航空機の未来予測

航空機

 抜本的なゼロエミッション航空機の実現に向け、蓄電池性能の観点から小型機はピュアーエレクトリック航空機に向かい、主力となる中大型機は燃料電池航空機あるいは水素タービン航空機を実現する必要がある。開発リスクの高い一部の大型機では航空燃料のSAF導入が進むと考えられる。

航空機の未来予測

図1 航空機の未来予測

エネルギーの変換期

 図1に示すように、大手航空機メーカーの主導で従来のジェットエンジン航空機は、電動化(ハイブリッド化)を推進することにより低環境負荷、低燃費化を目指してきた。しかし、地球温暖化対策は待ったなしの状況にあり、ゼロエミッション航空機の開発へと舵を切り始めている。

 抜本的なゼロエミッション航空機の実現に向け、現状の蓄電池性能から小型機はピュアーエレクトリック航空機に向かい、主力となる中大型機は燃料電池航空機あるいは水素タービン航空機を実現する必要がある。開発リスクの高い大型機では航空燃料のSAF導入が進むと考えられる。

 いずれにしても、現在供給されているエネルギー源が一次エネルギーから二次エネルギーへと移行する過渡期にあることを認識しておく必要がある。その中で次世代航空機の鍵を握るのは、低環境負荷を実現するための水素と持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)の供給である。

 すなわち、再生可能エネルギーで発電した電力、その電力を使って製造したグリーン水素、あるいはバイオマスを原料としたバイオ燃料や、カーボンリサイクルにより製造された合成燃料(e-fuel)である。低コスト化と十分な供給量が必須であるが、既に欧米先進国はその方向に舵を切っている。

 経済的理由により化石燃料から製造されたジェット燃料、化石燃料を使う火力発電で発電した電力、化石燃料を改質して得られた水素を使う限り、環境負荷低減の目的は達成されない。すなわち、地球温暖化問題への対策としてPEA、FCEA、HTAを使う意味はないのである。

次世代航空機の電動化トレンド

 中~大型航空機を対象に、1990年代以降、世界的に航空機システム電動化(MEA:More Electric Aircraft)が進められ、動力源を電力に統合してマネジメントする仕組みが実用化された。

 さらに2000年代以降、MEA との連携を考慮したエンジン・システム電動化(MEE:More Electric Engine)では、大手航空機メーカーを中心にハイブリッド化による航空機全体の効率向上や最適運航による燃費低減が進められた。 

 2017年11月、エアバス、ロールスロイス、シーメンスが、シリーズ方式のハイブリッド電気推進システム「E-Fan X」の実証機開発で協力協定を結んだが、経済的な視点と技術的な成熟段階を見据えた結果、2020年4月にハイブリッド航空機の事業化計画を破棄した。大きな転換点である。

 「2050 年までに2005年比でCO2排出量の50%削減」という目標を達成するため、次世代航空機の開発ではさらなる電動化が求められている。すなわち、ハイブリッド航空機から電動航空機・燃料電池航空機・水素燃焼タービン航空機へのエンジン・システムの変革である。

 次世代自動車と同様に、小型航空機についてはピュアエレクトリック航空機へと向かう方向が明確になってきている。これは現状の蓄電池性能でカバーできる搭乗人数や飛行距離から決定されたもので、蓄電池性能の向上と共にカバーできる範囲は広がる。

 また、小型機のレシプロエンジンをPEFC+電動モーターに置き換えた燃料電池航空機の飛行試験が実施されている。中大型機を対象に、機内分散電源や非常用電源のハイブリッドシステム(SOFC or PEFC+ガスタービン)への置き換えや、燃料電池プロペラ推進システムの開発も始まっている。

 航空機業界で主力となる中~大型航空機については、燃料電池航空機と水素燃焼タービン航空機のどちらに向かうかは、今後の技術開発レベルによるところが大きい。燃料電池航空機と水素燃焼タービン航空機のいずれも、大型の水素タンクを搭載することが大きな開発課題である。

 しかし、ジェットエンジンメーカーは実績のある水素燃焼タービン航空機を推進しており、燃料電池に関しては、補機やハイブリッド化によるサポート電源として位置付けられる傾向にある。そのため、真の燃料電池航空機の実現に向けては、スタートアップ企業の斬新なアイデアに期待が掛かる。 

 次々世代航空機については、米国NASAや日本JAXAが、将来を見据えてウィングボディ形状のターボ・エレクトリック分散推進方式(TeDP:Turbo-electric Distributed Propulsion))の旅客機構想を発表している。ウィングボディ後端に超伝導ファンを複数個並べて推力を得る新方式である。 

SAFと水素燃焼タービン航空機

 エンジン・システムの開発には膨大な費用を要すると共に、その安全性・信頼性を実証するために長い期間が必要とされている。そのため現状のエンジン体系を大きく変える必要のな持続可能な航空燃料SAF)の採用に注目が集まっている。

 次世代航空機の開発動向は、次世代自動車と類似している。ただし、次世代自動車では供給量に問題があるとされたバイオジェット燃料であるが、使用量が限定される次世代航空機では供給可能性は十分にあるとし、空港のインフラ整備を始めとしたSAF導入の検討が進められている。

 一方、現状では航空機用の水素燃焼タービンは実用化されていない。これはジェットエンジンで水素を燃やすための燃焼器の改良軽量・コンパクトな極低温液体水素貯蔵タンクの開発大幅な機体の軽量など開発課題が山積のためである。

 中大型航空機を対象として、航空機メーカーはSAFに軸足を置くボーイングと、水素燃焼タービン航空機開発に一歩踏みだしたエアバスとに2極化している。一方で、エンジンメーカーはGE、P&W、ロールス・ロイスのいずれもが、現在の航空機エンジンの水素燃料化を長期的に進めていく戦略である。

 以上、短期的には需要を満たすSAF供給のサプライチェーン構築長期的にはグリーン水素のサプライチェーン構築が重要である。いずれも現状のジェット燃料並みの低コストが必須である。

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