持続的な成長のためには環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの観点を必要とするESGsの考え方が世界中に広まっている。そのため、欧州を中心にCO2排出量削減に向けた動きが急速に活発化し、脱石炭火力発電の動きが本格化している。
石炭火力発電所のCO2排出量
石炭火力発電は他の火力発電システムに比べて燃料単価が安い。2014年時点での発電コストは石炭火力発電が12.3円/kWhであり、LNG火力発電の13.7円/kWh、石油火力発電の30.6~43.4円/kWhに比べて経済性に優れている。
しかし、CO2の排出量は、図1のように石炭火力発電(平均)は943g-CO2/kWh、最新の超々臨界圧(USC)の石炭火力発電(600℃)でも881g-CO2/kWhである。石炭火力発電のCO2排出量が多いことは、石油火力発電の738 g-CO2/kWh、LNG火力発電の599 g-CO2/kWhと比較しても明らかである。
高効率のLNG焚ガスタービン・コンバインドサイクル発電(平均)は、CO2排出量を474g-CO2/kWhに低減でき、1500℃級ガスタービン・コンバインドサイクル発電では排出量を430 g-CO2/kWhとさらに低減できる。これがシェールガスを豊富に産する米国がLNG火力発電へ移行する理由である。
しかし、これらの火力発電によるCO2排出量は、原子力発電の20g-CO2/kWhや、太陽光発電の38 g-CO2/kWh、風力発電の25 g-CO2/kWhに比べると桁違いに多いことも事実である。今後もCO2排出量の低減が進められるには、如何に高効率化を図っても、火力発電の将来は決して明るいものではない。
世界で進む脱石炭火力発電所
持続的な成長のためには環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)が示す3つの観点を必要とするESGsの考え方が世界中に広まっている。その関連で、欧州を中心にCO2排出量削減に向けた動きが急速に活発化している。
すなわち、パリ協定による2020年以降の世界的な気候変動対策の強化を見越し、先進国では石炭火力発電所の廃止・抑制が進められている。それも2030年までの中期的な削減だけではなく、2050年という長期の削減目標も視野に入れている。
実際に世界銀行、ノルウェー政府年金基金、フランスの保険大手アクサ、日本の銀行・生命保険などの機関投資家が化石燃料関連からの投資撤退を相次いで表明した。
欧米の脱石炭火力発電所動向
2020年以降の世界的な気候変動対策の強化により、欧州を中心に「脱石炭火力発電所」と「再生可能エネルギーシフト」が急速に進み、石炭火力発電の世界市場は急速に縮小を始めた。
●フランスは2021年、英国は2025年、カナダとイタリアは2030年までに、石炭火力発電所の廃止
●石炭火力発電の割合が高いドイツも段階的廃止の完了時期を2030年に前倒し
●米国は豊富に産するシェールガスを燃料とするLNG火力発電への移行が進む見通し
一方で、アジアを中心とした多くの国々では、低コストの石炭火力発電所の増設が見込まれている。また、市場が急拡大している再生可能エネルギーに関しては、中国・韓国メーカーの参入により低価格化が急速に進み、世界的にみて石炭火力発電との価格競争でも遜色のないレベルに達している。
COP26, COP27での合意事項
COP26@英国グラスゴー
2021年10月、COP26では先進国(2018年度のCO2排出量335億トンに対する割合が米国14.7%、EU27カ国8.4%、日本3.2%、英国1.1%)が、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする目標で足並みを揃えた。
中国(同28.4%)やロシア(同4.7%)は2060年、インドは初めてCO2排出量の実質ゼロの期限として2070年を打ち出し、「気温上昇幅を1.5℃以下に抑える努力の追求を決意する」ことで合意した。
また、石炭火力発電の全廃を宣言する英国、フランスなど23カ国・地域に加えて、ポーランド、ベトナム、チリ、韓国など総計46カ国・地域が石炭火力発電の廃止を目指すことで合意したが、米国、日本、中国、インド、オーストラリアなどは石炭火力発電の廃止を表明しなかった。
COP27@エジプト
2022年11月、COP27では途上国が気候変動による異常気象で被る「損失と損害(ロス&ダメージ)」に特化した新基金の創設で合意した。基金の支援対象は「気候変動の影響に特に脆弱な途上国」に限定され、詳細はアラブ首長国連邦(UAE)で来年開催のCOP28で採択される。
また、ウクライナ侵攻など「地政学的な状況などを口実に気象変動対策を後退させるべきではない」と強調された。昨年と同様に「産業革命前からの世界の気温上昇幅を1.5℃以下に抑えるためにさらなる努力を追求する」、「排出抑制対策の無い石炭火力発電の段階的な削減に向けて努力する」とした。
日本は国際的な環境NGOネットワーク「気候行動ネットワーク(CAN)」が、気候変動対策に対して最も後ろ向きの国へ、皮肉を込めて贈る「化石賞」を受賞した。日本はCOP25(スペイン開催)、COP26(英国開催)に続いて3年連続の不名誉受賞となる。
日本の脱石炭火力発電所の動き
日本の石炭火力発電所の抑制
