何故、急速に高まる核融合熱!(Ⅵ)

原子力

 欧米を中心に核融合の民間投資はスタートアップ企業に集中し、核融合発電の開発の主体は民間に移りつつある。特に、米国の核融合スタートアップは25社と飛びぬけて多く、英国、ドイツ、日本がそれぞれ3社で続いている。
代表的な核融合スタートアップの開発動向について、レビューを進める。まずは、米国TAE Technologies(TAEテクノロジーズ)から。

世界の核融合産業2023年版報告書

 2023年7月、米国の核融合産業協会(FIA:Fusion Industry Association)は、2023年版報告書を発表した。世界での核融合産業への投資金額は、この1年で14億ドル増加し、累計で62億ドル(約8600億円)を超えた。民間投資が約59億ドル、残りが政府など公的機関からの投資である。
 民間投資はスタートアップ企業に集中しており、核融合発電の開発の主体は民間に移りつつある

 FIAが把握した中で、大型投資を実現したのは米国TAE Technologies(2.5憶ドル)と中国ENN(2億ドル)の2社で、核融合スタートアップへの小規模投資事例として京都フュージョニアリング(7900万ドル)、Focused Energy(6700万ドル)などの名があげられている。

 また、核融合企業として合計43社の名前をあげており、昨年から13社が新たに加わり、3社が廃業(ただし技術移転済み)した。日本のベンチャーは京都フュージョニアリングHelical FusionEX-Fusionの3社の名があげられている。

図8 2010年代に入り企業が急増している核融合企業 出典:核融合産業協会

 世界の核融合スタートアップの多くは、それぞれ核融合炉の実現時期を示している。すなわち、43社中25社が2035年までに最初の核融合プラントを開発し、送電網への電力供給を目指している。一方、ITERは2030年以降に5万kWの加熱で50万kWの熱出力を得るのが目標で、発電を計画していない

 ただし、「大半の企業が、核融合の出力効率の達成、プラズマ科学の解決、熱管理に関する技術的な科学と工学の課題がまだ多く残っている」と、技術的な課題があると指摘する。また、燃料のトリチウムの確保を、2030年までの大きな課題としてあげる企業も多い。

スタートアップ企業の動向

スタートアップの多くは2010年代後半以降に現れた。世界で2014年の10社程度から2021年で約50社に増え、民間投資は年々増加傾向にある。特に、米国の核融合スタートアップは25社と飛びぬけて多く、英国、ドイツ、日本がそれぞれ3社で続いている。

図9 世界の核融合企業マップ  出典:The global fusion industry in 2023

米国TAE Technologies(TAEテクノロジーズ)

 1998年にカリフォルニア州で設立されたTAE Technologiesは、2014年にGoogleと提携してプラズマ制御にAI技術を生かし、磁場反転配位(FRC:Field-Reversed Configuration)という独自の磁気制御方式によるプラズマ閉じ込め技術を開発している。
 2022年8月末の段階でGoldman Sachs、Google、Chevronなどから、合計12億ドルの資金調達を達成し、2022年に実証炉、2020年代後半の商業運転(出力:350-500MWe)を目指す。既に第5世代の実験装置を開発済みで、2025年頃に第6世代の装置「Copernicus」も稼働する見通しである。

 2021年4月、反応後の中性子の発生を抑えるため燃料に陽子とホウ素を使うFRC型プラズマ方式核融合反応で、5000万℃以上の安定したプラズマを生成している。同年9月にはヘリカル型核融合実験炉(LHD)を開発している核融合科学研究所(NIFS)と技術提携した。

 FRC型プラズマ方式では、ドーナツ形状の磁力線に閉じ込められたプラズマを2つ発生させ、リニアモーターの原理で高速突させて超高温・超高圧を実現し、核融合反応を起こさせる。従来のトカマク型核融合に比べて、弱い磁場で超高温・超高圧のプラズマを閉じ込めが可能である。

図10 FRC型プラズマ方式核融合ではドーナツ形状の磁力線に閉じ込められた
プラズマをリニアモーターの原理で高速衝突させる 出典:日経クロステック

 FRC型プラズマ方式の最大の利点は、核融合反応で高速中性子を出さない燃料を使える点である。従来のトカマク型核融合では、高速中性子による炉壁の放射化が大きな課題になっている。この放射化に耐えられる炉壁材料の開発に目途が立たず、定期的な交換が基本となっている。
 また、コイルにプラズマを通すことでファラデーの電磁誘導の法則により発電できるとしており、高々50%の蒸気タービンによるエネルギー変換効率を著しく改善できる可能性がある。

 2022年7月、第5世代の核融合研究炉「Norman」で7500万℃を超える安定したプラズマ制御が行えたことから、正味のエネルギー利得(Net energy gain)を実証する第6世代研究炉「Copernicus」の建設資金を調達するのに十分な戦略的・組織的投資を確保できたと発表した。

 高速中性子を出さない燃料として、一般的な水素イオン(p)と天然に産出するホウ素(11B)を利用する計画(p-11B反応)で、核融合反応で発生するのはヘリウム(He)とアルファ線である。他の放射線に比べて、アルファ線は透過力が弱く、薄い紙一枚で止まるため取り扱いが容易である。
 その他、FRC型プラズマ方式は、D-T、D-He3、D-Dなどの核融合反応にも対応が可能である。

 2023年2月、TAE Technologiesと日本の核融合科学研究所は、放射線リスクのない核融合を世界で初めて実証した。LHDを使い高温プラズマ中で軽水素(プロチウム、pまたは1H)とホウ素(11B)を核融合させ、生成した高エネルギーヘリウム(アルファ線)を検出して核融合反応を確認した。

 2025年頃に稼働する第6世代の装置「Copernicus」に次ぎ、商用化を目指し第7世代の装置「Da Vinci」を2030年代前半に稼働させる計画で、衝突させたプラズマを一定時間安定して維持するため、中性粒子ビーム入射加熱NBI : Neutral Beam Injection heating) 装置の増強を計画している。

図11 TAE technologiesの第6世代の核融合装置「Copernicus」
 出典:TAE technologies

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