現在、フィンランドのNeste(ネステ)は、世界のSAF生産のトップを走る存在である。一方で、米国では複数のスタートアップ企業が徐々にSAF生産設備を稼働しており、生産能力のアップを図っている。
また、ハブ空港を抱えて市場拡大が予想される東南アジアは、SAF生産拠点として適しており、原料である廃食油などの調達も期待できるため、各社の投資が始まっている。
先行する世界のSAF製造メーカー
バイオジェット燃料の使用に関しては航空会社、空港、航空機メーカーとの連携が重要であり、欧米を中心に製造拠点の建設と供給システムの検討が始まっている。将来的には、SAFの供給が出来ない空港は航空機便数が減るとの見通しもあり、国内でもSAF使用を加速する必要がある。
フィンランドのNeste(ネステ)
1948年にフィンランド国営石油会社として設立。水素化処理用の触媒製造と技術提供を行う石油改質技術メーカー。フィンランド、ロッテルダム、シンガポールの製油所と、カリフォルニア州のマラソン・ペトロリアムとの共同事業所で、生物系油脂を水素化処理した「バイオディーゼル」を約550万トン(688万㎘)/年生産する。
2026年末までにロッテルダム製油所の生産能力拡張が完了すれば、総生産能力は680万トン(850万㎘、比重0.8で計算)/年に増加。「Neste MY Renewable DieselTM」は、デンマーク、スウェーデン、ベルギー、オランダ、ドイツ、米国のチャネルパートナーを通じて、500カ所以上のスタンドでも販売されている。
また、「Neste MY Sustainable Aviation FuelTM (SAF)」を販売し、 現在の生産能力はシンガポールの100万トン(125万㎘)/年で、2024年には150トン(188万㎘)/年に引き上げ、2026年上期には220万トン(275万㎘)/年に拡大する。
廃食油(使用後の食用油)や動物性油脂を原料として、大量生産が可能なHEFA-SPK技術でSAFを生産する。世界中の主要空港で利用されており、2020年には全日空空輸(ANA)が伊藤忠商事と共同でアジア初となるSAF利用の商用フライトを実現している。
また、原料の廃食油などの需要が増えたため、木質残渣や都市ゴミ、藻類など原料の多様化を進めている。
米国World Energy(ワールドエナジー)
2016年からカリフォルニア州パラマウントに、商業用バイオジェット燃料の専業供給拠点を設置してSAF製造を開始し、副生物としてバイオディーゼルやナフサも製造している。SAFはロスアンゼルス空港へ直結するパイプラインで送給し、2025年には製造能力を約129万㎘/年に拡張する。
主な原料は近隣外食産業から有償提供される廃食油などで、改質はHoneywell UOPが提供する水素化技術を使いHEFA-SPK技術で生産している。サンフランシスコ空港、オスロ空港などにも、コンテナによるバイオ燃料供給を行う。米国ヒューストンで、2025年までに約95万㎘/年のSAF製造拠点を計画している。
米国Geovo(ジーボ)
2005年に設立された米国コロラド州の企業で、アルコ-ル変換(ATJ:Alcohol-to-Jet)技術でバイオジェット燃料を生産している。
製造工程は、廃木材などの木質バイオマスを分解して得られる糖を発酵させ、得られるバイオイソブタノールを原料とし、脱水後のイソブテンのオリゴメリゼーション(低重合)により炭素数8~16のオレフィンに変換し、さらに水素化装置でパラフィン化してイソオクタンおよびSAFを生産している。
ヴァージン・アトランティック航空、アラスカ航空などと、ATJによるSAF燃料の長期供給契約を締結した。また、オーストラリア・ブリスベーン空港へのSAF燃料の供給契約を締結し、オーストラリアでSAF 製油所の建設を進めている。
米国Lanzatech(ランザテック)とLanzaJet(ランザジェット)
2020年に設立されたランザテックは、微生物発酵を使って都市ゴミや工場排気ガスから得られるバイオエタノールを原料とし、アルコ-ル変換(ATJ)技術でバイオジェット燃料を生産している。
Lanzatechは中国などで商業設備を稼働し、全日本空輸、英国ブリティッシュ・エアウェイズ、サンフランシスコ空港と供給契約を締結した。2020年6月に、SAF製造の関連会社ランザジェットを設立し、2022年から米国ジョージア州で約3800万㎘/年のバイオジェット燃料を生産する。
2024年3月、ランザジェットは植物由来のSAF生産を開始した。米国で新工場を立ち上げ、独自の触媒技術の開発でエタノールを原料にしたSAFやバイオディーゼル燃料の大量生産を始めた。SAFの生産能力は900万ガロン(約3.4万㎘)/年である。
現在、SAFは飲食店や食品工場から回収された廃食油や動物性油脂を原料としているが、回収に手間がかかる。一方、植物由来のSAFは原料確保が容易で、廃食油由来より最大6割ほど低コストになる。
2024年6月、ランザテック・グローバルとランザジェットは、ランザテックのガス発酵技術を活用し、廃棄物資源をエタノール「CarbonSmartTM」に変換し、ATJ技術でSAFに変換する新技術「CirculAirTM」を発表した。
従来のFT法に代わるプロセスで、CO2排出量を少なくとも85%削減できる可能性があり、都市固形廃棄物、農業残渣など、さまざまな廃棄物源に適応可能である。
