量産化に一歩踏み出した航空燃料「SAF」(Ⅵ)

航空機

 国内では伊藤忠商事が、フィンランドのネステがHEFA-SPK技術で生産するSAFの日本市場向け独占販売契約を締結し、SAFの輸入・品質管理から空港搬入までの国内サプライチェーンを構築して業界をリード。
 対抗する三井物産は、米国ランザテック(LanzaTech)・ランザジェット(LanzaJet)と2020年に資本提携し、ATJ(Alcohol to Jet)技術による国内でのSAF生産実現をめざしている。

日本におけるSAF導入の動き

航空会社(JAL、ANA)の動き

 2021年6月、NEDOによるSAF製造技術に係る研究開発の一環で、全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)が、国産SAFを従来のジェット燃料に混合し、定期便によるフライト試験を実施した。
 ANAはIHI供給の微細藻類を原料とするSAF、JALはIHI供給の微細藻類を原料とするSAFと、三菱パワー、JERA、東洋エンジニアリングから供給された木くずを原料とするSAFの2種類を使用した。

●ANAは2030年度に燃料の10%以上、2050年度に全量をSAFに置き換える目標を掲げ、フィンランドのネステ、米国のランザジェットとSAFの調達契約を締結した。
●JALは2025年度に燃料の1%、2030年度に10%をSAFに置き換える目標を掲げ、米国フルクラム・バイオエナジーに丸紅などと出資するほか、航空連合「ワンワールド」の加盟各社と共同で米国ジーボなどとSAFの調達契約を締結した。

図10 SAFの使用を積極的に推進するJALとANA

 2022年3月、日揮HD、レボインターナショナル、全日本空輸、日本航空は共同で、国産SAFの商用化および普及・拡大に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」を設立。2024年10月時点で45社が参画している。

国産SAFによるフライト試験

国産SAFによるフライト試験:
●2021年6月、国土交通省航空局が保有・運用する飛行検査機「サイテーションCJ4」で、ユーグレナのサステオを給油し、羽田空港~鳥取空港経由~中部国際空港に着陸する約2時間半の飛行。
●2021年6月、Japan Biz Aviationが運航管理するプライベートジェット機「HondaJet Elite(ホンダジェット エリート)」でサステオを給油し、鹿児島空港から羽田空港へ約90分間の飛行。
●2022年3月、定期旅客運航のフジドリームエアラインズのジェット旅客機「エンブラエルERJ175」に鈴与商事がサステオを給油し、富士山静岡空港と県営名古屋空港間のチャーター運航。
●2022年3月、アジア航測が保有・運航する低翼ターボプロップ双発機「C90GTi型」にサステオを給油し、大阪・八尾空港を発着地として小豆島上空を約60分間の周回飛行。
●2022年6月、中日本航空、エアバス・ヘリコプターズ・ジャパンは、中日本航空が保有するヘリコプターH215「エアバス社製AS332 L1型」にサステオを給油し、名古屋空港より約30分の飛行。
●2023年1月、防衛省が運航する政府専用機2機「ボーイング777-300ER」にサステオが給油され、首相の欧州・北米訪問に運航。政府専用機にSAFが給油されたのは、2022年11月に続き2度目。

商社によるSAF供給状況

伊藤忠商事

 2020年から、全日本空輸(ANA)、フィンランドのネステ(Neste OYJ)と共同で、HEFA-SPK技術によるSAFの輸入・品質管理から空港搬入までの国内サプライチェーンを構築して業界をリード。国土交通省の実証事業では、ネステから「ニートSAF」を輸入し、国内製油所でジェット燃料と混合して航空機への給油を実証した。

 2022年2月、ネステが生産するSAFの日本市場向け独占販売契約を締結。2022年5月、成田国際空港で、アラブ首長国連邦(UAE)の国営航空会社エティハド航空に対して、日本を発着する海外航空会社として初のSAF供給を実施した。

 2023年1月、SAFの調達でANAとJALは、米国レイヴェンと伊藤忠商事と合意した。2025年からカリフォルニア州でレイヴェンが商用生産するSAFを伊藤忠商事が調達して各社に供給する。
 伊藤忠商事が2021年に出資したレイヴェンは、米国で植物系廃棄物や都市ごみなどの発酵で発生するメタンガスから合成燃料を製造し、2034年までに欧米で20万トン(25万㎘)/年規模の生産を計画している。

