大阪府堺市のコスモ石油堺製油所内に2023年夏を目途に着工し、2024年内に完工、2024年度下期~2025年度初に稼働する。同設備ではバイオプラスチックの原料となるバイオナフサや、バイオディーゼルも生産する。

 2022年11月、コスモ石油、日揮HD、レボインターナショナルは、廃食用油を原料とした国産SAFの製造や供給事業を行うために、「合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY」を設立した。レボインターナショナルが廃食油を収集し、SAFFAIRE SKY ENERGYの製造工場においてSAFが生産される。

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