2020年7月、経済産業省が国内石炭火力発電所の計140基を対象に、1990年代前半までに建設された114基ある非効率発電所のうち100基程度を、2030年までに段階的に休廃止する考えを示した。電力各社の非効率石炭火力発電量に上限を設定し、徐々に上限を引き下げることで発電容量を縮小する。
・梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要 (METI/経済産業省)
ただし、北海道、沖縄、島嶼など電力環境に特殊な事情がある地域や、災害に備えた一部施設は事情を考慮する。脱石炭火力発電を目指す欧州の先進諸国からの批判をかわし、積極的に温暖化対策に取り組む姿勢を公表したもので大きな政策転換である。
しかし、あまりにも打つ手が遅く、全廃に向けて動き出した欧州に比べて手緩い感は否めない。一方で、新型の高効率発電所26基に関しては維持・拡大、また、LNG火力発電の拡大に加えて、再生可能エネルギーや原子力発電所の再稼働を進めるとした。
2050年カーボンニュートラル
日本は短期的には2020年時点の温暖化ガス排出量を2005年比で3.8%以上の削減、中期的には2030年に2013年に比べて26%の削減、長期的には2050年に2013年比80%を削減する目標値を示していたが、2020年10月には「2050年カーボンニュートラル」を宣言している。
その達成には火力発電の中でもCO2排出量の多い石炭火力発電所の抑制と高効率化が必須で、非効率石炭火力の廃止だけでは目標を達成できない。一方で、石炭火力発電所の新増設計画は多く、環境問題から地元の反対による訴訟リスクが顕在化し始めている。
2018年4月には国際環境団体(RAN:Rainforest Action Network)が、中国の銀行や日本のメガバンクが石炭火力発電事業に合計939億ドルと総融資額の1/2以上を融資しているとの分析結果を発表し、日本に対する石炭火力発電事業への国際的批判が強まった。
2019年4月には、メガバンクの三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループは、2015年のパリ協定採択後の3年間で合計1,860億ドルを世界の化石燃料部門に資金提供したことが発表された。
その結果、2019年5月に三菱UFJフィナンシャルグループ、2020年4月にはみずほフィナンシャルグループおよび三井住友フィナンシャルグループが新設の石炭火力発電へのファイナンスを原則停止する方針を表明した。
第6次エネルギー基本計画
2021年10月には、エネルギー政策の基本的な方向性を示す第6次エネルギー基本計画が策定され、地球温暖化対策計画と共閣議決定された。
図2で示すように第6次エネルギー基本計画では、2030年度の電源構成で総発電量に占める割合を化石燃料発電の割合を、石油火力発電が2%程度(2015年策定時は3%程度)、石炭火力発電が19%程度(同26%程度)、LNG火力発電が20%程度(同27%程度)と大幅に抑制している。
一方で、再生可能エネルギーが約36~38%程度(2015年策定時は22~24%程度)と大幅に拡大し、新たに水素・アンモニアによる発電の約1%程度を追加、原子力発電は約20~22%程度(同22~20%程度)と据え置き、非化石電源合計で59%程度(同44%程度)を目指すとしている。
なお、総発電電力量は約9340億kWh程度(同1兆650億kWh程度)と示された。すなわち、2030年に向けた政策対応のポイントは「徹底した省エネルギー」と「非化石エネルギー(脱炭素電源)の導入拡大」の2つの戦略により、目標値の実現を目指すものである。
今後の火力発電の進め方
2000年以降、日本経済の低成長により国内の電力需要は明らかに伸び悩み、2016年4月の電力自由化により電力会社の競争が激化している。加えて、ESG重視により資金調達が困難となる。このような状況下で、電力会社には火力発電への巨額投資を回収するストーリーが描けない。
実際に、再生可能エネルギー発電の増大により火力発電の稼働率は確実に下がり、出力変動対策用にCO2排出量が低く負荷変動追従性に優れたLNG火力発電が、電力貯蔵システム構築までの移行期対策として需要が増している。
今後、高効率火力発電が採用されるためには、経済性に優れたCO2回収・貯留(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)設備の付帯が不可欠となる。CCSに関しては1990年代から研究開発が進められてきたが、最近では分離回収したCO2の有効利用が必須課題とされている。
実際にCO2回収・利用・貯留技術(CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)、さらにはカーボンリサイクルの重要性が指摘されている。安価と言われてきた火力発電であるが、今後はCCSあるいはCCUSを含めたコスト評価が必須である。
一方で、従来の火力発電システムの体系を大きく変えることなく、CO2排出量を抑制するために、化石燃料の代替の検討が進められている。
すなわち、バイオ燃料によるバイオマス火力発電や、次世代に向けた水素燃料による水素燃焼タービン、水素燃料電池や、アンモニア燃料によるアンモニア直接燃焼ガスタービンの開発などである。
バイオ燃料に関しては、大量・安定供給が課題である。また、水素燃料・アンモニア燃料は化石燃料由来では本末転倒であり、再生可能エネルギーにより製造されたグリーン水素であることが重要である。しかし、いずれの燃料にしても低コスト化が大きな課題である。