 2024年9月、成田国際空港会社(NAA)は、SAFを海外から直接受け入れたと発表。CORSIA認証を取得したSAFの輸入は国内空港では初となる。伊藤忠商事が供給網を整え、韓国の製油所から約5000トン級の石油タンカーで運ばれ、ANAやJALに供給する。

三井物産

 三井物産は米国ランザテック(LanzaTech)とスピンアウトしたランザジェット(LanzaJet)と2020年に資本提携し、ランザジェットが開発したATJ(Alcohol to Jet)技術によるSAF生産を行っている。
 廃食油などの原料ひっ迫が想定される中、全世界のエタノール生産量は約1億トンで安定調達が可能である。短期的には実績と輸出余力があるブラジル産サトウキビ由来のエタノールで、中期的には製油所排ガスや植物残渣などの廃棄物由来の国産エタノールに切り替える。

 2022年7月、三井物産とコスモ石油は、国内でのSAF製造事業の実現に向けた共同検討を公表。三井物産はエタノールを調達し、ランザジェットが開発したATJ技術による国内でのバイオ燃料の生産を計画。2027年までにSAFを約22万㎘/年、ディーゼル燃料を約2.4万㎘/年の生産をめざす。

 2023年1月、出資するランザテックが、エタノールを原料としATJ技術によりSAFを生産する3.8万㎘/年のデモプラントを米国ジョージア州に建設中と公表。2024年3月には生産を開始した。 

 2023年9月、ポルトガルのエネルギー企業Galp(ガルプ)と合弁会社を設立し、株式の25%を出資(1億ユーロ、約160億円)すると発表。ポルトガルに工場を設置し、パーム油やその生産過程で出る廃棄物、菜種油を原料として、2026年から25万㎘/年のSAF生産を開始する。
 原料確保は三井物産の食料調達網を活用し、アジアを中心に食料工場などから廃棄物を集め、2030年までに50万トン前後の原料を供給する。バイオ燃料(HVO)およびSAFの製造事業を共同で推進する。 

図11 SAF原料の合成原油を生産するフルクラム・バイオエナジーのシエラ工場

三菱商事

 三菱商事は、大量生産に向けて石油元売り最大手のENEOSと、2027年をめどに国内で原料調達を含むSAFの供給網の構築を検討している。三菱商事は主に原料調達を行うに留まる。

 2022年4月、ENEOSと日本でのSAF生産など次世代燃料の事業化に向けた共同検討で合意し、2024年6月、ENEOSとSAF分野に加え、水素・脱炭素燃料の社会実装に向けた共同検討を行うことで合意した。
 この取り組みでは、メチルシクロヘキサン(MCH)を用いた水素サプライチェーンの構築や、海外におけるCO2フリー水素供給源の開発と水素需要の創出、モビリティ分野における水素活用と燃料電池商用車の社会実装について共同検討を行う。さらに、COフリー水素を原料とする合成燃料の普及に向けて連携する。

丸紅

 米国フルクラム・バイオエナジーの技術を活用し、日本航空、ENEOS、大栄環境グループと共同で、国内でのSAF生産と販売サプライチェーン構築の検討を進めている。可燃ゴミを回収し、自治体から処理手数料を受け取ることで、低コスト化の可能性がある。

 2018年9月、米国フルクラム・バイオエナジーと資本提携。一般廃棄物を原料とし、FT-SPK技術を使うバイオ燃料の製造を米国ネバダ州のシエラ工場で始めた。これを精製することで、ほぼ同量のSAF生産ができる。

 2024年2月、アラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ・ナショナルオイルカンパニー、廃棄物処理のベルギー・ベーシックスとSAF生産に関する調査の覚書を締結。家庭から排出される生ごみなどの一般廃棄物を原料とし、2024年中に初期調査を終え、2030年頃の商業生産の開始をめざす。
 UAEは、2031年までにジェット燃料の1%をSAFに置き換える方針で、エミレーツ航空などへのSAF供給を検討している。

 2024年6月、丸紅が低コストSAFの全日本空輸への供給を始めた。韓国の石油精製会社であるHD Hyundai Oilbankから廃食油由来のSAFを調達し、丸紅エネックスの千葉ターミナルの貯留タンクからパイプラインで成田空港に供給する。
 HD Hyundai Oilbankでは石油由来原料とバイオ原料の同時処理「Co-processing製法」で、一部がバイオ由来の石油製品を製造する方法を採用している。大規模な改修をせずに既存設備が使えるため、コストを抑えて短期間でSAF製造を開始できる。 

コメント

タイトルとURLをコピーしました