福島第一原子力発電所の廃炉
東北大学新堀教授(日本原子力学会会長、原子力バックエンド工学)によると、同型の一般的な原子炉(出力:110万kW)では放射性廃棄物は1.3万トン/基とされるが、事故を起こした福島第一原発ではその100倍程度に達するとの推計もある。膨大な量の放射性廃棄物である。
この廃炉作業に関しては、東京電力の福島第一原発廃炉に向けた中長期ロードマップに示されている。既に、第1期の使用済み燃料の取り出しは始まっており、 1~6号機に貯蔵されていた使用済み燃料は、2024年~2031年内の完了を目指して作業が進められている。
現在は事故炉の格納容器内部の状態を把握している段階で、核燃料デブリを取り出すための調査・開発が進められている。1〜3号機の核燃料デブリの総量は約880トンと推定されており、最初に試験的に取り出すのは数グラムであるが、具体的な取り出し方、運搬・保管方法は決まっていないのが実情である。
ロボットアームによる核燃料デブリ取り出しはサンプル採取には使えるが、約880トンとされる核燃料デブリの取り出し方法としては非現実的である。そのため関係各所で様々なアイデアが検討されている。
重要なことは廃炉措置終了までに、二次汚染などによる新たな風評被害を招かないことである。また、政府は福島第一原発跡地をさら地として福島県に返す義務があるが、そのためには膨大な量の放射線廃棄物の処理と、高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場を決める必要がある。
革新軽水炉
2023年4月、宣言通りにドイツが「脱原発」を完了した。一方、欧州の多くの国ではエネルギー安全保障を強化するため「脱ロシア」を念頭に置き、原発回帰の動きが活発化している。また、米国では35年振りに新規建設の原発が本格稼働を開始した。
一方、日本では原発の建て替えや新増設の有力候補として「革新軽水炉」の開発が進められている。従来の大型軽水炉を改良して安全対策を強化し、運転開始の目標時期は2030年代中頃である。既存技術の延長線上にあるため技術的な問題点が少なく、発電単価も安価になると期待されている。
「革新軽水炉」には、福島第一原発事故の教訓を基に、国内の原子炉メーカー各社により様々な新技術が適用され、安全性、信頼性、発電効率などの面から対策が施されている。
中でも過酷事故対策として、①動的安全と静的安全を組み合わせた冷却システム、②炉心溶融で発生した燃料デブリを受け止めるコアキャッチャー、③事故時ベントによる放射性物質の外部放出を抑えるシステムが追加される。そのため革新軽水炉の建設費用は8000億円~1兆円と、従来の2倍以上に高騰する。
注意が必要なのは、現在再稼働している原発には上記の過酷事故対策は一切施されていない点である。すなわち、炉心溶融に至る過酷事故は二度と起きないと仮定しているのである。この仮定が通用するのであれば、「革新軽水炉」の開発は無意味である。
政府が既存原発の60年超運転を認めたことで、電力会社は「革新軽水炉」の新設ではなく、1000億円程度の投資で済む既存原発の再稼働を選択するであろう。国民は過酷事故対策の施されていない原発の延長運転によるリスクを背負わされた。
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