両社は、オーストラリア、ニュージーランド、アラブ首長国連邦、イギリスなど、世界各地で共同プロジェクトを進めている。また、出資する三井物産やコスモ石油と連携し、日本で検討中の植物由来のSAF製造拠点に技術を提供する。また、全日本空輸などとSAF供給契約を締結している。
米国Fulcrum bioenergy(フルクラム・バイオエナジー)
2007年に設立されたカリフォルニア州プレザントンを拠点とし、木質バイオマスや都市ゴミなど一般廃棄物を原料として、FT-SPK技術でバイオ燃料を製造している。
2018年9月、丸紅、日本航空、海外交通・都市開発事業支援機構は、フルクラム・バイオエナジーに出資した。他に、ユナイテッド航空、JOINなども資本参加している。
2021年より米国ネバダ州シエラ工場で埋立廃棄物を原料に商業生産を開始し、2022年5月にSAF生産施設(約4.16万㎘/年)の建設を完了した。
2026年までにイリノイ州とテキサス州で、時期は未定であるが英国でも生産プラントを稼働する。航空業界を中心にSAF供給を進め、4億ガロン(150万㎘)/年の生産体制をめざす。
2023年1月には、フルクラムの技術を活用し、日本航空、ENEOS、大栄環境グループは共同で、日本でのSAF生産と販売サプライチェーン構築の検討を進める。可燃ゴミを回収し、自治体から処理手数料を受け取ることで、価格を抑えられる可能性がある。
英国Shell(シェル)
2021年9月、オランダの製油所で、SAFと廃棄物を原料とするバイオディーゼルの生産検討を開始し、2025年までに生産量を約250万㎘/年、2030年時点で世界シェアの10%超を獲得する計画を掲げた。
2022年11月、シェル・イースタン・ペトロリアムが、シンガポールの廃食油の集荷・販売会社であるEcoOils(エコオイルズ)を買収。 2023年2月、世界的な農業会社の米国S&W Seedと合弁会社を設立し、バイオ燃料の原料としてカメリナ等の油糧種子の開発に取り組む。
2023年、航空部門のシェル・アビエーションは、日本航空、カタール航空、2024年にはUAEのエミレーツ航空とSAF供給契約を締結した。
しかし、2024年7月、オランダのバイオ燃料施設(82万トン(103万㎘)/年)の建設について、市況の低迷を理由に一時停止すると発表した。
フランスTotalEnergies(トタルエナジー)
2019年6月、南フランスのラメード(La Mede)製油所の改修に着手。生産能力60万㎘/年のバイオディーゼル(HVO原料)プラント(SAFは12.5万㎘/年)に改修し、2022年3月から商用生産を開始した。また、2024年中にパリ南東のグランピュイ(Grandpuits)製油所のSAF製造能力を約21万㎘/年とする。
2023年6月、トタルエナジーは、2028年までに50万トン(63万㎘)/年の生産能力を達成する見込み、2030年までに150万トン(188万㎘)/年の生産をめざすなど、SAF生産規模拡大に向けた新目標を発表した。
EUの空港におけるSAF使用量を、2025年に2%から開始し、2050年には70%に達するよう段階的に義務付ける新ルールが、欧州議会と理事会で合意されたためで、新目標により2028年までにEUの混合義務化をクリアでき、2030年の目標達成で世界のSAF市場の10%を占める。
2024年4月、中国シノペック(Sinopec)と廃食油からSAFを生産する合弁事業(23万トン(29万㎘)/年)で基本合意した。同年10月には、エールフランス航空と10年間のSAF供給契約を締結した。
東南アジアでのSAF製造
2023年6月、東南アジアでSAFを生産する動きが広がっていると報じられた。ハブ空港を抱えて市場拡大が予想される東南アジアはSAF生産拠点として適しており、原料である廃食油などの調達も期待できるため、各社の投資が始まっている。
フィンランドのネステは、2023年5月に16億ユーロ(約2400億円)を投じてシンガポールの精製工場を拡張し、SAF生産を始めた。2023年中にシンガポールで100万トン(125万㎘)/年の生産体制としている。
シンガポールで生産するSAFは世界各地へタンカーで輸送するほか、ハブ空港であるシンガポールのチャンギ空港に乗り入れる航空機に供給する。
一方、マレーシアの国営石油会社ペトロナスは、2025年にもSAF生産を始める。マレーシア航空は2023年5月、ペトロナスとSAFの取引契約を結び、2027年以降に定期便に導入する。ペトロナスはマラッカ工場からクアラルンプール国際空港へ直接SAFを供給する。
マレーシア政府は、2050年カーボンニュートラル政策を打ち出している。
タイでは、再エネ大手エナジー・アブソルートが約20億バーツ(80億円)を投じて、SAFの生産能力を65トン(81ℓ)/日から130トン(163ℓ)/日に拡大する方針を示した。2022年に廃食油からSAF生産の子会社を設立した国営石油精製大手バンチャークも、SAFの利用促進に向けてタイ国際航空との覚書を締結した。
タイ政府はBCG(バイオ・循環型・グリーン)政策を掲げ、循環型産業育成に重点を置いている。
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