動き始めたEVの低価格化(Ⅰ)

自動車

 EVのボリュームゾーンといえるのは、400万~600万円台の大衆車である。このクラスのガソリン車は、100万~300万円である。EVの新車購入時には国・地方自治体による補助金などの優遇制度があるが、EVの価格はガソリン車の2~3倍と割高であなる。この高価格が一般消費者へのEV普及の妨げとなっている。

 そのため、米国・中国・韓国の大手EVメーカーは、ボリュームゾーンである大衆車の低価格化を推進しており、今後の競争激化が予測される。一方、国内では軽EVに注目が集まり、自動車メーカーは配送業のラストワンマイル向け商用軽EVの商品化を推進しており、2024年には各社の軽EVが出揃う状況にある。

EV普及に向けた動き

 右肩上がりに拡大してきたEV市場であるが、2023年11月、米国で、EV平均価格が2割低下し、EV各社の業績の悪化が報じられた。欧州でも、EV需要の下振れが懸念されており、今後のEV市場の伸びが鈍化するとの見方から、欧米の自動車メーカーで急速に設備投資の抑制などが始まっている。

 すなわち、2023年10月、ゼネラル・モーターズ(GM)は、2024年半ばまでに40万台を生産する目標を撤回した。フォード・モーターも計120億ドルとなる投資の実施を延期する方針を示した。

 一方、2023年10月、フォルクスワーゲン(VW)は、ドイツ東部ザクセン州の2工場で約2週間のEV減産を行い、11月には、中東欧で稼働を予定していた蓄電池のメガファクトリーの建設を延期し、EV主力工場ツヴィッカウの生産ラインの一つを3シフトから2シフトに減らすことを発表した。

 EV市場の減速は、充電網の不足長い充電時間EV価格の高さが原因と考えられるが、欧州では補助金の給付や税制優遇などのインセンティブが段階的に打ち切られたことが大きな影響を与えている。加えて、国内では電気料金の高騰で充電サービスの値上げが相次いでおり、新たな課題である。

航続距離と充電時間短縮

 2016年以降に、EV普及の目安とされていた航続距離:320kmを超える新型EVの市販が本格化した。航続距離はエンジン車との比較で常に問題視されてきたが、この課題を蓄電池の大容量化によりクリアしたことで、次の課題として充電時間の短縮化に注目が集まった。

 一般のエンジン車が給油に要する時間は3~5分である。しかし、EVの充電時間は、急速充電器の場合でも、航続距離:80~160kmを確保するために約15~30分が必要で、普通充電器(200V)では約4~8時間を要する。そのため、EVメーカー各社は急速充電に向けて動き出した

 2018年頃から、高出力充電対応のEVの商品化と急速充電設備の出力増強により、充電時間をエンジン車の給油並みに短くする動きが欧米のEVメーカーなどを中心に始まった。

  • ■2016年9月、米国GMの「Chevrolet Bolt EV(シボレー・ボルト)」が市販を開始した。蓄電池容量:60kWh、 航続距離:383km、価格:37495ドルである。
     2022年7月、電動SUV「Blazer EV(ブレイザーEV)」は、航続距離:397~515km、電池容量:100kWhで、最高190kWの急速充電器による10分充電で125kmの走行を可能とた。
  • 2016年10月、ドイツBMWの「i3」が市販を開始した。蓄電池容量:33~42KWh、航続距離:390km、価格:509万円であったが、2022年6月に生産を終了した。
     2022年2月、BMWはクーペタイプEV「i4 eDrive40」は、蓄電池容量:83.9kWh、航続距離:590kmで、150kWの急速充電による10分充電で150km以上の走行を可能とした。
  • 2017年10月、日産自動車が新型リーフの市販を開始した。蓄電池容量:60kWh、航続距離:2012年12月初代リーフの280kmから400kmに伸ばし、価格は315~399万円である。
     2021年新形リーフは、蓄電池容量:40kWh(航続距離:322km)と60kWh(450km)の2車種を発表。50kWの急速充電による10分充電で50km程度の走行を可能とした。
  • 2016年3月に予約注文を開始した米国テスラのBEV「Model 3」は、2019年5月に市販が始まった。蓄電池容量:79~82kWh、航続距離:354~498km、価格:35000ドルである。
     2022年にはロングレンジAWDで航続距離:689kmを公表した。250kWのスーパーチャージャーで15分充電で最大270kmの走行を可能とした。
図1 各種EVの蓄電池容量と航続距離の比較

EVの価格帯

 現在のEV価格は、300万円以下で購入できる軽EVや超小型EV、400万~600万円前後の大衆車、600万~800万円前後の高級車、1000万円以上の超高級車の4つの価格帯に分類できる。

 EVのボリュームゾーンは、400万~600万円台の大衆車である。このクラスのガソリン車の価格は、100万~300万円である。EVの新車購入時には国・地方自治体による補助金などの優遇制度があるが、EVの価格はガソリン車の2~3倍と割高である。この高価格が一般消費者へのEV普及の妨げとなっている。

 航続距離と充電時間に一応の目途が立ったことで、400万~600万円台の大衆車を対象とした、低価格EVで躍進を続ける中国の比亜迪(BYD)や、2022年に日本市場に再参入した韓国の現代自動車、2022年頃から価格最適化を始めた米国テスラモーターズの動向が注目される。

 一方、一部の中国EVメーカーが先行していたが、国内でも軽EVに注目が集まり、2022年度のEV販売台数は前年度比3.1倍の7.72万台に達した。普通EV(排気量660cc超)の販売台数は前年度比47%増の3.55万台であったが、軽EVは前年度比48.4倍の4.16万台で、EV販売に占める割合が3.4%から54%へと急増した。

 すなわち、2022年6月に発売された日産自動車の「サクラ」と三菱自動車の「eKクロスEV」の軽EVは、蓄電池容量を下げて価格を230万~290万円台(国からの補助金:最大55万円)に抑えたことで販売台数が急進した。多様な顧客ニーズに合わせたラインアップが重要であることが再認識された。

 価格帯100万~200万円の軽自動車は、国内で一定のニーズがあった。代替となるEVが商品化されていなかったことが、「サクラ」の販売台数急進の原因である。しかし、一般消費者は燃料費・メンテなども含めてガソリン車並みの低価格をさらに期待している。
 国内のEVが乗用車全体に占める割合は2.1%(前年度は0.72%)に留まっており、20%に迫る中国や欧州に比べ、EV普及は明らかに遅れているのが現状である。

図2 主要なEVの価格帯  出典:東京電力エナジーパートナー

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