エネルギーの安定供給確保は重要な政策課題であるが、核燃料サイクルは、国ごとのエネルギー事情により独自の政策が進められている。米国は一度は開発を中止したが、その後、核燃料サイクルに再び着目し高速炉開発を推進している。フランス、ロシア、中国、インドは、積極的に高速増殖炉の開発を進めている。
一方で、英国、カナダ、ドイツ、フィンランド、スウェーデンなどは技術的な難易度、莫大な開発費用から、経済性が見出せないとし、使用済み燃料を直接処分する方針を打ち出している。現状ではウラン燃料の価格が安く、核燃料サイクルによるプルトニウム燃料での発電が高価となるためである。
日本の高速炉開発動向(2)
高速炉開発の戦略ロードマップ
フランスとの研究協力
2014年8月、JAEA、三菱重工業、三菱FBRシステムズは、フランス原子力・代替エネルギー庁と、アレバが2030年頃の稼働をめざす高速炉実証炉「ASTRID」(出力:60万kW)とナトリウム冷却炉の研究協力で合意。
2016年12月、「もんじゅ廃炉」が決定した後、政府はプルトニウム増殖に重点を置かない「高速炉」の開発に向け、今後10年はもんじゅ廃炉と並行して、液体Naの取り扱いなど安全性研究を進めるとした。
しかし、2019年9月、フランス政府が資金難で高速炉実証炉「ASTRID」の中止を発表したため、2019年12月、JAEA、三菱重工業、三菱FBR、フランス原子力・代替エネルギー庁、フラマトムの間で、ナトリウム冷却高速炉のあらたな開発協力を締結してシミュレーションや実験などを進めている。
米国との研究協力
2017年3月、GE日立ニュークリア・エナジー(GEH)は、最新鋭のNa冷却プール型高速炉(出力:10万kW)の開発で、Na冷却技術を有する米国ARCニュークリアとの提携を発表した。カナダでの認可取得を目指し、北米で2020年代後半の実用化をめざしている。
2017年6月、GEHと米国原子力発電事業社エクセロンを含む米国企業5社は、ナトリウム冷却方式の小型モジュール高速炉「PRISM」(出力:31.1万kW)の許認可取得で協力するため、チーム結成協定を締結した。プルトニウムなど超ウラン元素の燃焼消費による核燃料サイクルに重点を置いた設計が進められている。
採用される原子炉容器補助冷却システム(RVACS)は、格納容器の外側から空気の自然循環によって炉心崩壊熱を除去するシステムで、電源および運転操作を必要とせず高い安全性と信頼性を実現する。冷却材のナトリウムと良好な共存性を示す金属燃料(U-Pu-Zr三元系合金燃料)が採用される。
2018年12月、高速炉開発「戦略ロードマップ」が閣議決定され、高速炉開発は「ウラン需給状況等を踏まえ、中長期的には資源の有効利用と我が国のエネルギーの自立に大きく寄与し、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減に重要である」とし、実証炉の開発を国際協力で進める方針が示された。
政府は高速炉開発を政府主導から民間の技術競争を促すために財政支援を行い、米国のナトリウム冷却式の多目的試験炉「高速スペクトル中性子照射試験炉(VTR)」(熱出力:30万kW)への参画方針を示した。VTRは「PRISM」をベースにGEHが設計を担い、早ければ2026年頃の運転開始を目指している。
2022年1月、JAEA、三菱重工業、三菱FBRシステムズ(MFBR)は、米国テラパワーとナトリウム冷却高速炉技術に関する覚書を締結し、日本が蓄積した技術をテラパワーに提供することで合意した。
テラパワーは、米国エネルギー省(DOE)の「先進的原子炉実証プラグラム」(ARDP)による支援で、小型ナトリウム冷却高速実証炉「Natrium」(電気出力:34.5万kW)の開発を進めており、西部ワイオミング州に石炭火力の代替として、2028年以降に稼働する計画である。
2022年12月、日本における高速炉開発「戦略ロードマップ」が改訂された。2023年夏頃に炉概念の仕様を選定し、2024~28年度に実証炉概念設計・研究開発を行うとする計画で、2040年代に経済性を検証する「実証炉」を稼働する目標が掲げられた。
2023年6月、高速炉開発「戦略ロードマップ」を受けて、電気事業連合会は「原子燃料サイクルの早期確立に向けた事業者の取組について」を発表した。すなわち、2030年度までに少なくとも原子炉12基でのプルサーマルを目指し、使用済みMOX燃料の再処理実証研究を進めることを決定した。
2023年7月、資源エネルギー庁は高速炉実証炉の開発に向け、三菱FBRシステムズ(MFBR)が提案する「ナトリウム冷却タンク型高速炉」(電気出力:65万kW)を選定し、将来的にその製造・建設を担う中核企業として三菱重工業を選定した。
選定された「ナトリウム冷却タンク型高速炉」は、同じナトリウム冷却炉でもループ型の「もんじゅ」とは異なる仕様であるが、フランス、中国、インドなどの海外では多く採用されている。
2023年10月、JAEA、三菱重工業、三菱FBRシステムズ、米国テラパワーの4機関は、2022年1月に締結した覚書を高速炉の実証計画を含む内容に拡大することで合意。実証炉開発で先行するテラパワーが日本側に技術支援を行う内容で、高速炉の大型化検討や金属燃料の安全性評価などが追加された。
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