石油元売り大手のコスモ石油、ENEOS、出光興産が、持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)の量産化に踏み出したことが報道された。一方で、海外航空会社が日本への新規就航や増便を希望しても、日本で通常の航空燃料が調達できず諦める例が増えているとの報道もある。
2024年6月には、燃料を所管する「経済産業省」と空港や物流を所管する「国土交通省」が、航空会社、空港、石油元売り、海運などが参加する「航空燃料供給不足への対応に向けた官民タスクフォース」を立ち上げた。航空燃料の不足は、国内の製油所の統廃合が進んだ結果である。
遅ればせながらSAFの量産化に一歩踏み出した日本であるが、今後のSAF供給は大丈夫か?
温暖化ガス排出量削減とSAF導入
国際航空におけるCO2排出量
国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)によれば、国際航空からのCO2排出量は約6.0億トン(2018年)である。このCO2排出量は、世界全体の約1.8%を占めており、ドイツの総排出量(約2.1%)に匹敵する量で、年々増加傾向にある。
その後、IEAは2021年の航空業界からのCO2排出は世界で約7億トンに上昇し、全体の2%を占めたと発表し、「2050年カーボンニュートラル」の達成には、航空分野において持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)の使用割合を80%に高める必要があると指摘した。
一方、脱炭素社会の潮流を受けて、航空業界においても温室効果ガス(GHG)排出量の削減を求める声が高まり、短中期的な目標が設定されるとともに、長期的な目標の国際的合意が進められた。
*持続可能な航空燃料(SAF)とは:
化石燃料以外の原料から製造された代替燃料で、主に動植物資源を原料に生産されたバイオジェット燃料(Aviation biofuel)のことである。SAFは燃焼しても新たにCO2を発生しないためカーボンニュートラルとされ、従来のジェット燃料に比べてCO2排出量を最大で8割減らせるとされている。
植物油、獣脂、藻類、その廃棄物などを原料として製造されるほか、回収されたCO2と再生可能エネルギー電力による水電解で得られた水素を反応させて得られる合成燃料(e-fuel)も含まれる。
航空分野における国際的なCO2削減目標
航空分野のうち国内線のCO2排出量削減については、パリ協定の枠組みに沿って各国が取り組む対象とされているが、国際線については国連の専門組織の国際民間航空機関(ICAO)が目標設定などを行う。
国際航空運送協会(IATA)の目標
当初、業界団体である国際航空運送協会(IATA:International Air Transport Association)は、「2020年までに燃料効率の年率1.5%改善」、「2020~2030年にカーボンニュートラルでCO2排出量の頭打ち」、「2050年までに2005年比でCO2排出量の50%削減」を目標に掲げた。
現在、IATAの中間目標は、「2020年からの年平均1.5%の燃費改善」、「2020年以降総排出量を増加させない」であり、2021年10月のIATA総会において、「2050年カーボンニュートラル達成」の最終目標を採択した。
具体的な施策は、代替燃料インフラの構築、航空機への新技術の導入、航空機運行方式の改善などによるCO2排出量削減などで、各々ロードマップとして公表されている。
IATAのCO2排出量削減の目標に対する代替燃料としてのSAFへの期待は極めて高く、欧米を中心にバイオジェット燃料の開発・導入が進められた。既に、2009年には非石油由来のジェット燃料の国際規格(ASTM D75664)が制定されており、現在では8種類のSAFの商業利用が認定されている。
現在の航空燃料の消費量は3億㎘/年である。世界のSAF需要量は、航空需要の拡大で2050年には2025年の50倍以上の4.49億㎘に急増するとIATAは予測している。しかし、2022年時点の世界のSAF供給量は約30万㎘で、世界のジェット燃料供給量の0.1%程度にすぎない。
国際民間航空機関(ICAO)の目標
航空業界の自主的な取り組みとして、2016年のICAO総会において「2021年以降の国際航空輸送分野のCO2排出量を2020年レベルに留める」ことが合意された。
この合意では「CORSIA(カーボン・オフセットおよび削減スキーム)制度」が導入され、参加する各国航空会社に所定のCO2排出量の上限が割り当てられ、燃費改善やバイオジェット燃料導入などによる達成が求められた。CO2排出量の上限を超えた分は、カーボンクレジット購入により達成を促す仕組みである。
現在、ICAOの中間目標は、「燃料効率を年平均2%改善」、「2020年以降総排出量を増加させない」、「2024年以降は、2019年のCO2排出量の85%以下に抑える」であり、2022年10月の総会において、「2050年カーボンニュートラル達成」の最終目標が採択された。
世界のSAF需要量は、2030年に約8,800万㎘、2050年に約6.5億㎘とICAOは予測しており、 2050 年までの国際航空輸送セクターにおける CO2排出量と技術革新による予測削減量が示されている。
「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、航空機への新技術導入、航空機運行方式の改善なども進められるが、SAF導入によるCO2削減効果が最も大きく、全体の60~70%を占めると推計されている。今後、「SAFの国内生産」と「サプライチェーン構築」で、安定的に需要量を供給できる体制整備が重要である。
新型コロナ感染拡大により、航空業界は2020~2022年に大きな落ち込みを示した。世界の航空会社・旅行会社・旅行関連企業で構成されるIATAによると、旅客数が新型コロナ感染拡大前の水準に戻るのは2023年と予測している。多くの市場調査でも、長期的には航空輸送需要の堅調な増加が見込まれている。
2022年10月、ICAOは国際航空分野で2050年までにCO2排出を実質ゼロにする長期目標を採択した。従来目標である「2021年以降の国際航空輸送分野のCO2排出量を2020年レベルに留める」から、「2050年カーボンニュートラル達成」へと大きく方針転換したのである。
総会では、2024年からのCORSIAのCO2排出枠を2019年CO2排出量の85%をベースラインとすることなども合意した。SAFの使用量ではなく、実質的なCO2削減効果がフォローされることになった。
また、「CORSIA(カーボン・オフセットおよび削減スキーム)制度」により、CO2排出権の購入など国内航空会社の負担増は、政府試算では合計額は2035年に数百億円/年まで膨らむとしている。
ICAOが作成した最新の国際航空輸送分野におけるCO2排出量予測と削減目標では、2050年時点でのCO2削減寄与度は、航空機への新技術の導入が21%、航空機運行方式の改善が11%で、SAF使用には55%と大きな期待がかけられている。
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