バイオジェット燃料(SAF)の製造状況

航空機

 バイオジェット燃料の使用に関しては航空会社、空港、航空機メーカーとの連携が重要なことから、欧米を中心に製造拠点の建設と供給システムの検討が始まっている。将来的には、SAFの供給が出来ない空港は航空機便数が減るとの見通しもあり、国内でも開発が加速されている

米国のワールドエナジー(World Energy)
 カリフォルニア州パラマウントに、商業用バイオジェット燃料の専業供給拠点を保有し、副生物としてバイオディーゼルやナフサも製造している。製造されるバイオジェット燃料は、ロスアンゼルス空港へ直結するパイプラインにより送給されている。
 主な原料は近隣外食産業から有償提供される廃食油などで、改質技術はHoneywell UOPが提供する水素化技術を使い、HEFA-SPKを製造している。また、サンフランシスコ空港、オスロ空港などにも、コンテナによるバイオ燃料供給を行っている。

フィンランドのネステ(Neste)
 水素化処理用触媒の製造・技術提供を主とする石油改質技術メーカーである。独自にバイオ燃料製油所を北欧とシンガポールで運営しており、生物系油脂を水素化技術により改質してバイオディーゼルの製造を行い、全日本空輸、米国デルタ航空、アメリカン航空などの航空会社や空港に供給している。

米国のジーヴォ(Gevo)とランザテック(Lanzatech)
 Gevoは主に木質バイオマスより得られるバイオイソブタノール、Lanzatech は微生物発酵を使って都市ゴミや工場排気ガスから得られるバイオエタノールを原料とし、アルコ-ル変換(ATJ:Alcohol-to-Jet)技術により、バイオジェット燃料を製造している。
 Gevoはヴァージン・アトランティック航空ほか、アラスカ航空などとATJ燃料の長期供給契約を締結している。また、オーストラリア・ブリスベーン空港へのATJ供給契約も締結しており、オーストラリアでのATJ 製油所の建設を進めている。
 Lanzatechは中国などで商業設備を稼働し、全日本空輸、英国ブリティッシュ・エアウェイズ、サンフランシスコ空港と供給契約を締結している。2020年6月に、SAF製造の関連会社ランザジェットを設立し、2022年から米国ジョージア州で約3800万L/年のバイオジェット燃料を生産する計画である。

米国のフルクラム・バイオエナジー(Fulcrum bioenergy)
 FT-SPKの工程で作られる炭化水素(木質バイオマスや都市ゴミなどをFT法で合成)と石油の混合改質燃料の新規認証を進めている。ユナイテッド航空や、日本航空、丸紅(株)、JOIN(株)などが資本参加を決め、2021年より米国ネバダ州で商業生産を開始し、約4160万L/年のSAFを製造する。

 一方、最近の世界動向を鑑みて、国内でもバイオジェット燃料の開発が加速されている。

(株)IHI(アイエイチアイ)
 IHI は高速増殖型の藻類ボツリオコッカスを発見したG&Gテクノロジー 、ネオ・モルガン研究所と、IHIネオジー・アルジ(IHI NeoG Algae)合同会社を設立し、HC-HEFA SPKの製造を進めている。
 ボツリオコッカスは重油成分に近い炭化水素を細胞の周りに貯め、乾燥重量に含まれる炭化水素量が50%以上で、水素化処理時の脱酸素が不要なため効率良くバイオジェット燃料を製造できる。
 また、(株)ちとせ研究所、神戸大学と共同開発を進め、2015年3月に鹿児島市に1500m2の培養池を建設、2020年にはASTM D7566規格の認証を取得し、2030年代の商用化を目指している。

(株)ユーグレナ
 ユーグレナは微細藻類ミドリムシを原料としてバイオジェット燃料の製造を進めており、2020年1月にASTM D7566で認証されたCHJ技術を推進している。2018年10月には横浜市鶴見区に製造実証プラントを建設、2019年夏からバイオジェット燃料とバイオディーゼル燃料の供給を始めた。
 2020年に125kL/年の生産を目指し、バイオジェット燃料による商業飛行を計画している。バイオジェット燃料とバイオディーゼル燃料の合計で、2025年に約25万kL/年の商用生産を目指す。現在の価格は1万円/Lであり、海外メーカーの200~1600円/Lに向けて低コスト化を進めている。

日揮ホールディングス(株)とコスモ石油(株)
 2021年7月、日揮HDやコスモ石油は、SAFの国内生産を2025年から大阪府堺市で開始すると発表した。(株)レボインターナショナルが飲食店や食品工場などから回収する廃食油を用いて、コスモ石油の堺製油所内に3万kL/年のバイオジェット燃料の製造工場を建設する。
 工場ではジェット燃料と混合し、成田空港、羽田空港、関西国際空港など国際線が就航する空港に向けて出荷する。政府はSAFの国内需要が2030年に250万~560万kL/年になると予測しており、従来のジェット燃料並みの価格である100円台/Lを目指すとしている。

電源開発(株)、東京農工大、日揮(株)
 珪藻のソラリス株(春~秋)とルナリス株(冬)を使い分け、北九州市若松研究所で実証設備を2016年5月から稼働している。培養槽400m2、1000L/年の燃料油生産ラインを整備し、2025年にジェット燃料への適用、2030年には500円/Lでの販売を目指している。

 その他、2021年8月には、海洋研究開発機構、豊橋技術科学大学、自然科学研究機構生理学研究所が、石油と同等の炭素数10〜38個の幅広い炭化水素を合成できる植物プランクトン(ディクラテリア・ルトゥンダ)を北極海の太平洋に近いチュクチ海で発見した。
 この炭化水素は不安定な不飽和炭素結合を含まないため、ケロシンやガソリン(炭素数が10〜15個)、ディーゼル油(16〜20個)の分離精製が容易である。しかし、細胞あたりの生産量が藻類ボツリオコッカス・ブラウニーに比べて、2.5%〜20%と低く、低コスト化が課題である。
http://iadf.or.jp/document/pdf/r1-2.pdf

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