量産化に一歩踏み出した航空燃料「SAF」(Ⅳ)

航空機

 2010年代に入ると、各種バイオジェット燃料が「ASTM D-7566」規格の認証を受けた。これにより従来のジェット燃料の規格「ASTM D-1655」の要件を満たすものと見なされ、代替燃料として民間航空機で使用可能となる。SAFの最大の利点は、エンジンや機体の改変を要しない「Drop-in Fuel」 として使用できる点にある。 

バイオジェット燃料の規格化

 航空燃料の品質規格は英国の「DefenceStandard91-091(DEF STAN)」、米国の「ASTM D-1655」等であり、日本国内ではこれらの規格を概ね満たす「共同利用貯油施設向け統一規格(石連規格)」が適用される。
 一方、持続可能な航空燃料「SAF」は、「ASTM D-7566」に規定されている燃料に限定される。

 ASTM-D7566では、ニートSAF(合成燃料100%)」混合SAF(既存ジェット燃料と合成燃料を混合したもの)」の両方の品質規格を定めている。ニートSAFは、従来燃料と混合後にASTM D-7566規格に合格することでASTM D-1655適合燃料と見なすことができ、従来燃料と同様に取り扱える。

ASTM D-1655/ASTM D-7566規格

 民間航空機用ジェットエンジンに使われているジェット燃料は、米国試験材料協会規格の「ASTM D-1655」などで、Jet-A/A1燃料として定められている。Jet-A/A1燃料は主にケロシンから成り、軽油とガソリンの間の留分として精製され、灯油と似た性状を示す。

 ジェット燃料のASTM規格は原料が石油由来であることを前提とし、粘度、密度、引火点、氷点、発熱量、硫黄分、芳香族成分などの項目で構成されている。当然、代替燃料に対しても同様の基準が適用される。
 一例として、次に3種類のバイオジェット燃料の特性値を示すが、いずれもジェット燃料のASTM D-1655規格値を十分に満たしている。 

表2 ジェット燃料のASTM規格とバイオジェット燃料(SPK)と水素燃料の特性比較

  従来のジェット燃料は原油を精製して製造されるが、2009 年にはFT法で合成された石炭由来燃料(CTL:Coal to Liquid)、天然ガス由来燃料(GTL:Gas to Liquid)の50%混合燃料が、ASTM D-7566で承認された。

 2010年代に入ると、バイオジェット燃料が相次いで承認された。2020年には、IHIが日本法人として初となる微細藻類由来のバイオジェット燃料が承認された。現在、SAFの国際規格「ASTM D-7566」で商業利用が認められているのは8種類である。品質規格はD7566の附属書AnnexA1~A8に規定されている

 このASTM D-7566規格認証を受けると、現在のジェット燃料の規格である「ASTM D-1655」の要件を満たすものと見なされ、代替燃料として民間航空機でいつでも使用可能となる。すなわち、エンジンや機体の改変を要しない「Drop-in Fuel」 として使用できる。
 ただし、現時点では石油由来のジェット燃料と混合して使用することが義務付けられている。ASTM D-7566では、種別にブレンド率が10~50%の範囲で規定されている。

表3 ASTM D-7566に承認された8種類のバイオジェット燃料

航空機メーカーの動向

 現時点で、バイオジェット燃料の「SAF」は生産規模の拡大や価格競争力の強化などの課題を有しており、実用化を加速すべく研究開発が進められている。現状のSAFは、未だ安全実績を積み上げる段階にあり、使用は「混合SAF」に限定されている。 

 主要航空機メーカーはバイオジェット燃料の普及促進に積極的に関わり、ASTM規格認証を主導している。

米国Boeing(ボーイング)は、バイオジェット燃料の開発初期からデモフライトに積極的に参画し、2018年には100%での試験飛行にも成功している。また、HEFA-SPK技術のASTM規格認証を主導するなど燃料開発にも深く関与している。
欧州Airbus(エアバス)も、積極的にバイオジェット燃料の普及に加わり、SIP技術のASTM規格認証を主導している。航空会社への機体引き渡し時の飛行に、航空会社がバイオ燃料の搭載を選択できるサービスを提供しており、ボーイングもこのサービスを追随して実施

コメント

タイトルとURLをコピーしました