革新軽水炉はいつ稼働するのか?(Ⅶ)

原子力

 政府が「脱炭素電源法」により既存原発の60年超運転を認めたことで、国民は過酷事故対策の施されていない原発の延長運転によるリスクを背負わされた革新軽水炉を絵に描いた餅としないために、政府は電力会社と共に建て替える原発を明確にし、遅滞なく稼働させるため革新軽水炉の開発を加速する必要がある。

革新軽水炉の課題

  「革新軽水炉」には、福島第一原発事故の教訓を基に、国内原子炉メーカー各社により様々な新技術が適用され、安全性、信頼性、効率などの面から対策が施されている。
 中でも過酷事故対策として、①動的安全と静的安全を組み合わせた冷却システム、②炉心溶融で発生した燃料デブリを受け止めるコアキャッチャー、③事故時ベントによる放射性物質の外部放出を抑えるシステムの追加は必須と考えられる。

 しかし、現有の原発には福島第一原発事故を教訓とした上記の過酷事故対策は一切施されていない点を再認識する必要がある。順次に再稼働が進む原発であるが、炉心溶融に至る過酷事故は二度と起きないと仮定しているのである。これが通用するのであれば、革新軽水炉の開発は無意味となる。

 2023年2月に、GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針が閣議決定され、2023年5月にはカーボンプライシングの導入を含むGX推進法、原子力発電所の運転期間の60年超への延長を盛り込んだGX脱炭素電源法のGX関連法が相次いで成立した。
 2023年7月、関西電力の高浜原子力発電所1号機が再稼働した。国内33基の原発の中で運転年数が48年と最長で、12年後にはGX脱炭素電源法で制定された60年超運転の第1号になる。高浜1号機の停止期間は11年8カ月のため、総運転年数は71年8カ月に達する可能性がある。

  今後、革新軽水炉が2030年代中頃に稼働するために大きな障害となり得るのは、GX脱炭素電源法で原発の60年超運転を可能とした制度である。安全対策などで建設コストが1兆円規模となる革新軽水炉への建て替えに対して、電力会社は1千億円規模の投資で済む従来原発の運転延長を選択する可能性が高い。

 直近では、フランスで建設中のフラマンビル原子力発電所3号機(EPR、出力:163万kW)、フィンランドのオルキルオト原子力発電所の3号機(EPR、出力:160万kW)、米国ボーグル原子力発電所3号機(AP1000、出力:110万kW)の建設で、大幅な工期延長建設費の高騰が起きている。革新軽水炉でも同じ心配がある。

図15 40年ぶりに新設されたフィンランドのオルキルオト原子力発電所3号機

 政府が既存原発の60年超運転を認めたことで、国民は過酷事故対策の施されていない原発の延長運転によるリスクを背負わされた革新軽水炉を絵に描いた餅としないために、政府は電力会社と共に建て替える原発を明確にし、遅滞なく稼働させるため革新軽水炉の開発を加速する必要がある。
■ドイツは福島第一原発事故を契機に大惨事を引き起こす原発事故が再び起きないよう「脱原発」を推進し、2023年4月に完了した
■一方、火山・地震大国の日本は福島第一原発事故を教訓とし、原子力比率を極力下げるとしながら、革新軽水炉の開発を目指したが、既存原発の再稼働・運転延長に逆戻りしている。
 ドイツと日本、どちらの判断が正しいのか?少なくとも、目先の対応に終始する日本の現状では、将来を見通すことが難しい。

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