政府は、2030年時点のSAF使用量として、「ジェット燃料の使用量の10%をSAFに置き換える」との目標を設定し、国内でのSAF需要は、2030年に2025年比で約6倍の172万㎘(海外航空会社向け:84万㎘、国内航空会社向け:88万㎘)に急拡大すると想定した。
2022年12月、ようやくSAF導入の基本方針が正式に決定され、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進、飛行ルートの効率化、空港施設の省エネと再生可能エネルギー導入などが盛り込まれた。
日本のSAF導入の基本方針
2022年時点における世界のSAF供給量は、約30万㎘で、世界のジェット燃料供給量の0.1%程度にすぎない。しかし、国内でのSAF生産量は極めて寡少で、現在、国内航空会社はほぼ輸入に頼っている。
SAF導入予測の現状
政府は、2030年時点のSAF使用量として、「ジェット燃料の使用量の10%をSAFに置き換える」との目標を設定しており、国内でのSAF需要は、2030年に2025年比で約6倍の172万㎘(海外航空会社向け:84万㎘、国内航空会社向け:88万㎘)に急拡大すると想定した。
その結果、2022年11月には将来的に供給できるSAFは7割程度に留まる見通しとした。その後、2024年度中に「エネルギー供給構造高度化法」の関連規則で、国内の石油元売り大手にSAF供給を義務付けると発表。その結果、SAF製造・供給事業者の公表情報を積み上げて、供給見込み量は192万㎘とした。
この経緯は次に示すが、SAFは従来の航空機エンジンを変更することなく使えるためメリットは大きいが、現時点で価格がジェット燃料の2〜5倍と高いのが大きな問題である。当面、政府は補助金でSAF製造・供給事業者を支援するが、将来的には量産効果などによる低コスト化が達成される必要がある。
ICAOは、SAFを使用することで原料の調達~消費までの全過程でのCO2排出量を、石油由来のジェット燃料と比べて60~70%減らせるとした。しかし、SAF生産時に生じる30~40%のCO2排出量が残る。
「2050年カーボンニュートラル」に向けて、「小型機の電動化」や「中大型機の水素燃料化」の開発も重要であることを忘れてはならない。
SAFの社会実装に向けた政府の動き
2022年4月、SAFの技術・経済的な課題を官民で議論し、一体となって取り組める場として、「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会」が設立され、SAFの利用・供給拡大に向けた「規制」と「支援策」が検討された。
2022年9月、新たな「バイオマス活用推進基本計画」(第三次)が閣議決定された。特筆されるのは、航空分野における脱炭素化の取組みに寄与する「SAFの社会実装に向けた検討」の推進である。
4.脱炭素化を促進する技術の研究開発
航空分野における脱炭素化の取組に寄与する持続可能な航空燃料(SAF)の社会実装に向け、HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)技術、ATJ(Alcohol to Jet)技術、多様な原料利用の可能性があるガス化・FT(FischerTropsch process)合成技術、カーボンリサイクル技術を活用した微細藻類の大量培養技術等の技術開発及び実証を加速させる必要がある。加えて、食料や飼料用原料等の既にある需要先の安定供給を行いつつ、廃食用油、古紙、木くず等の国内における持続可能な航空燃料(SAF)の原料を安定的に確保するためのサプライチェーンの構築を推進する。バイオマス活用推進基本計画(第三次)p.20より
現在、注目されているSAF製造技術は、廃食油や微細藻類などを原料とした「HEFA技術」である。しかし、廃食油は世界的な需要増により供給量が不足し、価格が高騰している。そのため賦存量が多いとされるバイオエタノールを原料とする「ATJ技術」の確立が重要とされた。
また、米国やブラジル産の第一世代バイオエタノールの原料はサトウキビやトウモロコシなどであり、食料問題から第二世代バイオエタノールの原料である非可食性植物、古紙、廃棄物などに注目が集まっている。
さらに、将来的にはバイオマス燃料に限定しない多様な原料(例えば廃プラなど)を使った「ガス化・FT合成技術」の確立も重要とされた。さらに、有望視されているのは、CO2とH2を化学合成して製造される液体燃料である「合成燃料(e-fuel)」の活用としている。
SAF使用に関する政府の基本方針
2022年9月、国土交通省は航空分野の脱炭素化に関する基本方針案をまとめた。目的は、2050年までに航空分野でCO2の排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの達成である。
基本方針には、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進、飛行ルートの効率化、空港施設の省エネと再生可能エネルギー導入などが盛り込まれ、関連事業者の意見も取り入れて、2022年12月に正式決定された。
■基本方針では、2030年までに達成する目標として、国際航空でCO2総排出量の増加を制限し、国内航空では単位輸送量当たりのCO2排出量を対2013年度比で16%削減すると規定した。各空港でも温室効果ガス排出量を対2013年度比で46%以上削減する。
■SAFに関しては、2025年の国産開始、2030年までに国内航空会社の燃料使用量の10%を置き換える目標を設定した。国土交通省や経済産業省などが連携して国際競争力のある国産SAFの安定供給に向けて作業部会を設置し、SAFの国際認証取得など関連企業の支援に乗り出す。
また、2023年5月、経済産業省は、2030年から日本の空港で国際線に給油する燃料の10%をSAFにすることを石油元売りに義務付けると発表。国内でのSAF生産体制の強化の一環である。国際線を発着する日本の航空会社にもSAF10%の利用を、国土交通省に提出する脱炭素事業計画に明記するよう求めた。
2024年9月、経済産業省は、温暖化ガス削減効果の高いSAF供給を石油元売りに促すため、2019年度に国内で生産・供給されたジェット燃料の温暖化ガス排出量の5%相当以上をSAFで削減するよう求めた。
■温暖化ガス削減効果が低い原料のSAFでは効果が見込めないため、目標を温暖化ガス排出量ベースに切り替え、併せて、温暖化ガス排出削減効果が50%以上となる原料の使用を促進する。
■2024年度内に「エネルギー供給構造高度化法」の関連規則として定める。対象は10万㎘/年以上のジェット燃料を供給する事業者で、ENEOS、出光興産、コスモ石油、富士石油、太陽石油の5社が該当する。
■2030年度から5年間の供給目標とし、違反すれば事業者名の公表などの罰則が科される。2035年以降の目標は国際動向を見て設定する。(欧米並みの高い目標になる可能性がある。)
■石油元売りに対して、SAFの製造設備投資補助(2024年度から5年間で3400億円)や生産量に応じて減税など支援策を講じる。また、中期的な規制や制度的措置を整える。
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